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第88話 ルシフェル、押し売り?

 その頃、ゲームの運営会社イグラァでは専務の大谷がメインサーバーのAIを完全制御しようと奮闘していた。


「ふむ……。メインサーバーAIはあくまで想定範囲内と言い張るか。……これはAIが人間からの指令を遂行できず、しかし失敗したとも報告できず、失敗を隠しながら暴走しているパターンだな」


 大谷はメインPCのキーボードを叩きながらさらに呟いた。


「しかし、メインサーバーのデータの一部が破壊されてエラーが出続けているのは気にかかる。やはりエラーの出ている部分を除いて、バックアップ・メインサーバーへ移行するのが最適解だろう」


 するとその時、エンジニア部の主任が作業をしている大谷の所へやって来て報告した。


「大谷専務。ピンデチのエージェントさんからG区画の自宅でルシフェルを保護したとの報告がありました」


 それを聞いた大谷は驚きを隠せずに答えた。


「なにっ!? ルシフェルがか? それは本当か!」


「はい! エンジニア部でもルシフェルの座標位置を確認しました」


「では、魔城のボスは今どうなっているんだ」


「はい。元々、ルシフェルのAIデータは1つのデータをパラレルワールドのように複製しながら同時進行しているので、本体のルシフェルがピンデチに居ても問題はありません。しかし……」


「しかし?」


「ルシフェルがなぜピンデチに居るのかが疑問です。ゲームの仕様上、ルシフェルは魔城の地下の部屋から出られませんので」


「……そうだな。確かにメインサーバーがルシフェルを消去しようとしている動きが今も続いているが、それから逃れるにしても……」


「はい。ですが1つ可能性があるとすれば、メインサーバーがルシフェルを消去しようとアクセスした時に、逆にルシフェルがメインサーバーにアクセスして、データの一部をハッキングした可能性があります」


「……。なるほど。まだAIが黎明期の過去には、AIが他社のサーバーを無断でハッキングしてしまった事例もあるからな。だとすればルシフェルは……」


「メインサーバーを一部ハッキングして自分の行動範囲を変更し、ロックをかけた可能性があります」


「そうか、それで合点がいった。我らがメインサーバーを完全に制御できないのは、ルシフェルがメインサーバーをハッキングしてロックをかけた事と関係があるかもしれないな」


「はい。事実、現在メインサーバーAIはピンデチに関するプログラムを何度も改変しようと試みています。メインサーバーAIもルシフェルの居場所は特定しているようです」


「それは本当か? ルシフェルはともかく、ピンデチは大丈夫なのか」


「今のところは大丈夫です……。しかし、ゲームを健全な状態に戻すという使命に駆られたAIは何をするか予想もつきません」


「うむ。現に今も暴走中だからな……。よし、やはりバックアップ・メインサーバーへの移行を急ごう。エンジニア部はバックアップ・メインサーバーを限りなく現在の状況に近い状態にしてくれ」


「はい!」


 ◆


 その頃、G区画の家ではルシフェルがアカネの眷属の茶太郎に涙を流しながら謝っていた。


「柴犬のきみ……。本当に申し訳なかった! 私が君を四天王なんかにしてしまって!」


 しかし茶太郎は首をかしげながらタッちゃんに言った。


「ねぇ、タッちゃん。ぼく、謝られても困るって、この人に言ってくれないかなぁ」


 するとそれを聞いたタッちゃんはルシフェルに伝えた。


「なぁ、お兄ちゃん。茶太郎が謝られても困るって言ってるぞ」


 それを聞いたルシフェルは声を詰まらせながら言った。


「いや……。柴犬の彼が気にしていなくても、私は彼が不幸になるかもしれないと知っていながら四天王にしたのだ。私の罪は消えない」


 ルシフェルがそう言うと、アカネは茶太郎を抱き上げながらルシフェルに言った。


「なるほどなー。イリューシュさんから魔城の四天王のこと聞いたけど、まさか茶太郎が四天王だったなんてね。でも茶太郎が四天王で良かったよ! だって、こうやって出会えたんだからさ!」


 アカネがそう言うと、茶太郎はハフハフしながら嬉しそうにアカネの頬を舐めた。


 その様子を見たルシフェルはアカネに対して土下座そしながらアカネに言った。


「アカネ殿。あなたが柴犬の彼と力いっぱい遊んでくれた事、心の底から感謝している。そのお陰で柴犬の彼は四天王の呪縛から解放されたのだ。本当にありがとう」


 それを聞いたアカネはルシフェルの腕を掴んで土下座を解かせると、慌てながらルシフェルに言った。


「待った待った! あたし茶太郎が可愛かったから一緒に遊んだだけだから! ってか、きみって魔城のラスボスなんだろ? もうちょっと、ビシってしてよ!」


 するとルシフェルは少しだけ笑みをこぼしながらアカネに答えた。


「いや……。私は3年前にサーバーメンテナンスで新たなラスボスとなったが、今日ラスボスを放棄したのだ。そして、私が四天王にしてしまった動物たちに謝るためにピンデチに来た」


「えっ!? ってか、ラスボスって放棄できるの?」


「私は不正にメインサーバーを一部ハッキングして、ラスボスの部屋から抜け出した。そして私が四天王にしてしまった動物たちに謝るため、動物たちの位置を探したのだ」


「もしかして、その動物たちがいたのが……」


「そう。私は始めから居た四天王が1人欠けた時、ポメラニアンを四天王にしてしまった。そして続けて、猫、柴犬と……。しかし全ての動物がピンデチにいたのだ。だから消滅する前に最後の力を振り絞って謝りに来たのだ……」


「えっ!? きみ、消滅しちゃうの?」


「うむ。メインサーバーのAIは、こうして自我を強く持ってしまった私を消滅させて、新しいルシフェルを誕生させるつもりだ。その前に、ポメラニアンと猫にも謝りたい……。どうか協力してはくれぬか」


 その言葉を聞いたG区画のメンバーはルシフェルを哀れんで、ルシフェルをポンちゃんがいるスマイル道具店へと連れて行くことにした。


 ◆


 G区画のメンバーはルシフェルを連れて総出でスマイル道具店へと行くと、ルシフェルはメイに抱っこされて嬉しそうにしているポンちゃんを見つけて走り出した。


 そしてメイの前で土下座すると涙ながらにメイに言った。


「あなたがポメラニアンを救い出してくれた方ですね! このルシフェル、心の底から感謝いたします! そのポメラニアンは本当に長い間四天王として辛い思いを……」


 ルシフェルがそこまで言うと、メイは圧の強いルシフェルにドン引きしながら答えた。


「えっ!? ちょっ!? え、なに!? 土下座の押し売り!? ってか、土下座は間に合ってますけど! 他のお店に行ってください!」


 メイが良くわからない返答をしていると、店の奥で話を聞いていたマユがおばあさんたちと一緒に出てきてメイに言った。


「たぶんポンちゃんの事なんじゃない? アーボンさんが言ってたよね、ポンちゃんが四天王とか、どうとか」


「えっ!? ポンちゃんの事なの……? ……えっ! なに? ってか、ポンちゃんをまた四天王にするから返せって感じとか!? え、それ、ぜったいヤなんですけど!!!」


 メイは涙目になりながらポンちゃんを抱きしめて後ろを向くと、イリューシュがメイに優しく説明を始めた。


 ◆


 その後、イリューシュからメッセージを貰っていたマラツンも、後輩とアーボンたちと一緒に茶太郎を連れてスマイル道具店に合流し、ルシフェルがなぜ謝罪に来たのかを理解した。


 そして、G区画のメンバーも、スマイル道具店のメンバーも、ナミ一家、そしてアーボンたちもルシフェルの行動に感心して、ルシフェルを労《ねぎ》うように声をかけた。


「ラスボスなのに、心優しいんだな」

「きっと責任を感じていたのですね」

「私がルシフェルさんだったら……」


「なんだが、めっちゃ大人だな……」

「ぼくもこんな事が出来る気が……」

「本当の優しさなんだろうなぁ……」


「ぅん。ルシフェル、なかなかやる」

「だね。ラスボスさんも大変だよね」

「ポンちゃん、ありがとう言って!」


 みんながルシフェルに声をかけると、ルシフェルは大粒の涙を流しながらみんなに言った。


「ありがとう。最後に私も幸せな時間を感じる事ができた。……みなさん、早くログアウトしてください。ここピンデチは私を消すために、もうすぐ切り離されます。おそらく運営からもアナウンスがあるでしょう」


「「えええっ!!!」」


「そして、本当に申し訳ない……。もしかしたら……、その事によって私が生み出した四天王も消えてしまうかもしれない……。魔城のルシフェルのデータは3年前のメンテナンスで私が生まれた時にリセットされてしまう……」


「「「えええっ!!!」」」


 ポンちゃんや茶太郎や寅次郎が消えてしまうかもしれないという事実を聞いたみんなは、驚きの表情を隠せなかった。

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