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第92話 ひろし、弾く

 その頃G区画の砂浜では、おじいさんたちに押されているモンスターたちが新たな戦法に打って出ていた。


 なんとサイクロプスたちが、たくさんのハンマーゴリラたちをおじいさんたちに投げつけ、前衛を通り越して後衛から崩そうとしたのだった。


 身長1.5mくらいのハンマーゴリラたちは、地面に叩きつけられて数匹は絶命したが、HPが残っていたハンマーゴリラたちは一斉に後衛のおじいさんやイリューシュたちに襲い掛かって来た。


 それに気づいたイリューシュは咄嗟に賢者スキルの足鳴らしの氷壁で攻撃を防いだが、おじいさんは対応しきれずに思わず火薬玉を投げつけようとした。


 しかし、至近距離で火薬玉が破裂すれば味方にダメージが出てしまうと気づき、咄嗟に頭を抱えでしゃがみ込むんだが、ハンマーゴリラは容赦なくおじいさんの頭を狙ってハンマーを振り下ろした。


 ブンッ!!

 ボヨン……


 だがその時、おじいさんが身に着けていたスライム・キャッチャー・プロテクターがハンマーゴリラの攻撃を弾き返した。


 おじいさんはキャッチャー・プロテクターの事を思い出して少しだけホッとしたが、おじいさんに攻撃が効かなかったハンマーゴリラは狂ったように連打を仕掛けてきた。


 しかしその瞬間、


「やぁぁああああ!!!」


 なんとタッちゃんがハンマーゴリラのハンマーを絡めとるように腕で巻き込み、見事な一本背負いを決めた。


 ドシャッ!!!

 シュゥゥゥウウ……


 すでにサイクロプスに投げ飛ばされたダメージでHPを減らしていたハンマーゴリラはタッちゃんの一撃で消滅していった。


「ひろし! 大丈夫か!」


 タッちゃんの見事な一本背負いを見たおじいさんは、思わずタッちゃんの成長に涙ぐみながらタッちゃんに答えた。


「タッちゃん……。ほんとうにありがとう。タッちゃん、とっても強くなりましたね。タッちゃんに助けられました」


 すると、おじいさんに褒められたタッちゃんはニカッと笑っておじいさんに言った。


「おれ、ひろし助けたのか! ほんとうか!?」


「ええ、タッちゃんが来てくれなかったら危なかったかもしれません」


「あははは! やったやった! おれ、ひろしの役にたった!!」


 しかしその瞬間、タッちゃんの背後から2体のハンマーゴリラが襲い掛かった。


 それを見たおじいさんはタッちゃんに叫んだ。


「タッちゃん、危ない! うしろです!」


「えっ!?」


 しかしタッちゃんが振り向いた時にはすでにハンマーゴリラのハンマーはタッちゃんの顔の前までに迫っていた。


「あっ!!!」


 タッちゃんが思わず目をつむってしまうと、


「やぁぁああああ!!」

「はい、よいしょぉ!」


 なんとアカネと大熊笹がタッちゃんに迫っていたハンマーゴリラを投げ飛ばして消滅させていた。


 タッちゃんはそれを見て満面の笑顔になると、アカネと大熊笹にお礼した。


「アカネ、熊じいちゃん!! おれ油断した! ありがとう!」


 それを聞いたアカネと大熊笹は笑顔を見せながら答えた。


「ドンマイ、ドンマイ! だって今日がタッちゃんの初めての戦いだからね!」


「はっはっは! ですが後ろには気をつけなさい。敵は正々堂々と戦ってくる相手ではありませんよ!」


「うん、わかった! アカネ、熊じいちゃん、次は気を付ける!!」


 タッちゃんは真剣に、でも少しだけ嬉しそうにアカネと大熊笹と一緒に構えた。


 ◆


 その頃、ピンデチふれあい苑ではさらなるレッドドラゴンの群れの襲撃を受けながらも、レインたちが首尾よく戦いを進めていた。


 ニジは光の魔法でレッドドラゴンたちの羽に穴をあけて墜落させ、キョウコはレインとの連携を崩さずに溜め攻撃を正確に当て、テッペキの防御に合わせてズドンが叩き崩した。


 しかしその時、キョウコが視野の端を横切る姿に気づいた。


「あいつは、カマイタチ!!」


 カマイタチとは森の忍者とも呼ばれる素早いモンスターで、攻撃力と防御力は低いものの、機動力と手数の多い双剣で攻撃してくる厄介なモンスターだった。


 カマイタチはキョウコの横を素早く走り抜けると、そのままピンデチふれあい苑へと走っていってしまった。


 それを見たキョウコは咄嗟にふれあい苑の入り口近くにいた清に声をあげた。


「清さん! そのモンスター、カマイタチをおねがい!!」


 すると、清は素早く土壁を作ってキョウコに答えた。


「承知しました! カマイタチのデータは記憶しています!」


 そして清は大きく振り返ると、大きな声でご高齢者の方々に言った。


「みなさん、畑へ避難してください!! イークラトの強いモンスターが来ます!!」


「わかったわ!」

「清さん、きぃつけて!」

「あまり無理をなさらずね、清さん」


 ご高齢者の方々は一斉に畑へと非難した。


 ◆


 清は1階の入り口から食堂まで精密な攻撃でカマイタチをけん制しながら後退すると、食堂の一番うしろまで下がってテーブルとイスの位置を確認した。


「よし、テーブルとイスの位置は記憶できました……。しかし、ここは外ではなく食堂……。この床から土壁は現れるのだろうか……。ですが今はこれしか!」


 清がそう呟いた瞬間、カマイタチは恐ろしい速さで清を狙って飛び込んできた。


 それを見た清は祈るような気持ちで土壁を連続で作り出そうと詠唱した。


「南無三《なむさん》!! 地の力を司りし精霊よ、母なる大地を尊びて嘆願する。我に強固な土壁を与えたまえ!!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴ!!


 清が詠唱を終えると食堂の床から次々と土壁が現れてテーブルやイスを四方八方へと吹き飛ばし、カマイタチは予想もしなかった攻撃に逃げることもできなかった。


 ドガン! ガンガン! ゴンッ!!


 テーブルとイスは次々とカマイタチを襲い、吹き飛ばされたカマイタチは食堂の壁際に転がった。


 清はそれを見逃さずに素早く魔法回復薬を飲み干すと、カマイタチの四方に土壁を三重に作り出して逃げ道を塞いだ。


 そしてその上の空中に土の塊を出現させると、そのままカマイタチの頭上へと落下させ、さらに必死に業炎の壺を投げ込んで追撃すると、カマイタチは力尽きて消滅していった。


 清は消滅していったカマイタチを確認すると、手足を震わせながらしゃがみ込み、声を漏らした。


「ははは、よ、良かった……。こんな未熟者でも皆さんのお役に……、ははは」


 すると畑に避難していたご高齢者の方々が一斉に清に駆け寄り、笑顔で清を労《ねぎら》った。


 ◆


 その頃、G区画の砂浜でもカマイタチの群れが現れ、黒ちゃんたちの前衛を掻《か》い潜《くぐ》るように後衛にいるおじいさんたちを狙った。


 しかしタッちゃんと一緒に戦っていたアカネがそれにいち早く気づき、アイテム欄から電撃罠を出現させた。


「ははは! このアイテムはこういう時のために使わないとね!」


 アカネは電撃罠を地面に設置すると、一瞬半径5mほどが黄色に光り、敵のカマイタチたちだけが痺れて動けなくなった。


 それを見たアカネは少しだけ遠くにいたアーボンに大きな声で言った。


「アーボーン!! このモンスターのトドメお願ーい!!」


 それを耳にしたアーボンは真っ青な顔でヨロヨロとしながら走って来た。


「お、おぅ……、まかしとけ……」


 アーボンが走り寄ってくると、アカネはアーボンの首元にポンちゃんが噛みついているのが見えた。


「ちょ、アーボン。ポンちゃんに好かれすぎじゃない?」


 するとアーボンは次々と電撃罠にかかったカマイタチを絶命させながら答えた。


「い、いやいやぁぁ、ポンちゃんはぁぁぁ、おれのぉぉぉ、HP吸ってぇぇぇ、ナミちゃんにあげてるんだぉぉぉおおおうっふ!」


「な、なんだよアーボン! 気持ち悪いなぁ」


 するとポンちゃんは嬉しそうにアーボンから飛び降りてナミの元へと走っていった。


 トトトトトトトト……


 アーボンは首をさすりながら全回復薬を飲み干すと、少しホッとした表情でアカネに言った。


「いやぁ、ポンちゃんがHP吸うときにさぁ、富士岡ハイランドの「ええやないかい」くらい腹の下がスーってするんだよ」


「え、まじで!? そりゃ、やばいね」


「でもまぁ、敵のモンスターもだいふ減ってきたし、もう少しの辛抱ってとこだな」


 アーボンがそう言った瞬間、なんと空中からカマイタチが3匹おじいさんたちのいるところへと奇襲攻撃を仕掛けてきた。


 おじいさんは一早くそれに気づくと、素早く僧侶になって防御魔法陣を展開しながら近くのみんなに言った。


「上から来ます! 気を付けて!」


 カマイタチの1匹はおじいさんの防御魔法陣に弾かれて落ちたところで電撃罠にかかった。


 しかし他の2匹のカマイタチはタッちゃんとアカネに狙いを定めて飛び込んできた。


 大熊笹はそれに気づいたが、笑顔を浮かべながら呟いた。


「あの速さであれば、問題ないでしょうな」


 すると大熊笹の言葉通り、タッちゃんは落下してくるカマイタチに茂雄直伝の右フックをお見舞いし、アカネは落下してくるカマイタチを巻き取るように恐ろしい速さの背負い投げを繰り出した。


 ズバン!

 ドシャッ!!


 少し離れたところからタッちゃんの美しい右フックを見届けた茂雄は、その完璧な右フックのフォームに少し涙ぐみながら笑顔になり、アカネの見事な背負い投げを見届けた大熊笹は満面の笑顔でアカネに大きく頷いた。

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