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第89話 みんな、慌てる

「そして、本当に申し訳ない……。もしかしたら……、その事によって私が生み出した四天王も消えてしまうかもしれない……。魔城のルシフェルのデータは3年前のメンテナンスで私が生まれた時にリセットされてしまう……」


「「「えええっ!!!」」」


 ポンちゃんや茶太郎や寅次郎が消えてしまうかもしれないという事実を聞いたみんなは、驚きの表情を隠せなかった。


 ◆


 その頃、ゲームの運営会社のイグラァでは専務の大谷に驚くべき報告が入っていた。


「大谷専務、大変です! ピンデチG区画の海岸に大量のモンスターを乗せた船が多数上陸しました!!」


「なにっ!? なぜ、モンスターを乗せた船が勝手に!?」


「船頭のプンペのコピーたちが暴走させられました!」


「くっ! メインサーバーAIめ、物理的にルシフェルを消すつもりか!」


「いえ、専務! 状況は理解しがたい状況になりつつあります」


「なに? それはどういう事だ」


「我らはバックアップ・メインサーバーの準備を完了したのですが、メインサーバーAIのほうから、プレイヤー様たちに迷惑をかけないように、バックアップ・メインサーバーへ移行したいとの申し出があったのです」


「なんだと!? メインサーバーAIはそこまで把握しているのか!?」


「はい。そして、ルシフェルがいるピンデチだけをメインサーバーに残して孤立させ、新しいルシフェルを魔城に出現させたいと……」


「……なるほど、悪くはない手だな」


「メインサーバーAIはそれに先立って、ピンデチのプレイヤー様を早急にログアウトさせてほしいと提案してきました」


「そうか。……メインサーバーAIはそれが一番合理的と判断したという事か」


「はい。どうやらピンデチ周辺はルシフェルの逆ハッキングによってロックされ、操作不能となった領域のようです。メインサーバーAIは操作不能となった元凶のルシフェルを、切り離したピンデチで消去したいのだと思います」


「ふむ。しかし、そうなると眷属になった動物たちも無かった事になるかもしれないな……」


 すると突然、エンジニア部長が大谷の元へと駆け込んできた。


「大谷専務、大変です! メインサーバーAIが強制的にピンデチのデータの切り離しを開始しました! あと12、3分ほどでピンデチは孤立してしまい、バックアップ・メインサーバーにも接続できなくなります!」


「なんだと! そうなればプレイヤー様たちのセーブデータが孤立してしまって危ない! 急いで10分以内に緊急ログアウトの告知をするんだ! セーブデータが消える可能性があると必ず伝えてくれ! 急げ!!」


「は、はいっ!!!」


 エンジニア部長は全速力で走り出た。


 ◆


 そのころ、ピンデチふれあい苑ではレインたちが緊急ログアウトの連絡を受けて、慌ててご高齢者たちに説明をしていた。


「急いでください! 左上の少し下のあたりにある歯車のマークを!」

「それを押したら一番下のシステムっていう……」

「はやく! 緊急ログアウトの指示が!」


 しかし、ご高齢者の方々は「ご高齢者モード」のUI(ボタンなどの配列)だったので、レインたちとのUIとは配列がちがっていた。


「左上かな? そこはHPとMPだけしか……」

「ええーと……。歯車のマーク……、かい?」


 ご高齢者の方々は話がかみ合わずに困っていると、ニジは「ご高齢者モード」の事に気付いて慌ててご高齢者の方々に言った。


「ごめんなさい! みなさんご高齢者モードでしたね。みなさんのボタンとかの配置を教えてもらっても良いですか?」


 しかしその瞬間、ピンデチふれあい苑から見える空が赤紫色になり、不気味な雰囲気に包まれた。


 ◆


 その頃、スマイル道具店に集まっていたみんなは、たくさん一緒に遊んだポンちゃんや茶太郎や寅次郎を失うかもしれないなら最後まで一緒に居たいと、全員緊急ログアウトには従わなかった。


 アカネは茶太郎を優しく抱っこしながらショッピングモールの窓から外を見ると、赤紫色の空を眺めながら笑った。


「ははは。こんな空初めて見たよ。なぁ、茶太郎」


「わんわん! はふはふ!」


「茶太郎! おまえは、あたしが絶対守るからな!」


「わんわんわんわん!!」


 茶太郎は嬉しそうにアカネの頬を舐めた。


 そして、スマイル道具店のカウンターでは、おばあさんやマユやナミ、そして哲夫夫婦や美咲が心配そうに見守る中、メイがポンちゃんを優しく撫でながら話しかけていた。


「ポンちゃーん、大丈夫だからねー。ポンちゃんは居なくならないよー。ははは」


 しかしメイは不安で止められない涙を流すと、なんとメイの師匠でもあるゴーストが突然現れた。


「えっ! ゴーストさん!?」


 するとゴーストは冷静にメイとみんなに話し始めた。


「メイさん、みなさん、突然申し訳ありません。私はこのゲームの脳波検出装置を作るメーカーの次期社長で、運営会社のイグラァにも太いパイプがあります。そして今の状況を説明すべく、大谷専務の命を受けて助太刀に参りました」


「「「えええっ!!」」」


 ゴーストの言葉を聞いた全員は驚きの声をあげると、ゴーストは淡々と今の状況を説明し始めた。


「現在、メインサーバーのAIはルシフェルにエラーが出たと認識し、ルシフェルを無かった事にしようと、このピンデチを孤立させてルシフェル削除しようとしています」


 ゴーストは赤紫色の空を見上げると話を続けた。


「そして現在、ここピンデチはメインサーバーに孤立し、ゲーム自体はバックアップ・メインサーバーへと完全移行して通常稼働をしています」


 それを聞いたイリューシュはゴーストに尋ねた。


「ゴーストさん。では、私たちは……」


「はい。我々はゲームから孤立しており、セーブデータは再現不可能でしょう。最近では、プレイヤーのセーブデータは1か月分のバックアップがあるのですが、異常事態のデータが上書きされれば再現不可能となります」


「という事は、もう元には戻れないのですね」


「はい、残念ながら高い確率で我々のセーブデータはエラーとなります。そしてルシフェルの削除と、皆さんを強制的にログアウトさせるために大量のモンスターがピンデチに送り込まれたとのことです」


 しかしそれを聞いたみんなは怖がることもなく覚悟を決め、ゴーストの話を聞いた。


 ゴーストはその様子を見ると安心したように話をつづけた。


「しかし現在、この孤立したピンデチには大谷専務とエンジニア部の方々が、我々のデータや眷属の動物たちを救い出そうとアクセスし続けてくださっています。ですから皆さん、どうか希望は捨てず、一緒に抗《あらが》いましょう!」


 ゴーストがそう言うと、その場のみんなはゴーストの言葉に共感して一気に士気が上がった。


 するとその時、突然イリューシュに途切れ途切れのボイスチャットが入った。


「……が、……きを、……つけろ。……海岸に、……きを」


 それを聞いたイリューシュはその声が大谷の声だと気づきみんなに言った。


「大谷さんからボイスチャットが入りました! 海岸に気をつけろと!」


 イリューシュの言葉にみんなは驚くと、相談しておじいさんたちG区画のメンバーが海岸へと向った。


 ◆


 おじいさんたちがG区画の海岸へと向かうと、すでに夥《おびただ》しい数のモンスターたちが砂浜に集結していた。


 その様子を遠目で見たイリューシュは黒ちゃんに言った。


「黒ちゃんさん、あの数のモンスターは異常です。ホワイトドラゴンにレッドドラゴン、それにハンマーゴリラやサイクロプスまで、イークラト周辺のモンスターが集結しています」


「そのようですね。ですが、このピンデチだけが切り離された以上、あの砂浜にいるモンスターが増える事は無いはずです。ですから、あのモンスターを全て倒せば、大谷さんたちが私たちを救出できる時間を稼ぐことができるかもしれません」


「ええ、確かにそうですね」


 イリューシュはそう言うと、黒ちゃんは気になっていたことをイリューシュに尋ねた。


「イリューシュさん。なぜ、イリューシュさんは皆さんと一緒に残ったのですか? 緊急ログアウトすることもできたはず……。イリューシュさんのセーブデータは大変貴重だと思うのですが」


 するとイリューシュは小さく笑ってから笑顔で答えた。


「ふふふ、なぜでしょうね。緊急ログアウトするという考えはありませんでした。けれども、みなさんも同じ考えなのではないでしょうか。みなさんや、あんなに可愛らしい茶太郎ちゃんたちを残してログアウトできませんものね。ふふふ」


 それを聞いた黒ちゃんもハッっとしてイリューシュに言った。


「はっはっは。それを言ってしまえば、私もそうでしたね。……しかしゴーストさんは無関係なのに、なぜこの危険なピンデチへ……」


 黒ちゃんがそう言うとイリューシュは再び静かに笑って答えた。


「ゴーストさんは、そういう方なのだと思います。先日のピンデチの戦いの時も助けてくださいましたからね」


「はっはっは、さすがはゴーストさん。なんと、すがすがしいお人柄だ!」


「はい。危険を犯してまで大谷さんの伝言を引き受けて頂いただなんて、素晴らしいお人柄です」


 イリューシュがそう言った瞬間、なんと砂浜に居たホワイトドラゴンとレッドドラゴンが一斉に飛び立った。


 その様子に驚いた2人は急いでみんなにボイスチャットを繋いだ。

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