第84話 ひろし、両手で受け止める
「いつもそうよね。……まぁ、いいけどさ。考えてる事もあるんだろうし」
ルルはそう言って眠っているタッちゃんを優しく撫でると、ベンドレは少し頭を項垂れた。
しかしルルは笑顔を見せると、ベンドレに言った。
「まぁ、私も急いでないけどね。でも、私の気持ちは知ってるでしょ? けど、急いでないって言ってもさ……」
ルルはそう言うと静かに下を向いた。
ベンドレは驚いて立ち上がると、ルルは少し弱気な視線でベンドレに言った。
「私がカワイイのは今だけなの。カワイイは時間が経つと無くなっちゃうの。だから私はカワイイうちにお嫁さんになりたいの……」
それを聞いたベンドレは心配しながら答えた。
「だがルル。お前はアイドルをしているし、こんな私とだなんて……」
「な、なによ! あなた、人気のアイドルと結婚してファンを敵にまわすのが怖いの?」
それを聞いたベンドレはいつになく真剣な表情で答えた。
「ルル。そこは勘違いしてほしくない。私は君のファンを敵にまわしても何も怖くない」
ベンドレはそう言うと、静かに膝をついて頭を下げた。
そしてルルと目を合わせると、ぎこちない笑顔を見せながらルルに言った。
「ルル。だいぶ待たせてしまったようだ。すまなかった」
「なによ。いまさら何言ってるのよ」
「本当にすまなかった。だが今この時、私はルルに想いを告げたい」
「え? ……ベンドレ?」
「ルル。私と結婚を前提に付き合てくれ」
その言葉を聞いたルルは雨上がりの空に晴天が輝くような表情を浮かべ、満面の笑顔で答えた。
「はい! 喜んで!」
こうしてベンドレとルルは喜々として抱き合い、婚約したのだった。
◆
翌日の夜明け過ぎ。
なんとタッちゃんは、日が昇る前からベンドレとルルと一緒に一気にメインクエストを進めていた。
そしてタッちゃんはベンドレとルルのサポートで物凄い速さでベイリゲン鍛冶屋を解放し、柔道の朝練に参加するために船でG区画の家へと戻っていた。
タッちゃんは目まぐるしい早朝に驚きながらも、ルルに尋ねた。
「なーなー、ルル? おれ、よく分かんないんだけど、おれ強くなったのか?」
それを聞いたルルは満面の笑顔で答えた。
「もちろんよ! 私とベンドレがついてるんだもの。それに、もう少しで転移魔法が使えるわよ」
「えっ、そうなのか!? おれ、転移魔法が使えるのか!? おれ、転移魔法使いたい!」
タッちゃんが嬉しそうに目を輝かせると、ルルは嬉しそうに答えた。
「まったくぅ。そんなに嬉しそうに言われたたら、お姉さんもっと頑張っちゃうわよ。なんたって、ひろしさんの大切なタッちゃんだしね!」
それを横で聞いていたベンドレは感心したようにルルに言った。。
「しかし驚いたな。キビダンゴを食べて人型になると、プレイヤーと同じようメインクエストを進めながらステータスも強くなれるとは……」
「ね。わたしもネットで調べた時は驚いたわよ。なんか昔イベントでゲットできたレアアイテムみたいね。弱いモンスターとか生き物を人間化できるなんて」
「ああ。私がこのゲームを始めた頃はそのようなイベントは無かったのだがな」
ルルとベンドレが話し込んでいると、そこに割って入るようにタッちゃんがルルに言った。
「ねーねー、なんの話してるの? おれも知りたい! なんの話ー?」
するとルルはタッちゃんに優しく答えた。
「うふふ。タッちゃんが特別で凄いって話してたのよ」
「えっ! そうなのか? おれ、凄いのか?」
「もちろんよ! ねぇ、ベンドレ?」
ベンドレはルルから振られると笑顔でタッちゃんに言った。
「ああ、いまルルとタッちゃんは特別で凄いと話していたんだ。……それにしても、なんだか子供ができたみたいだな。子供は苦手だったが、こんなに良い子ならばお世話も楽しいものだ」
しかしそれを聞いたタッちゃんは少しだけ不機嫌そうに答えた。
「おれ……、お世話されてるのか?」
タッちゃんがそう言うと、ルルは満面の笑顔でタッちゃんに言った。
「タッちゃん。わたしたちはね、ひろしさんにとってもお世話になったの。だから、タッちゃんもお世話せてくれない?」
「えっ、ひろしがルルたちをお世話したのか?」
「ええ、そうよ。……ううん、そうねぇ。じゃあ、こういう言い方のほうが良いかしら。わたしたちはタッちゃんをお手伝いしているの」
それを聞いたタッちゃんは少し嬉しそうに答えた。
「お手伝い! なんか、それなら嬉しいな!」
「でしょ? うふふ、じゃあ今日の夜もお手伝いさせてもらって良いかしらタッちゃん」
「うん! 夜もルルたちにお手伝いしてもらう! ありがとな、ルル! ベンドレ!」
タッちゃんは背伸びをしながら笑顔になると、ルルとベンドレもつられて笑顔になった。
◆
タッちゃんはG区画の家に戻ると、柔道の朝練に参加し終えて昨日のように大広間のソファでぐったりとしていた。
するとそこへ、アカネの眷属の茶太郎がやってきてタッちゃんに言った。
「ねぇねぇタッちゃん、大丈夫? 無理してないか?」
それを聞いたタッちゃんは少し笑みを浮かべながら答えた。
「へへ。ちょっと疲れたけど、楽しかったからな。おれ、ぜったい強くなって、ひろしを守るんだ」
「タッちゃんはすごいな。ぼくもタッちゃんみたいに手足が伸びたらアカネみたいに投げ飛ばしたいんだけどなー」
タッちゃんが茶太郎と話していると、それを横で聞いていたアカネが不思議そうにタッちゃんに尋ねた。
「なぁタッちゃん。さっきからガウガウ、わんわん言ってるけど、もしかして茶太郎と話してるの?」
そう、タッちゃんは茶太郎に合わせて犬のように発音して会話をしていたのだった。
タッちゃんはアカネの言葉に首をかしげながら答えた。
「うん、そうだよ。アカネは茶太郎と話せないの?」
アカネはそれを聞いて驚くと、目を輝かせながらタッちゃんに言った。
「まじか、すごいな! タッちゃんさ、茶太郎にあたしの眷属になって良かったか聞いてくれない?」
「え? うん、聞いてみる」
タッちゃんはそう言うと茶太郎に話した。
「アカネがね、茶太郎がアカネの眷属になって良かったかって聞いてって」
すると茶太郎は嬉しそうに答えた。
「もちろんだよ! アカネはいつもね、たくさん遊んでくれるんだ。へへへ」
それを聞いたタッちゃんも嬉しそうにアカネに言った。
「アカネ! 茶太郎はアカネがたくさん遊んでくれて喜んでるぞ!」
タッちゃんがそう言うと、アカネは思わず感動しながら茶太郎を抱き上げてモフモフしながら茶太郎に言った。
「茶太郎ー! 嬉しいこと言ってくれるじゃんかー! はははは!」
アカネは茶太郎を抱きかかえたまま走り出すと、自動ドアから庭に出て茶太郎と追いかけっこを始めた。
するとその時、おじいさんがG区画の家に現れ、それに気づいたタッちゃんは満面の笑顔でおじいさんの所へと走っていった。
「ひろしー!」
おじいさんは走って来たタッちゃんを両手で受け止めると、嬉しそうに言った。
「はっはっは。タッちゃん元気そうですね」
「うん! ひろし、おれな、ルルとベンドレとな、ええと、なんだっけ、えっと、忘れちゃったけど、いっぱい探検したんだ!」
「あぁ、そうでしたね。ベンドレさんからメッセージをもらって聞いていますよ。タッちゃんは、とっても頑張ったって」
「え? おれ、なんにも頑張ってないよ? おれはな、ルルとベンドレに手伝ってもらってな、えっと、うーんと、うん! 楽しかったんだ!」
「はっはっは、それは良かったですね」
おじいさんは優しく笑うと、笑顔でタッちゃんを抱きしめた。




