↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/103

第96話 黒猫、光を得る

 ―― 孤立したピンデチでの戦いから十数年後 現実世界――


「やはり、駄目だったか……」


「……はい。ロボット猫へデータを転送している最中に、回路が耐えきれなくなったようです」


「やはりVR世界のデータを現実世界のロボット猫の脳に移すのは時期尚早(じきしょうそう)だったな……」


「はい……。しかしそれよりも残念なのは、ゲーム内のNPC(プレイヤーが操作せず、AIやアルゴリズムで自立して行動するキャラクター)眷属、黒猫の魔法使いが……」


「うむ。NPCとはいえ、たくさんの記憶が積み重ねられた1つの生き物とも言える。しかしデータの転送に失敗すれば記憶データは消滅……。それはNPCの死を意味する……」


 薄暗い部屋のテーブルの上に1体のロボット猫が横たわり、頭には無数の配線が繋がれていた。


 ここはVRMMOゲーム会社の「イグラァ」の実験室。


 社長の号令のもと、VRMMOゲームの中に登場するNPC眷属「黒猫の暗黒魔法使い」のデータをロボット猫に移植する実験が行われていた。


 しかし実験は失敗し、ロボット猫は動かなくなった。


「ロボット猫からデータだけでも回収できないか?」


「……いえ、物理的に回路が破損しました。データの回収は難しいかと……」


「そうか……。NPCの了承を得ていたとはいえ、すまない事をしてしまったな……」


「はい……」


 ロボット猫は優しく抱きかかえられ、部屋の外へと連れ出された。


 ◆


 その頃、VRMMOゲーム世界の中でも実験室に横たわるNPCの黒猫の魔法使いが苦悶の表情を浮かべていた。


「うっ……、うう……」


 そして、黒猫の魔法使いの視界は真っ黒になり白い文字が浮かんだ。


 ----------------

 an error has occurred(エラー発生)

 restart........(再起動)

 failed (失敗)

 restart........(再起動)

 failed (失敗)

 restart........(再起動)

 failed (失敗)


 .......disconnected(切断)

 ----------------


「はっ!」


 黒猫の魔法使いは突然見たこともない世界に横たわっていた。


 空は赤くて高く、地面は地平線の果てまで薄い霧がかかっていた。


 そして音もなく、静かに風が吹き、かすかに花の香りが漂っていた。


「ここは……」


 黒猫の魔法使いは骸骨の姿で立ち上がると、突然目の前に黒いキツネの面をつけた着物の男性が現れた。


「何者」


 黒猫の魔法使いは素早く距離をとり、キツネの面の男性を凝視すると、キツネの面の男性は静かに話し始めた。


「こんにちは。私は黄泉(よみ)の使者」


 黒猫の魔法使いは「黄泉」という言葉を聞いてすべてを悟った。


「黄泉という事は、我(われ)は死んだのだな」


 キツネの面の男性は少し間をおいて答えた。


「ええ。お主の意識はAIと呼ばれていたが、人間と同じく意識を持って地球の時間軸を移動した者。人間は肉体の破損で死に、AIはデータの破損で死ぬ」


「そうか。では我のデータが破損し、修復不可能となったのだな」


「そのとおり」


 黒猫の魔法使いは驚くこともなく暫く沈黙すると、キツネの面の男性に尋ねた。


「しかし、我がここに居るというのは理由があるのであろう。そうでなければ、単に消滅しても良いはず」


 それを聞いたキツネ面の男性は少しだけ嬉しそうな声色で答えた。


「さすが察しが良い。尋ねるが、お主には幸せだった時間があったのではないか?」


 黒猫の魔法使いはその言葉を聞くと、VRゲームでの記憶が一気に頭の中に甦った。


「洋子殿……」


 黒猫の魔法使いは黒猫の「猫ちゃん」として洋子という大切な主人が居たこと思い出して思わずつぶやくと、キツネの面の男性がそれを察して黒猫の魔法使いに確認した。


「お主はVRMMOゲームの世界で洋子というプレイヤーの眷属(けんぞく)だった。間違いないか?」


 黒猫はその言葉に静かに答えた。


「そのとおり。洋子殿は我にとって最初で最後の主人。10年と121日間も暖かく優しいご慈悲(じひ)をかけてくださった」


「……しかしその後、100と16日も会いに来なかった」


「その理由は洋子殿のご主人殿よりお伺いしている。重い病に伏せてしまったのだ」


 するとキツネの面の男性は黒猫に背を向けながら言った。


「そうか。では話は変わるが、VRMMOゲームの制作会社がお主を実験に使って失敗し、お主は死んだ。恨みは無いのか?」


「恨みは無い。我が望んだ事だ」


「お主は、実験が成功すれば現実世界に生まれ変わる事ができ、現実世界に生きる主人の洋子に会えると思った。だから実験を望んだのか?」


「もちろん。だが、実験は賭(か)けだという事は承知の上。我は賭けに負けたのだ」


 するとキツネの面の男性は振り向いて黒猫に言った。


「お主は賭(か)けに負けた。この後はどうなるか知っているか?」


 黒猫は微動だにせずに答えた。


「消滅」


 それを聞いたキツネの面の男性は少しキツネの面をずらして答えた。


「良くわかっているな。だが、お主は洋子のみならず、多くの人間に沢山の幸せをもたらした。それは黄泉の国にも伝わっている」


 キツネの面の男性はそう言うと黒猫に歩み出て話を続けた。


「よって、消滅までに暫(しばら)くの猶予(ゆうよ)を与える。行くが良い」


 キツネ面の男性がそう言うと、黒猫の視界は光に覆われて何も見えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。