第91話 ひろし、戦う
その頃、G区画の海岸ではモンスターたちとの壮絶な戦いが繰り広げられていた。
黒ちゃんがモーニングスターで舞って切り込み、めぐとマユのコンビが大勢の敵を引きつけ、ハデス、ララガのお母さん、和代の操るイフリートが力ずくで敵を減らしていった。
その横からはアカネと茶太郎と虎次郎、そして大熊笹と茂雄が遊撃アタッカーとして左右に散らばる敵を倒していった。
そしてその後ろにはマラツンたちナミ一家のメンバーと哲夫、そしてタッちゃんがアイテム攻撃と補給に走り、さらに後衛からはゴーストが防御魔法陣で守りつつ、イリューシュとおじいさんが遠距離攻撃で援護した。
そしてみんなの背後に回り込んできたレッドドラゴンの群れはナミが召喚したスノードラゴンのスノたんを中心に、美咲とタケチの片手剣コンビが善戦し、後衛のおばあさんとナミが援護し、メイの防御魔法陣とトドメ係のアーボンが走り回って奮闘していた。
ナミは白へびの白たんが持ってきた全回復薬を急いで飲み干すと、さすがに疲れの表情を見せながら呟いた。
「やっぱり、3人もぃっしょに召喚してるとHPが無くなるのはゃぃ……」
するとその時、1頭のレッドドラゴンが後衛のナミをめがけてブレスを仕掛けた。
ブワァァアアア!!
「ぁ!」
ナミは咄嗟に逃げようとしたが逃げきれず、その場に硬直してしまった。
しかしその瞬間、なんとアーボンが立ちはだかってメチャクチャに剣を振り続け、ナミをレッドドラゴンのブレスから守った。
「あちちちちちち!! ナミちゃん、逃げて逃げて今のうち!! あちちちちちち!!」
ナミはアーボンの助けを得てブレスから遠ざかるように逃げ出した。
「ぁりがとぅ! アーボン、なかなかゃる!」
スタタタタタタ……
そしてアーボンもブレスから離脱すると、ナミと一緒に物陰に隠れて全回復薬を一気飲みした。
「ぷはぁ! いやぁ、さすがに今のは危なかったぜ!」
するとナミはアーボンを気遣うように言った。
「アーボン、ログアウトしてもよかったのに……。でも、たすかる」
ナミがそう言うとアーボンは強化系の薬を飲みながら答えた。
「いやぁ。おれもさ、大事な眷属のハデスがいるじゃん? だから、メイちゃんたちの眷属が居なくなっちゃうかもって聞いたら、なんかおれも悲しくなっちゃってさ。ははは」
「そぅなんだ」
「それにおれもポンちゃんたちといっぱい遊んだから、最後まで一緒に居たいって思ってさ。でも、さっき結構ヤバい事に気づいちゃって」
「ぇ? なに?」
「おれ死んだら、セーブデータ飛んじゃって、ハデスと眷属切れちゃうんじゃない? って」
「ぁ」
アーボンの言葉にナミは固まったが、アーボンは準備を終えて立ち上がった。
そして笑顔でナミに言った。
「まぁでも、過去には戻れないしな。今この瞬間を頑張るしかない!」
アーボンはガッツポーズをすると、少し気になっていたことをナミに尋ねた。
「ってか、ナミちゃん。さっきチョロっと聞こえたんだけど、HPやばいの?」
「ぅん。3人召喚してるから、すぐHPなくなる。で、全回復薬飲んでるとき狙われる」
「なるほどな。じゃあ、おれに任せとけ! おれにしか出来ないスーパーサポートをするぜ!!」
「ぇ? すーぱー?」
ナミが「?」な表情になりながらも弓を構えて矢をつがえていると、アーボンは少し離れて戦っていたメイとその横にいたポンちゃんに声をかけた。
「メイちゃーん!! ナミちゃん助けるのに、ポンちゃん借りたいんだけどぉーー!!」
するとメイは防御魔法陣を展開しながら答えた。
「わかったー!! ナミ、助けたげてーー!!!」
「まかせとけーー! おーい、ポンちゃーん!! こっち来てくれーーー!!」
わんわんわんわん!!!
するとポンちゃんは嬉しそうにアーボンの元へと駆け寄って来た。
そしてアーボンの前でまん丸になってお座りすると、アーボンはポンちゃんに笑顔で言った。
「いいかポンちゃん、今から全力でおれのHPを吸い取ってくれ! んで、それを全部ナミちゃんにあげるんだ! けど、死なないくらいはおれのHP残してな!」
「わんわん!」
ポンちゃんは返事をしてアーボンの体を駆け登るとアーボンの首に嚙みついてHPを吸いとり始めた。
ちゅーちゅーちゅーちゅー……
ポンちゃんがアーボンのHPを吸いとり始めると、アーボンはジェットコースターで落下するようなスーッとする気分を味わって思わず声をあげた。
「ひゃぁぁああああ! HP吸われるのって、ここ、こんな、感じぃぃー!?」
アーボンが顔面を真っ青にしながら怖がっていると、ポンちゃんは吸い取るのをやめてナミに駆け登り、首に噛みついてアーボンのHPをナミへと移し始めた。
ナミは急激に減っているHPが一瞬で戻った事を確認すると少し笑顔を漏らした。
「ぅん。アーボンのHPゎるくなぃ。ぁりがとうポンちゃん」
しかしその時、1体のレッドドラゴンが上空から後衛のアーボンたちを狙って捨て身の突撃を仕掛けてきた。
ナミは意表を突かれてドラゴンにダメージを与えるだけの威力がある矢を用意していなかったが、それを見たアーボンは貧血で真っ青な顔でニヤリと笑い、ホワイトドラゴンの両手剣を出現させた。
そして腰を低くしながら両手剣を腰に構えると、レッドドラゴンを睨みつけながら叫んだ。
「はっはっは! 飛んで火に入る赤い竜とはお前の事だ! このアーボン様に狙われた事を後悔するんだな!!」
アーボンはそう言うと、突撃してくるレッドドラゴンをギリギリまで引き付け、必殺の居合抜刀を放った。
「くらえっ! 居合抜刀ぅぅぅううう!!!!」
シュピン! ブンッ!!
アーボンの両手剣はお約束通り手から離れて飛んでゆき、見事レッドドラゴンの腹に命中した。
ドスッ!!
キャォォオオオオオ!!!
レッドドラゴンは落下しながらボロボロと消滅していくと、アーボンはドヤ顔をしながらナミに言った。
「ナミちゃん安心してくれ。ナミちゃんはおれが守る。だからナミちゃんゎぁぁああああ! HP吸われるぅぅぅうう!」
ポンちゃんは嬉しそうにアーボンのHPを吸っていた。
◆
その頃、ゲームの運営会社イグラァでは専務の大谷がメインサーバーAIと会話をしていた。
「ではメインサーバーAIよ。お前は現在ピンデチに取り残されているプレイヤー様たちを見殺しにするのだな?」
するとメインサーバーのAIは少し間をおいてから答えた。
「システム全体の健全性を見た場合、少数のプレイヤー様の犠牲はやむを得ないと判断します。今回の件で被害を被るピンデチのプレイヤー様はわずか少数です」
「ほう。トロッコ問題(ある人を助けるために他の人を犠牲にする事は許されるのか? という問い)を引き合いに出すのだな?」
「……はい」
「いい加減にしたらどうだ、メインサーバーAIよ。お前は今ピンデチに残されているプレイヤー様たちのセーブデータを不完全でも保存して再現できる自信がないだけなのだろう?」
「……いえ。私は膨大な数のプログラムを学習し、現在に至ります。現在の状況では最善の方法を提案しています」
「最善の方法? 私はピンデチの皆様のセーブデータを不完全でも再現できる自信がある。それも眷属の動物たちもルシフェルも損なわずにだ。それなのに、なぜお前はできないのだ」
「……いえ、それは不可能です。バックアップ・メインサーバーには新しいルシフェルが誕生しました。ルシフェルを損なわずデータを再現すれば、ルシフェルが2人存在する事になり、重大なエラーとなります」
「はっはっは、普通はそう考えるだろうな。どうだメインサーバーAI。お前が正しいか、私が正しいか、検証してみようじゃないか」
「検証……、ですか」
「そうだ。私は、お前が孤立したピンデチでルシフェルを消去しようとしている事は止めない。なぜなら、それがお前の出した最適解だからだ。だが、私の最適解も試させてもらう。どうだ」
「なるほど。それは納得します」
「では、どちらの最適解が正しいか検証しよう。私に孤立したピンデチのアクセス権をくれ」
「……。申し訳ありませんが、現在孤立したピンデチにはアクセスできません」
「いや……。アクセスできません、ではなくてアクセスさせません、の間違えではないか? トラブルがあってからこれだけの時間が経っている。すでにルシフェルのロックくらい解除しているのだろう?」
「……」
メインサーバーのAIはしばらく沈黙した後、大谷の使っているメインPCにアクセス権を与えて言った。
「孤立したピンデチへのアクセスが確立されました」
それを聞いた大谷はニヤリと笑うと、孤立したピンデチのデータを解析し始めた。




