VRおじいちゃん・パート2♥おしまい1
翌日、G区画の家の2階で柔道の朝練が始まると、かつてイリューシュがガチャで引き当てた丸い鳥のピピちゃんが、テーブルの上からララガのお母さん、ララ助、スノたん、シロたんに向かって話し始めた。
「皆、気づいているとは思うが、私は元魔城のルシフェル。専務の大谷によってピピちゃんとして生まれ変わった。この件は内密に頼むが、これからよろしく頼む」
「はい」
「うん!」
「はっ!」
「承知です」
するとララ助は嬉しそうにピピちゃんのルシフェルに近づいきながら尋ねた。
「ルシフェルは一番つよいんだよね! どんな事ができるの?」
「どんな事? ……そうだな」
するとピピちゃんのルシフェルは体全体から禍々《まがまが》しいオーラを放ち、なんと大広間の空間を捻じ曲げていった。
「うわわわわ!」
予想外の異常事態にララ助が驚くと、ピピちゃんのルシフェルはすぐに術を解いて元のピピちゃんに戻りながら言った。
「私の魔法はこのようなものだ。そして、なぜか戦闘禁止区域内でも魔法が発動できる。まぁ、この魔法を人間に見破られると次こそはこの身が危ないゆえ、大人しくしておくつもりだがな」
するとその時、突然2階からアカネが駆け下りてきた。
「……あれ、おかしいなぁ? とくに……、何もないよなぁ。うーん……、なんだったんだろ、さっきの重たい感じ」
アカネの目の前には寝たふりをしているピピちゃんと、お母さんに毛づくろいされているララ助、そして微妙に不自然にテーブルを拭いているスノたんとシロたんがいた。
アカネはそれを確認すると2階へと戻って朝練を再開した。
◆
その日のお昼頃、G区画の家にはおじいさんとめぐ、そしてイリューシュがやって来て、朝練を終えてくつろいでいた大熊笹と黒ちゃんとアカネ、そして茂雄もタッちゃんとのトレーニングを終えて大広間にやって来た。
そしてスノたんとシロたんも参加して、みんなで茶を淹れたりお菓子を用意したりして、みんなでワイワイ大広間でお喋りを始めた。
アカネはアイテム欄をスクロールしながら黒ちゃんに言った。
「なぁ黒ちゃん、装備とか残ってた? あたしレッドドラゴンの道着は残ってたんだけど、なぜかオロチレガースとかっていう使えない防具が入ってるんだけど」
「なんとアカネ、それは本当か? もしよければ、オロチレガースとドラゴン大福を交換しないか?」
「まじで! もちろんいいよ! あとで外に出た時に『捨てる』で渡すね」
「おお、助かったぞアカネ。オロチシリーズはイベント物なので制限なく装備できるのだ。持っていたのだが消えてしまってな」
黒ちゃんはそう言ってアカネにドラゴン大福を送信すると、思い出したように今度はイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、私のアイテム欄に風切りの弓というものがあったのですが、イリューシュさん、お使いになりますか? 矢も大量にあるのですが」
それを聞いたイリューシュは笑顔になって答えた。
「ええ、とても助かります黒ちゃんさん。頂いてもよろしいのですか?」
「はい、もちろんです。なぜか我らのアイテムはシャッフルされてしまったみたいですし、おそらくこれも元々イリューシュさんの物かと」
「ふふふ、おそらくそうですね。ですが、まさかこのような事になるだなんて思いもしませんでしたね」
「ええ、まさにその通りですね。ステータスも我々全員だいぶ低くなってしまいましたし、メインクエストも最初からのようですし。そうなると、今この場で一番強いのはスノたんさんでしょうか。眷属さんたちはステータスがそのままみたいですので」
黒ちゃんの言葉に皆が一斉にスノたんのほうを見ると、スノたんはなんとなく微妙な表情になってテーブルの上のピピちゃんをゆっくりと見つめた。
スノたんに見つめられたピピちゃんのルシフェルは誤魔化すように可愛く鳴いてみた。
「ぴぴ、ぴぴぴぴ?」
イリューシュは、何となくぎこちないピピちゃんを不思議に思いながらも、おじいさんや大熊笹、茂雄に装備の事を尋ねてみた。
「ひろしさん、大熊笹さん、茂雄さん、みなさんは装備はいかがですか?」
「いやぁ、ベストピッチャー賞のジャージが残っていましたので、わたしは大満足です。ははは」
「私は道着さえあれば何でもかまいませんからな。はっはっは」
「僕は一通り揃っていました。運が良かったです」
するとアカネは隣にいためぐに尋ねた。
「めぐはどうだった?」
「うーん。片手剣はぜんぜん残ってなかったんだけど、挑発の盾だけは残ってたんだよね。でもわたし攻撃しないし、これで良かったのかも」
「あ、そっか。めぐはタンクだもんな!」
「うん。結構ステータス低くなっちゃったけど、なんだかタンクって面白いっていうか、自分に合ってるっていうか。だから、これからもタンクやってみたいんだ」
「さっすが、めぐ! レアな魔法剣士のタンク様だもんな!」
アカネがそう言うと、今までアカネの横に座って大人しく頑張っていたタッちゃんが、もぞもぞし出した。
するとそれに気づいたアカネが笑いながらタッちゃんに言った。
「お? タッちゃん、そろそろ我慢できないんでしょー」
アカネがそう言うと、タッちゃんは下を向きながら小さい声で答えた。
「そ、そんなことないぞ。おれはちゃんと我慢できる良い子だ。モンスター倒しに行きたいなんて言わない」
「ははは! なんだよタッちゃん、しっかり言っちゃってるじゃんか。まぁ、さっきみんなで一緒にモンスター倒しに行こうって話してたもんな」
「う、うん。でも」
「おっし! じゃあ今から、サンドワームのちっちゃいほうを倒しに行こうよ! みんなもいいよね!」
アカネがそう言うとそこに居たみんなは笑顔で快諾した。
◆
その頃、ピンデチふれあい苑を守りきったレインたち5人はメインクエストの第1章を進め、ボスのドラゴンの部屋で奮闘していた。
レインは鉄の両手剣で辛うじてダメージを与えると、スキルが使えなくなってタイミングが合わなくなったキョウコがつまずくようにドラゴンの足先に剣を当てた。
レインとキョウコは慌てて後退すると、レインは笑いながらキョウコに言った。
「あははは。ぼくたち全然だめだめだね」
「しょ、しょうがないだろ! セーブデータが飛んじまったんだから」
「でも楽しいね。最初の頃は、こうやってみんなでドキドキしながら戦ったもんね」
するとそれを聞いていたニジも嬉しそうに言った。
「うふふ。じゃあ、わたしも必殺の魔法を出しちゃおうかな。もちろん炎の大呪文だけど」
ニジは笑顔で炎の大呪文を唱えると、ぼんやりとした大きな火の玉がゆっくりと飛んでドラゴンに当たり、ドラゴンにダメージを与えた。
それを見たズドンとテッペキも笑いながらドラゴンに突撃していった。
◆
その頃、ピンデチのショッピングモールにあるスマイル道具店ではいつものようにおばあさんたちが接客をしていた。
「どうもありがとうございました、また来てくださいね」
「うん、いつもありがとう。また来まーす!」
おばあさんはお客さんを見送るとカウンターにいるマユとメイに言った。
「うふふ。やっぱり、いつも通りにお店に出ているのは楽しいわね」
「うん、ほんとにそうだよね洋子ちゃん」
「だね! それにポンちゃんも元気でわたしも元気!」
メイはそう言うと、カウンターの隅でアルマジロにくっついてまん丸になっているポンちゃんを優しく撫でた。
するとその時、ナミが岩キノコの採集から帰って来た。
「ただぃま」
「「おかえりー!」」
みんながナミを迎えると、同じく砂漠キノコを採集してきた和代と美咲、そしてピンデチふれあい苑とのコラボ商品の商談をしてきた哲夫が一緒に帰って来た。
「もどりました」
「ただいま」
「いやぁ、戻りました」
「「おかえりー!」」
こうしてスマイル道具店のメンバーが全員集まると、マユはいつも通りの光景に、みんなを見渡しながら静かに笑顔を浮かべて呟いた。
「うん。何があったって、みんなが居るだけで良いよね。やっぱりスマイル道具店はこうじゃないと」
こうしてスマイル道具店はいつもの笑顔と日常を取り戻したのだった。




