第90話 黒猫、急ぐ
その頃、バックアップ・メインサーバーに完全移行したゲーム世界のシャームでは、黒猫とドラちゃんがスマイル道具店2号店の店番をしながらも、異変に気が付いていた。
「ねえ黒猫さん。洋子様の気配が消えたと思うんだけど。というより、私たちが移動した?」
「うむ、我もそう感じた。洋子殿がこの時間にログアウトされる事は今まで無かった。何かあったのであろうか」
すると突然お店に男性が現れてドラちゃんと黒猫に話しかけた。
「突然失礼いたします。私はゲーム運営会社イグラァの経理部、中山と申します。単刀直入にお知らせします。ピンデチのスマイル道具店の皆さまが他のサーバーに閉じ込められました」
「なっ! なんだって!」
「なにっ!?」
「それにより、ピンデチのスマイル道具店は無人の状態です。お2人のうちお1人がピンデチのスマイル道具店へ赴いては如何かとお伝えするよう、参りました」
しかしそれを聞いた黒猫は激高しながら答えた。
「お主! 我が主の洋子殿は助かるのであろうな!」
「現在、救出活動中です。しかし、全てのセーブデータが壊れてしまう可能性があります」
「なんだと!! 洋子殿の全てのセーブデータが壊れてしまえば、我らは……!!」
「……はい、申し訳ございません。眷属としての繋がりが切れてしまう可能性があります」
「そ! そんな事が許されるわけが……!!」
「申し訳ありません……。ですので、我らは全力を尽くしています……」
経理部の中山は申し訳なさそうな表情を見せながらそう言うと、黒猫は冷静さを取り戻してゆっくりと息を吐いた。
するとその様子を見た中山は黒猫に言った。
「現在、ピンデチのスマイル道具店は無人の状態で、お客様が不安に思っています。そして、このゲームの仕様上、商品を盗むこともできます。それをお伝えしに来ました」
それを聞いたドラちゃんは慌てて黒猫に言った。
「黒猫さん、これは大変だよ! だって洋子様はいつもお客さんを笑顔にしたいって言っていたじゃない。お店に店員さんが誰も居なかったら、お客さんは……」
黒猫はドラちゃんの言葉を聞くと、静かに頷いて答えた。
「そのとおり。この店の名はスマイル道具店。スマイルが無くなってしまっては洋子殿がご心配なさるであろう」
黒猫はそう言うと、魔法で哲夫の姿に変化した。
そして満面の笑顔を見せるとドラちゃんに言った。
「今、我々ができる事をするべきであろう。洋子殿が戻ってくるまで、スマイル道具店を笑顔あふれるスマイル道具店として守るのだ」
「ああ、そうだね。それがいいね!」
「では我はピンデチへと向かおう。シャームは任せたぞ」
その言葉を聞いたドラちゃんはスマイル道具店の名前に恥じないように満面の笑顔を作って答えた。
「任せてよ! お客さんをたくさん笑顔でお迎えして、あとで洋子様にたくさん褒めてもらうんだ!」
ドラちゃんの笑顔を見た黒猫は静かに頷くと、それを見た中山は眷属のレッサー・ワイバーンを呼び寄せ、黒猫と一緒にピンデチへと急いだ。
その姿を笑顔で見送ったドラちゃんは、おばあさんのデータが無くなってしまうかもしれないという不安は抑えきれず、満面の笑顔のまま少しだけ涙を流した。
◆
その頃、メインサーバーに取り残されたピンデチふれあい苑の前ではレインたちがホワイトドラゴン2体と対峙していた。
ピンデチふれあい苑のご高齢者の方々が建物の中から見守る中、レインたち5人は武器を構えてスキル発動の準備を整えた。
そして先頭に立つレインとキョウコは少し笑いながら言葉を交わした。
「なぁレイン。こんな事ってあるんだな」
「うん、そうだね。まさか、街中でホワイトドラゴンと戦う事になるだなんてね」
「結局さ。あたしたちも、ふれあい苑のみなさんもログアウトできなくなっちまった。こりゃぁ、セーブデータが飛ぶやつじゃないか?」
「ははは、かもしれないね」
「……おいおい。……ってかレイン、お前また楽しそうにしてんじゃん」
「え? そう見えるかい? でも、これくらいのリスクがあるとさ、少し燃えるよね」
「……ったく、お前は昔からノンビリしてそうで結構度胸あるんだよな。……まぁそれはイイけど、ふれあい苑のみなさんが傷つけられる所は、お前だって見たくないよな」
キョウコがそう言うと、レインは少し真剣な表情を浮かべて静かに答えた。
「もちろん。それだけは絶対に許さない。どんな敵が来ようとも、ふれあい苑のみなさんだけは絶対に守る」
レインがそう言うとキョウコはニヤリと笑ってレインに言った。
「ふっ。なんだよ、珍しく本気じゃん。……んじゃ、行こうか?」
「ああ!!」
レインはそう答えると、片手剣のスキルの俊足で飛び出して即座に両手剣に持ち替え、俊足での高速ステップが止まる瞬間に居合抜刀を発動した。
「やぁぁあああ!!!」
ズバン!!!
レインの一撃はホワイトドラゴンの胴を強烈に一閃し、そしてその攻撃で仰け反ったホワイトドラゴンを待っていたかのようにキョウコの両手剣のスキル「溜め重撃」が炸裂した。
「でやぁぁあっ!!!」
ズドン!!!
ギャォォォオオオ!!!
すると、もう1体のホワイトドラゴンがニジたち後衛に向けて炎のブレスを吐こうと構えた。
それを見たニジは、ふれあい苑が危ないと察知してズドンとテッペキに言った。
「ズドン、テッペキ! あれ、お願い!!」
「おう!!!」
「わかった!」
ズドンとテッペキは返事をすると、突然ズドンがテッペキをハンマーで叩き上げた。
「テッペキ、行ってこい!!」
「まかせて!!」
ドゴォォオオ!!
そしてズドンのハンマーで空へと飛びあがったテッペキは、空中で「シールドバッシュ」を発動すると、炎を吐こうとしているホワイトドラゴンの頭へと一直線に突撃していった。
そして、
ガオォォオン!!!
テッペキは見事に大きな盾でホワイトドラゴンの頭を殴り飛ばし、さらにドラゴンの開いた口を足場にして飛び上がった。
そしてそのまま槍を突き出して直角に降下すると、寸分狂わずホワイトドラゴンの頭の弱点を槍で突き抜いた。
ドガン!!!
ギャオォォォオオ!!!
テッペキは即座に両足を踏ん張って槍を抜くと、そのまま両手を広げて地上へと落下していった。
するとズドンは全速力で走り出し、地面スレスレでテッペキをキャッチして勢いを殺すように一緒に転がった。
そして2体のホワイトドラゴンがレインたちの攻撃で弱ると、2体のホワイトドラゴンの足元に光り輝く巨大な光の魔法陣が現れて周囲を眩く照らした。
それを確認したレインたちが光の魔法陣から離れるとニジは少し笑みを浮かべながら魔法の杖を振り上げた。
「いくよ」
ズドドドドドドドドドドド!!!!
光の魔法陣からは無数の太い光の槍が飛び出し、2体のホワイトドラゴンは大幅にHPを削られて弱ったドラガの姿へと変化していった。
その様子を見ていたピンデチふれあい苑のサヤおばあちゃんたちは手を叩きながらレインたちの戦いを応援していた。
「すごいわ!! みんな頑張って! レインちゃん! キョウコちゃん! ニジちゃん! ズドンちゃん! テッペキちゃん! みんなすごいわ!」
そしてご高齢者の方々もレインたちの戦いに驚きながらも応援していた。
「たまげだなぁ! もの静かなテッペキくんがなぁ!!」
「ほんとよ! ズドンちゃんだって凄い力だったわよ!」
「ニジちゃん、すごいわね! かっこいいわ!」
「レインもキョウコも、めちゃカッコええで!」
「すごいすごい! あの子たち、やっぱり強いのね!」
「みんな、頑張って! 負けないでね! 頑張って!」
そしてレインたちの戦いをピンデチふれあい苑の入口から見ていた清は、レインたちの戦いに驚きながら呟いていた。
「こ……、これがハイレベルプレイヤーの戦い……。すべての攻撃が計算されて連携している……。そして、恐ろしいほどに強い!」
清は岩の杖を握りしめながら、レインたちの戦いを見つめた。




