第82話 タッちゃん、現る
―― 夕方 ――
アーボンの家の2階にあるナミ一家の拠点では、リスポーンしたマラツンたちがガックリと頭を項垂れながら話していた。
「ツックン、サソリ、マムシ、みんなごめんな。おれがテンパったせいで負けちまって……」
「いえいえっ、自分も完全に……」
「そうっすよ。先輩だけじゃ……」
「イフリート、強かったっす……」
するとその時、寅次郎を抱えたナミが拠点のドアを開けて現れた。
それを見たマラツンたちは慌てて飛び出して直角に頭を下げながらナミに言った。
「ナミさん、すみませんでした!」
「せっかく指示をいただいたのに」
「ヘナチョコで申し訳ないです!」
「かっ、回復薬見つけられずに!」
しかしナミは優しく答えた。
「みんな、よく頑張ってた。きょうの負けはゎたしのせい。ごめんなさい」
ナミはそう言って頭を下げると、マラツンたちはナミの行動に驚きすぎて固まった。
ナミは頭をゆっくりと上げると寅次郎を降ろしてアイテムの「イフリートの召喚石
」を手に出現させてマラツンに差し出した。
「この召喚石を地面になげつければ15秒だけイフリートが戦ってくれる。召喚士とかがいなぃパーティがイフリートに勝つともらえる。使って」
それを聞いたマラツンは驚きながらナミに言った。
「そ、それって、ナミさんイフリートに勝ったんですか?」
「ぅん。さっきまで戦ってて、ちょっと時間かかった。でも寅次郎ゎ経験をつんで強くなったとぉもぅ」
「そ、そうっすか……。ほんと、すみません。そんで寅次郎のこと、ありがとうございます。……でも、おれがヘタレのせいで迷惑かけてしまって……」
マラツンは再びガックリと頭を項垂れた。
◆
その頃G区画の家では、家の中に突然現れた8歳くらいの少年に全員が驚いていた。
「え? この子だれ?」
「ははは! 子供だ!」
「あらあらあらあら!」
「突然現れましたなぁ」
少年は嬉しそうに家の居間を走り回ると、おじいさんを見つけて満面の笑顔で飛びついた。
「ひろしー!! 溶岩ようかん食べたーい!!」
少年はおじいさんに抱きつくと、おじいさんも何故かいつもの通りのような気がしながら少年の頭をなでた。
「はははは。君はどこから来たんだい? でも、なんだか知っているような……」
すると少年は口を尖らせて少しだけ不機嫌になると、薄っすらと目に涙を浮かべながらおじいさんに言った。
「なんだよぉ。おれだよ、タッちゃんだよぉ……。さみしいじゃんか、ひろしぃ」
「「「えええええぇぇぇぇええっっ!!!」」」
G区画の家の住人は一斉に驚いた。
◆
結局、黒ちゃんがテーブルの上に置き忘れていたキビダンゴ(弱い動物やモンスターが食べると人間になってしまうというアイテム)をタッちゃんが食べたという事が判明した。
そして突然現れたタッちゃんはとても愛らしく、一躍G区画の家の人気者になったのだった。
めぐはタッちゃんにカワイイ服をあてがって満面の笑顔でタッちゃんに言った。
「うふふ。タッちゃんには、やっぱりカワイイ服が似合いそうだよねー」
しかし、それに対抗するようにアカネが柔道着をあてがってタッちゃんに言った。
「いやいやいや! タッちゃんは男の子なんだから、強い服がいいよな! だったら柔道着だって! タッちゃんだって強くなりたいだろぉ?」
するとイリューシュも嬉しそうに綺羅びやかな服をあてがって言った。
「ふふふ。タッちゃんは認定英雄ひろしさんのお子さんのようなものですもの。でしたら、このような高貴なお洋服を……」
しかしタッちゃんは顔をフルフルと横に振って嫌がると、満面の笑顔でイリューシュたちに言った。
「おれ、ジャージがいい! ひろしと一緒がいい! ねぇ、ひろしと同じの、みどりのジャージ無いの!?」
それを聞いたイリューシュたちは一瞬驚いたが全員納得して考えた。
「緑のジャージ……、なのですね……」
「そっか、じぃちゃんのが好きだよな」
「でも、おじいちゃんのジャージって」
すると、おじいさんは昔着ていた緑のジャージを出現させると、優しくタッちゃんに手渡した。
「はい、タッちゃん。このジャージでもいいかな?」
タッちゃんはおじいさんが出現させた緑のジャージを見ると、嬉しそうに飛び上がっておじいさんに駆け寄った。
「はははは! ひろしの緑のジャージだー!!」
タッちゃんはおじいさんから緑のジャージを受け取ると嬉しそうに身に着けていった。
そして、シュッと上着のチャックを上げるとホクホクとしたドヤ顔でイリューシュたちを眺めながら言った。
「へっへっへー! かっこいいだろー? ひろしのジャージだぞっ!!」
タッちゃんは満面の笑顔で嬉しそうに腕を組むと、その小さく愛らしいドヤ顔にG区画のメンバーはメロメロになった。
―― 夕方 ――
おじいさんたちはログアウトしていこうとすうると、少年になったタッちゃんがおじいさんのズボンをつまんで言った。
「なぁ、ひろし。今日はとっても楽しかった。みんないつも優しかったけど、今日はもっと優しかった。明日も……、とっても楽しい?」
それを聞いたおじいさんは優しく答えた。
「ええ、もちろんですよ。タッちゃんはね、わたしにとって、とっても大事な存在なんですから。明日も一緒に楽しみましょうね」
それを聞いたタッちゃんは大きく息を吸って答えた。
「うん、明日もな! じゃあな、ひろし! また明日な!」
タッちゃんは笑顔で手を振ると、おじいさんたちは笑顔でログアウトしていった。
するとララ助がやって来てタッちゃんの頬を優しく舐めながら言った。
「タッちゃん、ひろしと話せるようになって良かったね! ずっと夢見ていたものね!」
しかしそれを聞いたタッちゃんはララ助の首にしがみつきながら答えた。
「うん……。でも、ひろし帰っちゃった。いつも夜さみしいよ。ひろしに会いたい……」
タッちゃんがそう言うと、ララガのお母さんがゆっくりと和室にやって来てタッちゃんに言った。
「ようやく私たちと言葉が交わせるようになったわね。あのねタッちゃん。少し厳しい事を言うかもしれないけれど……、あなたは、ひろし様のために強くならなくてはならないわ」
「えっ……。でも、ひろし、とっても強いよ? おれが強くなる必要があるの?」
「ふふふっ。じゃあ、あなたは一生ひろし様に守られて生きるのかしら? だとしたら、あなたは、ひろし様に何の恩返しができるのかしら?」
「……おん、返し……?」
「そうよ。私たちはナミ様と契約している。我ら親子はナミ様をお守りする事が使命」
「使命……?」
「ええ。私たち親子は、ナミ様が助けてくれたの。だから、私たちはナミ様をお守りする。それが恩返しよ」
「……そっか。おれは親が居なかったから寂しかったけど、ひろしがこのお家に連れてきてくれた」
「ひろし様はね、あなたを寂しさから救ってくれたの。それが、ご恩よ」
「……ごおん」
「だからあなたも、ひろし様のご恩をお返しするの。それが恩返しよ」
するとそれを聞いたタッちゃんは目をキラキラと輝かせてお母さんに言った。
「おれ! おれ恩返しする! ひろしに恩を返すよ!」
お母さんはタッちゃんの目を見ると、少し嬉しそうにしながらも冷静を装って答えた。
「タッちゃん、それなら良い方法があるわ。ひろし様は遠距離攻撃が得意なの。だから敵が近くに来てしまうと危ないの」
「そ、そうなのか?」
「ええ。だからね、タッちゃんは……」
こうして夜は更けていった。




