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第79話 めぐ、ムフムフする

 それから数日後、僧侶の魔法を使えるようになったおじいさんは、G区画のメンバーと一緒にルシフェルの魔城のクエストを進めるために転移ポイントにやって来ていた。


 イリューシュは先頭に立つと、みんなに魔城の構造を説明した。


「みなさん。この魔城は地下12階層で出来ていて、3階層ごとに転移ポイントがありますから、本日は3階層の転移ポイントまで行きたいと思います」


「「はい!」」


「ですが、この1階層には『青の祝福の杖』という僧侶の杖がありますので、ひろしさんに……」


 イリューシュがそこまで言うと、アカネが元気に手を上げてイリューシュに言った。


「はい、はーい、はーい!」


「はい、アカネさん。どうしましたか?」


「あたし、その杖知ってるかも。青い玉がついてる杖っすよね?」


「ええ、その通りです。アカネさん、どうしてそれを?」


「あたし、スキルが試したくてこの階のスケルトンと戦いまくって、宝箱も全部あけちゃって……。ははは」


「そうだったのですね。ふふふ、アカネさんらしいわ」


 するとそれを聞いていた黒ちゃんがアカネに言った。


「アカネ、それが本当なら実は助かるのだ。なにしろ、我らは僧侶の杖が必要無かったゆえ、宝箱の場所を忘れてしまっていてな……。先程、イリューシュさんとも話していた所なのだ」


「まじで? なら、あたしに任せてよ! こっち、こっち!」


 アカネは嬉しそうにみんなを先導していった。


 ◆


 おじいさんたちは、道中に現れたスケルトンたちを首尾よく倒しながら進んでゆくと、アカネの案内で宝箱のある部屋へと辿り着いた。


 そしておじいさんは宝箱を開けると、中には青色に輝く僧侶の杖が光を放っていた。


「おぉぉ……、これは美しい……」


 おじいさんは呟きながら杖を取り出すと、おじいさんの目の前にメッセージが現れた。


 ーーーーーーーーーーーー

 ■ 青の祝福の杖 ■

 治癒魔法の効果     25%増加

 防御魔法陣の耐久値   30%増加

 治癒魔法時MP消費量  20%抑制

 ボーナス:MP自動回復 10P/m

 ーーーーーーーーーーーー


 おじいさんは杖の概要を見てある程度理解できたが、最後の「ボーナス:MP自動回復 10P/m」だけが理解できずにイリューシュに尋ねた。


「ええと、イリューシュさん。杖の説明が出たのですが、ボーナスでMP自動回復……10ピー、ナナメ線、エムというのは……」


 それを聞いたイリューシュは笑顔で答えた。


「あ、Ten points per minuteですね。それは1分ごとに10ポイントのMPが自動回復するという意味です」


「おお、なるほど。それは嬉しいですね」


「ええ。この世界では、攻撃力と防御力の合計からアルゴリズムで計算されて最大HPとMPが決定されるので、魔法攻撃力が9000を超えるひろしさんは最大MPが多いはずです。ですので……」


「あるゴリ……、ずむ……?」


 すると横で聞いていた黒ちゃんがおじいさんに説明した。


「ひろしさん。簡単に言うと、最大HPは物理攻撃力と物理防御力が多ければ多くなり、最大MPは魔法攻撃力と魔法防御力が多ければ多くなるのです」


「なるほど、そういう仕組だったのですね」


「ですが例外もありまして、我ら騎士はステータスポイントを割り振る時に、最大HPを増やさない代わりに攻撃力や防御力を増すこともできるのです」


 するとその話を聞いていためぐが驚きながら黒ちゃんに尋ねた。


「黒ちゃんさん、それって魔法騎士もですか? わたしこの間ステータスポイントを防御力に全振りしたんですけど、最大HPの事って何も書いて無くて……」


「それなのですが……、ステータスポイントを変換する時の確認画面に『最大HPを増やさない』ボタンがあるのです。ですが、ほとんどの方は『決定』ボタンを連打してしまうので……」


「あ……。わたし、それだったかも……」


「はい。みなさん、ステータスポイントの交換は嬉しいので決定を急いでしまうのです。私も最初は見逃していました」


「なんだろう……、なにかの会員登録の時に、長文の規約を飛ばして『同意』ボタンを押しちゃう感じっていうか」


「そうなのです。ですので、度々ツイッタグラムでも話題になっていますね。ですが、めぐさんの場合はHPも伸ばしたほうが良いと思います」


「え? そうなんですか?」


「はい。めぐさんは盾主体で戦いますが、攻撃力の大きな攻撃を盾で受ければHPも減ることがあります」


「あ、確かに! 美咲ちゃんの突きで盾がまくり上げられちゃった時、HPが減ったかも」


「そうなのです。なので、めぐさんは最大HPも増やしたほうが良いと思います」


 するとその時、アカネがふと思い出したようにめぐに言った。


「そういえば、めぐ。この階にメッチャ丈夫そうな盾が入ってる宝箱があるよ」


 その言葉を聞いためぐは思わず笑顔になったが、イリューシュと黒ちゃんは思い出したように表情を曇らせた。


 しかし、めぐは嬉しそうにアカネに聞いた。


「アカネ! その盾ってどこにあるの?」


「え? すぐそこだよ。メッチャ頑丈そうな盾で、めぐに良いかもよ!」


「やった! それ欲しいかも!」


 するとイリューシュが少し遠慮ぎみにめぐに言った。


「めぐさん……。ええと……、その盾は確かに頑丈な盾で、耐久値も無限と言って良いほど飛び抜けていますし、防御性能も最上級なのですが……」


「えっ!? そんなレアな盾なんですか?」


「ええ。ですが、その盾は『挑発の盾』と言って、プレイヤー以外の敵は、全てめぐさんに攻撃しに来てしまうのです……」


「えっ……、それって……」


「はい。いわゆる敵の敵視を集める、タンクさん用の盾ですね」


 しかしその時、めぐの頭の中では妄想が爆発した。


 ◆◆ めぐの妄想の中 ◆◆


「ひろしさん! イリューシュさん!」


 魔城での壮絶な戦いの中、おじいさんは敵の魔法で瀕死となり、あのイリューシュまでもが片膝をついて息を荒くしていた。


 しかし黒ちゃんは、HPが少なくなりながらも決死の突撃をしかけた。


「アカネとみなさんは私が守る!!! でやぁぁあああ!!!」


 そして、それに続くかのように手負いのアカネと大熊笹、そして茂雄が飛び出した。


「まって黒ちゃん! あたしも戦うよ!」

「わたしも加勢しますぞ!」

「ぼくも加勢します!」

「わんわんわん!」


 そしてアカネを追うように茶太郎も飛び出すと、卑劣な魔城の敵は茶太郎に向けて魔法を放ちながら笑った。


「はぁーっ、はっはっは!! まずは、そのひ弱そうな犬から始末してやろう!!」


 ババババババババ!!!


 魔城の敵から茶太郎へと魔法が放たれると、それを見たアカネが慌てて声をあげた。


「茶太郎!!! だれか茶太郎を助けて!!!」


 するとその瞬間、めぐが挑発の盾を構えて飛び出した。


「待ちなさい!! あなたの敵はわたしよ!!」


 パァァアアアアン!!!


 めぐの挑発の盾は見事に敵の魔法を受け流し、めぐは魔法の発動のために片手剣を引き抜いてポーズを決めた。


 そして笑顔を見せながら茶太郎を気遣うと、後ろにいたイリューシュたちに言った。


「挑発の盾で敵を引きつけます。みなさんは、その間に回復を!」


「はい!」

「ありがとうございます」

「めぐ……」

「めぐさん……」

「たすかります」

「クゥゥン……」


 めぐはその言葉を背中で聞くと、ニヤリと笑って美しく飛び出した。


「みなさんには指一本触れさせないわ! タンクの魔法剣士、めぐが守り抜いて見せる!! やぁぁあああああああ!!!」


 めぐは剣で土の塊を出現させて敵へと投げつけると、挑発の盾を前にしてシールドバッシュを発動した。


 ◆◆ めぐの妄想……、おわり ◆◆


 めぐはムフムフと不気味な笑みを浮かべると、突然キリッとした表情になってイリューシュに言った。


「ぃやります!! わたしタンクぃやります!!」


 こうして、めぐは挑発の盾を手に入れてG区画の家のタンクになったのだった。



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