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第77話 ひろし、チュン!

 その頃、おじいさんと清とイリューシュ、そしてヒマをしていたアカネは、清のメインクエストと、おじいさんの並行転職のために船でレスカカルへと向っていた。


 甲板では、おじいさんが連れてきたタッちゃんとアカネの眷属の茶太郎が嬉しそうに遊び、清はイリューシュからクエストの詳細を聞いていた。


 そして、おじいさんとアカネはタッちゃんと茶太郎のおやつのために釣りをしていた。


 アカネはヒマそうに釣り竿を雑に振り回しながらおじいさんに聞いた。


「じぃちゃん、急に僧侶に並行転職なんて驚いたよ。何かあったの?」


「あ、ええと……、実は先日の戦いでスマイル道具店のメイさんがゴーストさんと一緒に、こまめに回復したり強化したりしていたそうなのです。それをナミさんから聞いて感心致しまして」


「えっ? メイさんって、あのギャルっぽい人だよね? へぇぇ、メイさんってヤルんだなぁ」


「はい、メイさんはいつも後ろからサポートしているとナミさんが言っていました。わたしもいつも後ろのほうから攻撃しますので、前で戦っている皆さんの回復や防御をできたらと……」


「へぇぇ、それは確かに助かるかも。なにしろ、あの家のメンバーで回復できるのって黒ちゃんだけなのに、黒ちゃんゴリッゴリ脳筋最前衛だからね。最近は撲殺大司教とか言われてるし。はははは!」


「はははは、確かにそうですね。それにイリューシュさんが言うには、僧侶は並行転職のまま大司教までなれるそうで……。わたしには難しかもしれませんが。ははは」


「え? 大丈夫だよ、じぃちゃん。だって黒ちゃんがなれたんだもん。じぃちゃんもなれるよ。なんか昇格試験があるみたいだから、行くときは言ってよ。あたし手伝うからさ!」


「あぁ、ありがとうございますアカネさん。その時はぜひお願いします」


 おじいさんはそう言って笑顔で頭を下げると、船頭のプンペが甲板(かんぱん)に上がってきて大声で言った。


「大変だ! 大きなタコが船を狙っているぞ!」


 それを聞いたイリューシュはみんなに言った。


「みなさん、墨吹きタコを倒して清さんのクエストを終わらせて、タッちゃんと茶太郎ちゃんにタコの足を食べさせてあげましょう!」


「「おーーー!!」」


 おじいさんたちは戦闘態勢を整えると、墨吹きタコは船を這い上がって甲板に現れた。


 するとイリューシュは清に言った。


「では、清さん。私は清さんのご提案通り、みなさんが危なくなるまでは援護しません。どうかお気をつけて」


「はい! 若輩者《じゃくはいもの》の我儘《わがまま》を聞いてくださりありがとうございます! では行って参ります!」


 清はそう言うと、おじいさんと一緒に後衛に陣取って岩の杖を構えた。


 アカネは弓を下に降ろして見守るイリューシュと、おじいさんと並んで杖を構える清を見ると、嬉しそうに墨吹きタコへと飛び込んでいった。


「オッケー、そういうことね! じゃあ、あたしも試したいことがあったんだよね! じぃちゃん、清じぃ! サポートよろしく!」


「はい!」

「お任せを!」


 アカネは嬉しそうに加速すると、それを見た墨吹きタコは触手を高く振り上げてアカネを叩きつけようと全力で振り下ろした。


「気合!! 剛力!!!」


 アカネは気合スキルと剛力スキルを同時に発動すると、なんと振り下ろされた触手の力をいなすように両手で巻き込んで、一本背負いのように触手を巻き取った。


「やぁぁああああああ!!」

 グオォォオオオオ!!!


 すると驚くことに、墨吹きタコは気合と剛力で強化されたアカネに引っ張られるように前に倒れそうになった。しかし、


 ブチッ!!!

「うわぁっ!!!」


 アカネが掴んだ触手はアカネのあまりの力に根元から切れてしまい、アカネは触手ごと転がった。


 ゴロゴロゴロ……


 すると触手は数個の「タコの足」に変化して甲板に転がった。


 その様子を見ていた清は石の礫《つぶて》を飛ばして墨吹きタコを牽制しながら嬉しそうにアカネに言った。


「アカネさん、墨吹きタコの足を素手で引きちぎってしまうなんて驚きました! さすがです!!」


 それを聞いたアカネは笑顔になって再び走り出すと、おじいさんと清を追い抜いて前に出ながら清に言った。


「へへへ! アカネ様の奥の手は、こんなもんじゃないよ!!」


 アカネはそう言うと、墨吹きタコの触手をかわしながら近づき、目潰しの粉を投げつけた。


「とぅっ! 目潰しの粉!!」


 ブワッ!

 グオォォオオオオ!!!


 墨吹きタコはアカネの目潰しの粉で視界を奪われると、辺り構わず墨を吹き始めた。


 ビチャ! ビチャビチャ! ビチャ! 


 しかしアカネは軽々と墨を避けると、少し離れたところでその様子を見ていたおじいさんは火薬玉を握りしめながら剛力スキルを発動した。 


「剛力!」


 そしておじいさんは投球フォームに入ると、足を高くあげて大きく踏み出し、腕をしならせるように全力で火薬玉を投げつけた。


 チュン……、

 バゴォォォオオオオォォオオオオ!!!


「うわっ!」

「おおっ!」

「えっ!?」


 おじいさんの火薬玉が墨吹きタコに命中すると、なんと火薬玉は一瞬で墨吹きタコの頭を貫通して通り抜け、後ろの空中で爆発した。


 墨吹きタコは崩れるように消滅して数個のタコの足を落とすと、タッちゃんと茶太郎は嬉しそうにタコの足を食べ始めた。


 イリューシュはおじいさんの剛力スキルの剛速球を見て、思わず声を漏らした。


「爆発ダメージではなくて、貫通したダメージだけで……。しかも球が見えないだなんて……。もしかしたら、ひろしさんの攻撃はこの世界で最強の攻撃なのではないかしら……」


 驚くイリューシュとは対照的にアカネと清は嬉しそうにおじいさんに言った。


「さっすが、じぃちゃん! ほんと消える魔球じゃんか!」

「ですな! 一瞬、何が起こったのか分かりませんでした」


「え、ええと、アカネさんと清さんのご活躍のお陰ですので、わたしは……、ははは」


 おじいさんは少し恥ずかしそうに照れ笑いをした。


 ◆


 おじいさんたちは墨吹きタコを倒してレスカカルに入ると、レスカカル名物の動物ふれあいコーナーへとやって来た。


 すると突然アカネがプンスカしながら声をあげた。


「あっ!! あいつ、まだいる!!」


 そう。アカネが見つけたのは、過去にアカネを騙して高額な動物のエサを売りつけたテイマー志望のプレイヤーだった。


 アカネは走ってそのプレイヤーの近くに行くと、プレイヤーに言った。


「きみ! あたし覚えてる!?」


 それを聞いたプレイヤーは驚きながら答えた。


「はっ! はいっ!!! おっ! お久しぶりです!!」


「きみ、まさかまた高い値段でエサ売ってないよね!?」


「はいっ! 誓ってありません! 今は布教活動を!!」


「えっ!? 布教活動? どゆこと?」


「はいっ! 私はナミ様がテイマーになられたと聞き、ナミ様のファンになってしまったのです!!」


「ええっ!? ナミさんのファンなの!?」


「はいぃぃ!! ナミ様は私の永遠のアイドル!! テイマー・ナミ様なのです!!」


「えええっ……。ちょっと、落ち着こうよ……。そんな魔法少女みたいな名前つけて……」


「いいえ!! 落ち着いてなどいられません!! テイマー・ナミ様は神をも凌ぐ神々しいお方なのです!! 私はここで布教活動をしながらピンデチでコソコソとお姿を拝見しに……」


「おいおいおい、それってストーカーなんじゃないの? きみ、大丈夫か?」


「いえいえいえ! ストーカーなど、滅相もございません! 私はただ、物陰からテイマー・ナミ様を生暖かい眼差しで写真を撮っているだけでございます!! 半径100m以内には断じて立ち入りません!!」


「い、いや、……ん? それなら確かに……、メッチャ熱心なファン……、なのか? いや、盗撮??」


「盗撮ではございません!! 私は布教活動のために『ピンデチ推《お》し百景《ひゃっけい》』にテイマー・ナミ様の麗しいお姿を大量に投稿しているのです!! しかし、無知で品性の無い運営が私の写真を削除していまして!!」


 なんと、ピンデチ推し図鑑にナミの写真を大量投稿する1人は彼だった。

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