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第85話 ひろし、心配する

 その日の夕方、おじいさんはタッちゃんと一緒にベンドレとルルの家に招待され、ルルの案内で家の中に入り居間へと案内された。


 おじいさんとタッちゃんは居間のソファに座ると、ベンドレが紅茶をもってやって来ておじいさんに言った。


「ひろしさん、昨夜は遅い時間にメッセージをしてしまいまして失礼いたしました」


 それを聞いたおじいさんは笑顔で答えた。


「いえいえいえ。ベンドレさんとルルさんがご一緒ということでしたので、かえって安心しました」


「そう言って頂けますと、私たちも救われます。タッちゃんは夜明け前に起きると、ひろしさんのために強くなりたいと強い意志で言いましたので、思わずルルと一緒にベイリゲンの鍛冶屋まで開放してしまいまして……」


「ベイリゲンの鍛冶屋さんまで開放していただいたのですか?」


「はい。調べたところ、キビダンゴで人間になった動物やモンスターは、プレイヤーのようにクエストを進めたり、ステータスポイントを溜めたりして強くなれるとのことでしたので」


「なるほど、そうでしたのですね。これはこれは、タッちゃんが大変お世話になりました」


 おじいさんが思わず立ち上がって頭を下げると、ベンドレとルルも慌てて頭を下げて、ルルがおじいさんに言った。


「ひろしさん、なんだか夜中にタッちゃんを連れだしちゃったみたいでごめんなさい。もうちょっと配慮するべきだったわ」


 ルルが済まなそうにおじいさんに言うと、それまで静かに座っていたタッちゃんは慌てておじいさんに言った。


「ひろし! ルルとベンドレは悪くない! ルルとベンドレはおれを手伝ってくれたんだ! おれはとっても楽しかった!」


 それを聞いたおじいさんは柔和な笑顔を浮かべてタッちゃんに言った。


「大丈夫ですよ。この中に誰も悪い人はいません」


 おじいさんがそう言うと、タッちゃんはパァっと笑顔になった。


 しかし、おじいさんは少しだけ真剣な表情でタッちゃんに言った。


「だけど、1つお約束してもいいかい?」


「え? ああ。うん」


「あのお家《うち》の外に出るときは、お家《うち》の誰かか、ルルさん、ベンドレさんと一緒に行くのですよ。良いかな?」


 タッちゃんは、おじいさんから「心配」という感情の匂いを感じて真剣に答えた


「わかったよ、ひろし。ひろしはおれを心配してるんだな。約束するよ、お家《うち》の外に行くときは強い大人と一緒に行く」


 タッちゃんがそう言うと、おじいさんは優しくタッちゃんを抱きしめた。


 ◆


 その日の夜。


 ブゥゥ……ン


「すごい! お家《うち》のまえだ!!」


 なんと、タッちゃんは転移魔法を手に入れて、ルルとベンドレと一緒にG区画の家の前に転移してきたのだった。


 ルルはタッちゃんの頭を優しく撫でると、優しい笑顔で言った。


「タッちゃん、すごいわよ! これで、ひろしさんと一緒にどこでも行けるわ!」


「やった! どこでも、ひろしと一緒!!」


「うふふ、そうね!」


 しかし、ベンドレは少し真剣な表情でタッちゃんに言った。


「タッちゃん。転移魔法は手に入れたが、まだまだひろしさんを助けるには力不足だ」


「……うん。そうだよな」


「そこでタッちゃんに決めてもらいたいことがある。タッちゃんは、どういう戦い方をしたいのか。それによって選ぶ職業が変わってくる」


「戦いかた……? えっと、おれはアカネみたいに敵を投げ飛ばしたい!」


「ふむ。では無職となるか……。ではそのまま転職しなくても良さそうだな」


「てんしょく?」


 するとそれを聞いていたルルがベンドレに言った。


「ねぇベンドレ。アカネちゃんも黒ちゃんも、もちろん大熊笹さんだって、現実世界で強すぎだからあれだけ戦えるだけで、ふつうの人間じゃ柔道で戦うのって難しいわよ?」


「ん? ……おお、そうか。すっかり忘れていたが大熊笹先生は金メダリスト、黒ちゃんさんは警察の大会で優勝までしているな……。アカネさんも高校レベルでは相当強いと聞いた」


「だから、わたしはタッチャンは武闘家とか良いんじゃないかって」


「……なるほど。たしかに武闘家であれば投げた後にナックルなどの武器でトドメを刺すことができるな」


「でしょ?」


 ルルとベンドレが話していると、それを聞いていたタッちゃんが不思議そうな表情でルルに尋ねた。


「なぁなぁ、ルルぅ? 武闘家ってなんだ?」


 ルルはそれを聞くと笑顔でタッちゃんに答えた。


「ほら、茂雄さん知ってるでしょ?」


「うん! 茂じいちゃん、とっても強いよな!」


「そうそう、あんな感じで戦うのが武闘家よ。たとえば、アカネさんみたいに投げて、茂雄さんみたいにトドメを刺したらカッコよくない?」


「おっ! おお! それって、とってもカッコいいな!!」


「うふふ。じゃあ決まりね」


 こうしてタッちゃんはルルとベンドレと一緒にレスカカルの「転職の神殿」に向かうことにしたのだった。


 ◆


 翌朝、タッちゃんは柔道の朝練に参加して、みっちり稽古をしていた。


 そしてその頃、庭のロッキングチェアで目覚めた茂雄は腹の上に手紙があることに気がついて手紙を読んでみた。


 手紙には、下手ながらも一生懸命書いたと思われる筆跡で茂雄へのお願いが書いてった。


 ーーーーーー

 しげじいちゃん

 タッちゃんです

 ぶとうかになりました

 つよくなりたいです

 おしえてください

 ーーーーーー


 手紙はルルと一緒にタッちゃんが一生懸命書いたものだった。


 茂雄は手紙を読んで柔和な笑顔になると、優しく手紙を畳んで声をもらした。


「僕なんかが、こんなに嬉しいお手紙をもらって良いのでしょうか。ははは」


 茂雄はゆっくりと空を見上げると、子どもの体格でもできる効率的な戦い方を想定したり、効率の良さそうな練習の方法を笑顔になりながら考え込んだ。


 ◆


 暫くすると、タッちゃんはアカネと一緒に庭にいる茂雄のところへとやって来た。


 タッちゃんはアカネに促されて茂雄の前までやって来ると、しっかりと頭を下げて茂雄にお願いした。


「茂じいちゃん! おれ、ひろしのために強くなりたい! だから、茂じいちゃんの強さをおしえてください!」


 タッちゃんがそう言うと、言い終わらないうちに茂雄は立ち上がってタッちゃんの肩を優しく撫でて笑顔で答えた。


「もちろんです、タッちゃん。僕がタッちゃんを絶対に強くしてみせますね」


 それを聞いたタッちゃんは満面の笑顔になると、嬉しそうに茂雄に言った。


「ありがとう茂じいちゃん! おれ、がんばるからな! ぜったいに強くなる!」


「はっはっは! その意気です、タッちゃん!」


 茂雄はタッちゃんの意気込みに笑顔で答えた。

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