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第83話 タッちゃん、頑張る

 ―― 翌日の朝 ――


 大熊笹とアカネ、そして黒ちゃんは柔道の朝練をしようと2階の道場へとやって来ると、なんとそこには少年の姿になったタッちゃんがいた。


 大熊笹たちが驚いていると、タッちゃんは少しオドオドしながらも、意を決したように声をあげた。


「熊じいちゃん、アカネ、黒ちゃん!! おれに……、おれに柔道を教えてくれよ!!」


 それを聞いた大熊笹たちは一瞬驚いたが、すぐに満面の笑顔になってタッちゃんに答えた。


「はっはっは! もちろんですとも!」

「タッちゃん! きみは最高だよ!!」

「もちろんです! 任せてください!」


 タッちゃんは大熊笹たちの笑顔を見ると、パァァっと表情を明るくして言った。


「ありがとう!! 熊じいちゃん! アカネ! 黒ちゃん! おれ、絶対頑張るから、よろしくな!!」


 大熊笹たちはタッちゃんの愛くるしい決意を聞いて、おもわずタッちゃんを抱きしめた。


 ―― 1時間後 ――


 タッちゃんは畳の上でボロ雑巾のように転がりながら近くにいたアカネに聞いた。


「な……、なぁ、アカネ……。柔道って……、こんなに大変なんだな」


 それを聞いたアカネは優しい笑顔で答えた。


「ははは! 何言ってんだよタッちゃん。タッちゃんはラッキーなんだよ? だって世界で一番強い熊じぃが、初日から投げ技を教えてくれてるんだからさ」


「えっ? 熊じいちゃんって世界で一番つよいの?」


「そりゃそうだよ、だってオリンピックで金メダルとったんだから! それに、あたしもそうだったけど、1年くらいは筋トレとか基礎錬ばっかりで技なんて教えてもらえなかったんだよ」


「そうなの? アカネが? あんなに強いのに?」


「まぁ、それが現実なんだよ。でもさ、熊じぃはこの世界で会った時から色々教えてくれたんだ。な、熊じぃ?」


 アカネが嬉しそうに大熊笹に言うと大熊笹は笑顔でタッちゃんに言った。


「はっはっは! 柔道のような伝統的なものは下積みや修行のような悪しき習慣が残っている事もありましてな。私は筋力が少ないうちは、それでもできる技術を。そして力がついてきたら、それを活かす技を教えているんです」


 タッちゃんは大熊笹の言っている意味があまり良く分からなかったが、大熊笹が信用できる大人だということを本能的に理解したのだった。


 ◆


 その日の昼ころ、おじいさんたちはG区画の家に続々とやって来た。


 おじいさんはG区画の家に入ると、居間のソファでぐったりしているタッちゃんを見つけて慌てて駆け寄った。


「あぁ、タッちゃん。大丈夫ですか?」


 しかしタッちゃんは薄っすらと笑みを浮かべながら答えた。


「大丈夫だよ、ひろし。とっても楽しかったから……」


 するとアカネがやってきて、おじいさんに説明した。


「じぃちゃん、実はさ。朝練の時に、タッちゃんが柔道を教えてくれってやって来てさ」


「ええっ!? そうなのですか?」


「けど、めっちゃ真面目でさ。あたしたちの朝練の時間、がんばって一緒に稽古したんだよ。いやぁ、なかなか根性あるっていうか。ははは」


「……そ、そうでしたか」


「だからさ、タッちゃん褒めてやってよ。あたしも褒めたんだけどさぁ、じぃちゃんが褒めるのが一番だと思ってさ」


 それを聞いたおじいさんは笑顔でウンと頷くと、タッちゃんの頭を撫でながら言った。


「タッちゃん、よく頑張りましたね。すごいですよ!」


 タッちゃんはおじいさんに頭を優しく撫でられると満面の笑顔になって答えた。


「うん、おれ頑張った! でもね、おれ、もっと柔道つよくなって、ひろしを守るんだ! ひろしに近づいてきた敵をアカネみたいに投げてやるんだ!!」


 タッちゃんはそう言ってアカネのマネをして一本背負いのジェスチャーをすると、それを見たおじいさんは、タッちゃんの決意に感動したのだった。


 ◆


 その日の夜、おじいさんたちがログアウトして夜が更ける頃、タッちゃんは一緒に寝ていたララ助とお母さんから静かに抜け出し、コッソリと和室から大広間に出た。


 そしてウンと頷いて家の外に出ようとすると、静かにタッちゃんの肩を叩く人物がいた。


 トントン……


「タッちゃんさん。こんな夜更けにどちらへ?」


 タッちゃんは慌てて振り返ると、なんとスノードラゴンのスノたんが女性の姿で立っていた。


「あっ、えっと、あの……、練習っていうか、力試しっていうか……」


 それを聞いたスノたんは感心したように答えた。


「なるほど。ですが1人で外へ出かけるのは危険ですので許可できません。……とはいえオスが力をつけようと……。それは感心しますね」


「えっ? オスは力があると感心なの?」


「いえ。オスが強いという事は魅力の1つというだけです。しかし力のみならず、政治力、洞察力、集中力、1つの事に秀でる能力、自分の意思を強く持つ能力、自分の痛みを理解して他人に優しくする能力、静かに秘めながら温めている能力などは有利に働くかもしれません」


「そ、そうなの?」


「ええ。しかし、オスの魅力とはそれだけではありません。性別問わず能力のある誰かを一生懸命サポートしたり、自分の意思を発信することで世界を変えようとするするオスたちも居るのです。彼らは裏方のようで表舞台で活躍しているのです」


「す、すごい! でも、おれは1つも持ってない……。おれはオスの力がない……、の?」


「うふふ、大丈夫ですよ。あなたは若いのですから。これから身につければ良いのです」


「これから?」


「ええ。私たちはナミ様にテイムされている身ですから、シロたんやララガ親子共々ナミ様の許可が無ければ、この家の外には出ることは出来ません。ですが、あなたは人間ですのでこの家から出られます。もちろん1人ではだめですが」


「うん」


「しかし、あなたはオスとして修行を積むのが良いと思います。ちょうど、サポートして頂けそうな方がいらっしゃっるみたいですので」


「えっ!? 誰かくるの?」


 タッちゃんがそう言った瞬間、なんとルルとベンドレがG区画の家にやってきた。


「こんばんはー!」

「夜、遅くに失礼します。お借りしていた鉢を返しに来ました」


 ルルとベンドレは少年のタッちゃんと、少し後ろに下がったスノたんを見て「?」となっていたが、スノたんはタッちゃんに静かに耳打ちをした。


「タッちゃん、こちらの男女のツガイはオスとメスがとても強い絆で繋がれています。オスは強くて寛容、メスはそれを愛しています。タッちゃんもオスとして勉強なされては……?」


 すると、それを聞いたタッちゃんは真剣な面持ちでルルとベンドレに言った。


「お……、おれはタッちゃん! ひろしに良くしてもらってる! え、えっと、スノたんが、そこのオスは強くて寛容でメスはそれを愛しているって言ってた! おれもオスとして勉強させてくれよ! おれもオスとしての魅力が欲しい!」


 それを聞いたルルとベンドレは一気に顔を赤くして無言になった。


 ◆


 その日の夜、事情を説明したタッちゃんはルルとベンドレの家でたくさん遊んだり勉強したりして、そのまま2階にあるキングサイズのベッドでスヤスヤと眠っていた。


 その様子を並んでベッドの脇から見ていたルルとベンドレは柔らかな笑みを浮かべながら話していた。


「ルル。この子は退屈しそうな魔法の話をずっと真剣に聞いていたな」


「うふふ、そうね。でもさぁ、あんなキラキラした目でひろしさんを守りたいなんて言われたらさぁ」


「そうだな。この子は魔法の攻撃を防ぐ方法を熱心に聞いていた。これも、ひろしさんのためなのだろうな」


「でしょうね。……でも、この子の寝顔、うふふ……、本当にかわいいね。ほっぺたプニプニしたいわ」


「ははは、そうだな。……ええと、……もし、子供が……。いや、ええと……、なんでもない」


 ベンドレはそう言って言葉を濁して下を向くと、その様子を見たルルは少し真剣な声色でベンドレに言った。


「いつもそうよね。……まぁ、いいけどさ。考えてる事もあるんだろうし」


 ルルはそう言って眠っているタッちゃんを優しく撫でると、ベンドレは少し頭を項垂《うなだ》れた。

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