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第8話 ひろし、待機中

 美咲は逃げるプレイヤーを追いかけると、逃げるプレイヤーは戦闘状態ではなかったのでVRグラスを外してログアウトしていった。


 美咲は足を止めると、小さく呟いた。


「あの装備、大司教に間違いない。この辺りでは手に入らないはず……。偵察か……?」


 美咲はイリューシュにボイスチャットを繋いだ。


「イリューシュさん。ログアウトしていった怪しいプレイヤーがいました」


「了解です、美咲さん。どのように怪しかったのでしょうか」


「怪しい装備の大司教を見つけたので追いかけたら、逃げてログアウトしました。あの装備は『風斬りのローブ』……」


「風斬りのローブですか……。あれは大司教の攻撃魔法の威力を増すローブ……。たしかに怪しいですね」


「はい。風斬りのローブはイークラト地区に出るカマイタチを狩る必要があるはずです」


「そうですね。敵もそれなりに強いプレイヤーが居そうですね。気を引き締めて警戒を続けましょう」


「はい」


 美咲はボイスチャットを切ると、少し考え込んだ。


 ◆


 その頃、おじいさんたち、ひろし・チームは、見晴らしの良いG区画の家の前に集まってタケチから話しを聞いていた。


「本当にすみません。僕がグレートリセットなんて言い始めたから、こんな事に……」


 するとアカネが頭の後ろに両手を組みながらガックリしているタケチに言った。


「でもさぁ、さっきイリューシュさんが言ってたけど、裏で糸引いてるのってタケチさんの偽物なんでしょ? それじゃぁ、しょうがないよ」


 おじいさんもタケチに言った。


「そうですね。悪い人間がタケチさんの言葉を聞いて都合が良いと思っただけです」


 大熊笹も続いた。


「その通り。たまたま、それがタケチさんだっただけです」


 それを聞いたタケチは目に涙をうかべて頭を下げた。


「うっ、ううっ。ありがとうございます、みなさん……」


 すると茂雄もタケチを励ますように声をかけた。


「タケチさん。過去は戻りませんが、良い未来にする事はできます。とにかく今はピンデチを守ってお役に立ちましょう」


「そ、そうですね。ありがとうございます……」


 その時、アーボンは思い出したようにみんなに提案した。


「あ、そうだ。おれたち自己紹介まだだったですね。おれアーボンです。当たらないけど両手剣使い。皆様(みなさま)には先日大変失礼を……」


 それを聞いたおじいさんたちは笑いながら手を横に振った。


 アーボンが自己紹介を終えるとタケチも自己紹介をした。


「もう、みなさんお知り頂いてますよね。タケチです。片手剣を使います」


 すると召喚魔道士のマラツンが手を挙げて自己紹介を始めた。


「おれはマラツンっす。召喚魔道士でベヒーモスを召喚できるっす……。っても一回やられちゃったんで短い時間しか出せないんすけど」


 そしてマラツンは後ろにいる3人の仲間を紹介した。


「こいつらは後輩のツックン、サソリ、マムシっす」


「ツックンです。槍使いです」

「サソリっす。剣士っす」

「マムシです。なんか色々使います」


 すると今度はアカネが自己紹介をした。


「あたしアカネ。無職だよ。で、こっちが熊じぃ」


「大熊笹です。無職です」


 おじいさんも大熊笹に続いた。


「あ、ひろしと申します。無職です」


 最後に茂雄も自己紹介をした。


「茂雄です。ええと、武闘家です」


 それを聞いたアーボンは驚いて聞き返した。


「えっ、ええと? 茂雄さんが武闘家……? そんで、みなさん無職……?」


 アカネは驚いた様子のアーボンに聞いた。


「なんか変?」


「え、いや、なんつうか、さっきの戦いでアカネちゃんと大熊笹さんめっちゃ強かったし……」


「え? そう? へへへ」


「ああ。それに、ひろしさんは正確に火薬玉投げてたし、茂雄さんは動きが素人じゃなかったし……」


「へっへー、みんな凄いでしょ。熊じいはオリンピック金メダリストで、茂じいはボクシング世界チャンピオン、じいちゃんはピッチャーで甲子園の決勝まで行ったんだよ」


「「「ええっ!!」」」


 アーボンたちは一斉に驚いた。


 ー 夜 ー


 おじいさんたちはG区画の家の前で楽しくお喋りをしていた。


 アカネは地面に(えだ)の先でみんなの似顔絵を描きながらアーボンに尋ねた。


「ってか、アーボン現実世界ですっごい稼いでるって聞いたけど、どんだけお金もってるの?」


「え? 金か? ははは。実は稼いだ金、全部迷惑かけたプレイヤーさんたちに送金しちゃったんだ」


「え!? まじで?」


「ああ、まじで。みなさんにハデスを助けてもらってから、思うところがあってさ。だから今おれ、ぜんぜん金無いんだよ。ははは」


「やば! ちょっとは残しとけば良かったのに」


「いやぁ、何ていうかスッキリしたっていうか。だから今オンラインで就職活動してて。今更(いまさら)だけど、ちょっとはカッコイイ人間になりたくてさ。ははは」


 するとその会話を聞いていた大熊笹が感心しながらアーボンに言った。


「アーボンさん。あなたは素晴らしいですな。もうすでに格好良い人間です」


「え? いや、そんな。今はただの無職なんで。ははは」


 すると、おじいさんも笑顔になりながらアーボンに言った。


「アーボンさん、あなたのした事はなかなか出来ることじゃありません。素晴らしいです」


「そんな、ひろしさんまで。おれは迷惑かけて稼いだ金を返しただけっていうか……」


 アーボンは照れくさそうに目を逸らして海岸のほうを見ると、なんと大勢のプレイヤーたちが集まっているのが見えた。


「えっ!? あれ、いつの間に!? 海岸に大勢人がいる!」


 みんなはアーボンの声に一斉に海岸を見ると、ゆっくりと不自然に歩いてくる大勢のプレイヤーたちが見えた。


 それを見たアカネは急いでイリューシュにボイスチャットを繋いだ。


「G区画の海岸にたくさんプレイヤーが来たよ!」


「了解です、アカネさん」


 イリューシュはボイスチャットを受けると、社長とボイスチャットを繋いだ。


「エージェントのイリューシュです。今、G区画の海岸にたくさんのプレイヤーが現れたとの連絡がありました」


「そうか! では全員でG区画の海岸へ向かおう!」


「いえ社長、もしかすると罠かもしれません。ピンデチの村はたくさんの強いプレイヤーが守っていますが、全員が移動すれば隙ができます」


「そうか。その通りだな。ではエージェント。何か良い案はあるか」


「まずは空にいるドラちゃんと、ハデスさん、そして黒猫さんに救援に行って頂きましょう」


「うむ。では、指示は任せた」


「はい」


 イリューシュはボイスチャットを切ると、ルルに頼んで空に小さな光の魔法を出現させた。


 するとそれを合図にドラちゃんはゆっくりと降りてきてイリューシュの指示を伺った。


 イリューシュは近くまで降りてきたドラちゃんに手で合図をして指示を出すと、G区画の海岸へと向かわせた。

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