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第86話 タッちゃん、チーーーン!

 それからタッちゃんは、おじいさんがログアウトした後にルルとベンドレと一緒にステータスポイントを稼いで攻撃力と防御力を上げてから寝て、朝は柔道の朝練、お昼は茂雄と一緒にボクシングの練習を続けた。


 そうして1か月が経ったころ、タッちゃんはかなり戦えるまでになっていて、なんとタッちゃんはG区画のメンバーと一緒に雪山で雪男前を撃破し、ルシフェルの魔城まで到達してしまった。


 そしてその頃、G区画のメンバーはタッちゃんの異常な強さに気づき始めていた。


 ―― G区画の家 柔道の朝練 ――


 大熊笹たちは朝練を終え、アカネはタッちゃんを誘って試合形式での稽古をしてみていた。


「タッちゃん、準備いい!?」

「うん! いつでもいいよ!」


「おっし! じゃあいくよぉ!」


 アカネはタッちゃんに素早く詰め寄って大外刈りを繰り出そうと右足を出すと、なんとタッちゃんは両足で跳びはねてそれをかわし、両足でアカネの腹に抱きついた。


「うわっ! おっとっと!!」


 アカネは予想外の動きに驚いて前のめりになると、タッちゃんは素早く体をブルブルと震わせてアカネのバランスを崩し、見事アカネを全身で投げるように倒してしまった。


 バタン!!


 そしてタッちゃんは素早くアカネから離れて構えると、アカネは驚きながらも笑いながらタッちゃんに言った。


「ははは! 驚いたよタッちゃん! 柔道だと反則かもだけど、これは油断したあたしの負けだね!」


 それを聞いたタッちゃんは嬉しそうに答えた。


「ほんとかアカネ! おれ、アカネに勝ったのか!?」


 すると大熊笹が柔和な表情でタッちゃんに言った。


「今回はしっかりルールを説明していなかった私も負けです。はっはっは!」


「ほんとか!? おれ熊じいちゃんにも勝った……、のか?」


 タッちゃんが首をかしげると黒ちゃんがやってきてタッちゃんに説明した。


「タッちゃん。柔道の試合としては負けだが、実戦ならばタッちゃんの勝ちという意味だ。簡単に言えば、半分勝利といったところだな」


「そうなのか!? でも半分勝ったのか? おれ、アカネに半分勝ったのか!?」


 タッちゃんが嬉しそうにそう言うとアカネは構えながらタッちゃんに言った。


「おっし! じゃあ次は何でもありの試合しよう! 何やってもいいから相手を投げ飛ばしたほうが勝ちね!」


「うん、わかった! 次は半分じゃなくて、全部勝つからな!!」


「ははは! あたしだって次は負けないよぉー。準備はいい?」


「うん! いつでもいいよ!」


「じゃぁ、いくよ! せーの……、試合開始!」


 アカネはそう言うとタッちゃんに一直線に走り込んだ。


 それを見ていたタッちゃんは、なんとアカネに向かって走り出し、アカネの股の下を抜けようと飛び込んだ。


 しかしアカネはニヤリと笑うと、飛び込んでくるタッちゃんを跳び箱のようにして前に飛び出し、空中で体を反転させてタッちゃんのほうを向いて着地した。


 が、その瞬間、なんとすでにタッちゃんがアカネの目前まで迫っていた。


「うわ! 速っ!」


 アカネは驚きながらもタッちゃんの襟と袖を掴んで、背負い投げに持ち込もうとしたが、またもやタッちゃんは両足でアカネの胴にしがみついてそれを阻止した。


 するとアカネは満面の笑顔になって手を放し、タッちゃんの両足の裏を全力でくすぐった。


「タッちゃん、覚悟! 必殺! アカネ・コチョコチョだー!!」


「あはははははは! やめろよ! やめろよアカネー!!」


 タッちゃんは大笑いしながらアカネの背中をバシバシ叩くと、アカネは黒ちゃんと一瞬目を合わせて、全力で横に回転し始めた。


「タッちゃん、とどめだぞー!! アカネ・ジャイアントスイングだー!!」


 ブンブンブンブンブン!!

 スポーン!!


 タッちゃんはアカネにくすぐられて両足の力が抜けたところで振り回されたので、そのまま遠心力で飛んでいってしまった。


「わーーー!!!」


 しかし黒ちゃんが飛んでいったタッちゃんに先回りして走り込み、タッちゃんを優しくキャッチした。


 そして黒ちゃんはタッちゃんを優しく畳に降ろすと、タッちゃんは満面の笑顔でアカネに言った。


「アカネ、今のすごいな! おれ、スポーンって飛んでった! おれの負けだ!」


 するとアカネは嬉しそうに答えた。


「ははは! でもタッちゃんも強かったよ。タッちゃんが速すぎてちょっと驚いたもん」


「ほんとか!? おれ、強かったか!?」


 アカネとタッちゃんが話している横で、大熊笹は考え込みながら呟いた。


「ふむ……。やはりタッちゃんの動きは猿のように機敏で素早い。これは間違いなく生まれつきの才能を活かしていますな。となれば、タッちゃんは猿の運動能力を持つ格闘家に……」


 大熊笹はタッちゃんの可能性に驚きつつあった。


 ◆


 その日の午後、タッちゃんはログインしてきたおじいさんたちと一緒にアーボンの家の訓練場に来ていた。


 タッちゃんはおじいさんたちG区画のメンバーが見守る中訓練場に入ると、中で待っていたナミとアーボンは笑顔でタッちゃんを迎えた。


「タッちゃん、こんにちゎ」

「きみ、ホントにあのタッちゃんかい? いやぁ、おどろいたぜ。よろしくな!」


 ナミとアーボンが挨拶すると、タッちゃんは一礼してから笑顔でナミとアーボンに言った。


「ナミ、アーボン、今日はよろしくな!」


「ぅん、がんばって」

「まかしとけって!」


 アーボンはそう言うとオロチの両手剣を装備して構えた。


 そしてナミは少し離れるとタッちゃんに言った。


「タッちゃん。武器のナックルと、レガースとかの防具は装備してる?」


「うん、ベンドレに買ってもらった! ジャージは上から着てる!」


「なら、だいじょうぶ。じゃぁ、アーボンと試合ね」


「うん!」


「ルールはかんたん。アーボンを10回叩いたらタッちゃんの勝ちね」


「うん!」


「アーボンは剣が下手だけど、つよいから1回でも当たったら負けるとぉもう。だいじょうぶ?」


「うん、だいじょうぶ! おれ、アーボンに勝つよ!」


「ふふ。ゎかった。じゃあ、はじめる」


「うん!!」


 こうしてアーボンとタッちゃんの試合が始まった。


 ◆


 試合の先手を取ったのはアーボンだった。


「いくぞ、タッちゃん! おりゃーーー!!」


 アーボンは両手剣を振りかぶってタッちゃんに走り込むと……、


 フッ


 なんとタッちゃんが消えた。


「ちょっ! 消えっ!?!?」


 アーボンはバランスを崩しながら足を止め、両手剣を構えなおしてタッちゃんを警戒した瞬間、アーボンは身震いするほどの恐怖と戦慄を覚えて呟いた。


「しっ、しまった! これは、おれが得意とする戦法!! まさかタッちゃんがっ……!!!」


 その瞬間、


 チーーーン


 なんとタッちゃんの拳がアーボンの股間にクリーンヒットした。


「げふっ!!!!」


 アーボンが痛みに顔を歪めながら自分の股間を見ると、そこには嬉しそうに拳を突き出しているタッちゃんがいた。


 それを見たアーボンは慌ててバックステップをしてタッちゃんから離れようとしたが、なんとタッちゃんはアーボンと同時に飛んで離れず、股間に2発目の拳をねじ込んだ。


 チーーーン!

「ぎゃーーー!」


 アーボンはパニックになって走り出そうとすると、タッちゃんはアーボンの右足を両手で掴んで体をひねり、見事にアーボンを転倒させた。


 ズザァァアアア……


 そしてタッちゃんはアーボンの上に馬乗りになると、茂雄直伝の高速ジャブを連続でお見舞いした。


 ◆


 ナミの判定でタッちゃんの勝ちが宣言されると、アーボンは笑いながらタッちゃんに言った。


「いやぁ……。まさかタッちゃんが、おれの得意技で仕掛けて来るとは思わなかったよ。ははは」


 それを聞いたタッちゃんは少し得意げに答えた。


「へっへっへ! ルルが、自分よりすっごく強い男の敵には、あれが一番効くって教えてくれた!」


「お、おお……。ルルちゃんが……。ま、まぁ、間違いじゃないな……。実際おれも格上の相手には使うしな……。ははは」


「それにベンドレが、敵は不意打ちをもらうと後ろへ逃げるって言ってたから追いかけた!」


「おいおいおい……、完全にバトルの英才教育じゃんか。うらやましいぜ。しっかし、さすがベンドレ師匠だな……」


 アーボンは自分の不甲斐なさとうらやましさが複雑に混ざった表情でそう呟いたが、すぐ目の前で、全身で嬉しそうにしているタッちゃんを見ると笑顔になったのだった。

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