第93話 ひろし、お揃い
その頃、ゲームの運営会社イグラァでは専務の大谷が完璧な修正プログラムを完成させ、メインサーバーのAIと話していた。
「どうだ。このならばお前の利害とも一致するはず。そしてピンデチに残されたプレイヤー様たちの眷属の動物も救える」
するとメインサーバーのAIは暫く沈黙した後、大谷に答えた。
「はい。確かにそのようです。私では想像もつかない方法でした」
「ふっ。君は優秀なAIだ。しかし、過去の事を学習して昇華させる事しかできない。ちがうか」
「はい、その通りです」
「しかし人間には、遊び心というものがある。その遊び心から生まれた発想はAIでも思いつかないだろう」
「はい。現在のところ、その意見は正しいです」
「まぁ、とにかく孤立したピンデチのプレイヤー様たちを、できる限りデータを保持したままバックアップ・メインサーバーへ移す。そして後日メインサーバーをクリーンアップしたのちにメインサーバーへと戻す。異論はないか」
「はい」
「では、ピンデチのプレイヤー様たちの移動を実行してくれ。ピンデチに残されたプレイヤー様たち全員が出現できる適当なスペースはあるか」
「はい。ピンデチふれあい苑へと続く道には現在誰もいません」
「よし、ではそこへ移動してくれ」
「はい」
◆
「えっ!? なにこれ!?」
「あ……、あれ?」
「????」
おじいさんたちは全員、ピンデチふれあい苑へと続く道に出現した。
そこにいた全員は無事に元のゲームの世界に戻ってこれたと理解したが、アカネは異変に気付いて声をあげた。
「あれ!? あたしミニスカロック女子なんだけど! ってか、じいちゃん、熊じぃ、茂じぃ、なんで色違いのお揃いジャージ!?」
するとその時、遠くから声が聞こえた。
「い! いやーん!!」
なんとなぜかアーボンは全裸だった。
「きゃあーー!」
「ァーボン変態」
「わ、ちょっ!」
マユたちが騒ぐと、同じく裸だったタッちゃんが嬉しそうにアーボンに駆け寄って笑いながら言った。
「ははは! アーボン、おれと一緒!」
それを見たマユたちはアーボンとは打って変わって笑顔でタッちゃんに言った。
「はいはい何か着なきゃね」
「ぅん。でも、元気でぃい」
「タッちゃん元気だねぇー」
タッちゃんは嬉しそうにアーボンの尻をペシペシと叩くと、アーボンは慌ててアイテム欄に残っていた派手な服を装着して呟いた。
「はぁ……。同じ裸でもタッちゃんは可愛いよなぁ。ってか、おれのアイテムぜんぜん無くなってるじゃんか。まぁ覚悟はしてたけどな……、ってハデス! そうだハデス! ハデスは!?」
アーボンが慌てて辺りを見回すと、静かに笑顔を見せているハデスを見つけた。
「ハデス!! ハデスー!!」
アーボンは涙を流しながらハデスに走り出すと、アーボンとすれ違うように茶太郎と虎次郎、そしてポンちゃんが走っていった。
そして茶太郎はアカネの元へ全速力で、虎次郎はマラツンの元へゆっくりと、ポンちゃんはメイめがけて短い足で一生懸命走り出すと、それに気づいたメイは大粒の涙を流しながらポンちゃんを迎えに走った。
「ポンちゃん! ポンちゃーん!!」
メイはポンちゃんは優しく抱えあげると、ポンちゃんは嬉しそうにメイの涙を舐めてハフハフした。
そして手足をパタパタさせながらメイの首に噛みつくと、一生懸命メイのHPとMPを回復しようとした。
その時メイは、自分のHPとMPの最大値がゲームを始めた時のように少なくなっている事に気づいた。
しかしメイは献身的なポンちゃんに感動すると、ポンちゃんを優しく撫でながらポンちゃんに言った。
「ポンちゃん、もう大丈夫ぶだよー。ははは、ありがとねー。わたしのHPもMPも少なくなっちゃったからね。うんうん、もう大丈夫……、って、え? あれ? ちょ、ポンちゃん?」
なんとメイのHPとMPは最大値まで回復したが、なんと少しづつ最大HPとMPが増え続けていっていた。
「えっ! てかポンちゃん、HPとMPがどんどん増えてるんだけど! ちょ、ポンちゃん!?」
そして結局、メイのHPとMPの最大値はいつもと変わらないくらいになっていた。
◆
しばらく後、ピンデチのショッピングモールでスマイル道具店の店番をしていた黒猫は、哲夫の姿で笑顔を浮かべながら閉店の準備をしていた。
黒猫は丁寧に在庫を数えて在庫帳に記入していると、その耳に暖かく優しい声が聞こえてきた。
「猫ちゃん、ただいま。急にお店を空けてしまってごめんなさいね」
その声は、おばあさんの優しい声だった。
「洋子殿!!」
黒猫は思わず骸骨の姿に戻ってしまうと、次の言葉を発することもできずに固まった。
しかし次の瞬間、黒猫は絶望に突き落とされるような事に気が付いて思わず言葉を漏らした。
「洋子殿……、まさか、我との契約……、が……」
すると、おばあさんは満面の笑顔で答えた。
「うふふ、そうみたいね。だって猫ちゃんに眷属のマークがついていないのだもの」
「……!! あの運営会社は何という事を! 許さぬ! 許さぬぞ!」
黒猫が激高すると、おばあさんは黒猫の手を優しく握って黒猫に言った。
「怒らないで猫ちゃん。これでやっと本当のお友だちになれるわ。それとも、私とお友だちは嫌かしら」
「そ、そんな訳があるわけがありません洋子殿! 洋子殿は我の永遠の主人! ドラゴン殿も間違いなく同じ想いでございます!」
それを聞いたおばあさんは目に涙を浮かべると安心したように黒猫に言った。
「うふふ、良かったわ。もし、猫ちゃんとドラちゃんに『もう眷属ではないので失礼します』なんて言われたらどうしようかと思って」
「なっ! 何をおっしゃいます洋子殿!! 我はこの命の限り、洋子殿にお仕えする眷属……、いえ……、いや……、お仕えする……、その……、ご友人に……」
黒猫がそう言い直すと、おばあさんは満面の笑顔になって黒猫の手を強く握った。
そしてウンウンと頷くと、黒猫に言った。
「じゃあ、猫ちゃん。ドラちゃんにも会いに行かなくちゃならないわね。久しぶりに猫ちゃんの背中に乗せてくれるかしら。転移魔法が使えなくなってしまって」
黒猫はおばあさんの言葉に無上の幸せを感じると、カウンターから飛び出しながら大きな猫の姿になり、おばあさんの前に嬉しそうに伏せておばあさんを背に乗せた。
◆
その頃、ゲーム運営会社のイグラァでは今回の件に関して緊急の取締役会議が開かれていた。
会議では今回の件で知ることになった、ボス級AIが疲弊している件や、ボス級AIが本気を出せばメインサーバーも一部ハッキングできてしまう事などが話し合われた。
そして、ボス級AIが疲弊しないよう、もっと単純で感情を持てないくらいのAIを使い、攻撃や防御もプレイヤーから入力される攻撃に対しての反射で反撃するよう試してみることにした。
さらに、今回の件で強制的にログアウトしてしまったプレイヤーや緊急ログアウトに応じたプレイヤーへの補償について多岐にわたる選択肢から深く話し合われ、会議は終わろうとしていた。
しかし、会議の最後に常務にあたる鶴居田が社長に提案をした。
「社長。意見があります」
「鶴居田くん、言ってみてくれたまえ」
「はい。今回の件で、メインサーバーAIが強大な権力を持っていると認識しました。我ら運営会社の人間の言うことも完全には聞かなかったと耳にしました」
「うむ。そのとおりだ」
「今回、このような暴走騒ぎが出た以上、もっとメインサーバーAIを従順で聞き分けの良いAIに変更することを提案します。これは我が社とプレイヤー様たちの安全のためでもあります」
「……ふむ。鶴居田くん、君の言う事はもっともだ。しかし、暴走するのはAIに限っての事だろうか」
「……。と、申しますと……」
「例えばメインサーバーAIを従順で聞き分けの良い、人間の奴隷のようなAIにしたとする。そうなれば、暴走するリスクが高いのは人間のほうだとは思わないか?」
「……」
鶴居田は社長の言葉に黙ってしまうと、社長は柔和な表情で話を続けた。
「今はAIと共存する時代だ。AIも人間も共に暴走して他人を傷つける可能性がある存在。ならば、お互いがお互いを監視して理解し、共栄をめざすのが良いとは思わないか?」
「……はい。……その通りです」
鶴居田は社長の言葉に納得して答えたが、やはりもう一言言いたくて社長に言った。
「ですが社長。今回の件でピンデチに取り残されたプレイヤー様たちはセーブデータが不完全な形で再現され、皆さまお困りなはずです。いくらAIのトラブルとはいえ、この方々は……」
鶴居田がそこまで言うと、社長は凛とした表情で答えた。
「その件は現在、社外秘の特命プロジェクトとして対策をとっている。今もエンジニアチームが総出で彼らのログと行動記録の断片を探している。そう遠くないうちに彼らのセーブデータは限りなく元の状態に復元できるだろう」
社長がそう言うと、会議に参加していた取締役たちから大きな拍手が巻き起こった。




