第75話 寅次郎、悠然と歩き進む
虎次郎は、悠然と敵の2人の元へと獰猛なトラのように歩みを進めると、敵の2人も、虎次郎の只ならぬ気配を感じて武器を構えたまま硬直した。
すると次の瞬間、虎次郎は弾丸のように走り出し、腕をしならせながら恐ろしい破壊力のネコパンチを数回繰り出した。
シャァァアアア!!
ズバ、ズバ、ズバ、ズバン!!
「ぎゃぁぁああああ!! なんじゃ、こりゃぁぁあああ!!!」
なんとその攻撃で、敵のプレイヤーの1人は消滅していった。
しかし虎次郎は何事も無かったかのように、ゆっくりと歩みを進めると、もう1人の敵のプレイヤーを睨みつけた。
シャァァアアア!!!
「うっ、うわっ! た、たすけて!!」
もう1人の敵のプレイヤーは虎次郎の異常な強さに恐れをなして逃げ出した。
すると虎次郎はクルリと振り返り、嬉しそうにマラツンのところへ向かって歩いてきた。
マラツンは虎次郎に駆け寄ると、優しく抱き上げて虎次郎に言った。
「虎次郎~! 本当にかっこよかったぞぉ~! ありがとうな〜!」
マラツンは嬉しそうに虎次郎の頭を撫でると、虎次郎も嬉しそうに喉を鳴らした。
◆
その頃、虎次郎に倒された敵のプレイヤーはリスポーンして呟いていた。
「……おれ、……猫に、……やられたよな。……おれ、……エストンレルトの洞窟群で格上の敵と戦えるくらい、……強いよな?」
しかし敵のプレイヤーはガクガクと震えながら頭をかかえた。
「い、いや! おれは猫に負けた! お、おれ、本当は弱いのか? 今まで、たまたま勝ててたのか? どうなんだ? だ、だれか教えてくれ! だれか!」
敵のプレイヤーは自分のことが良く分からなくなってスッカリ自信を無くしたのだった。
◆
その日の夕方前、ピンデチふれあい苑では、ワンタイで食事を堪能したご高齢者の皆さんが、収穫を終えた畑で「すき込み作業」をしていた。
※すき込み作業:野菜の茎や葉や皮など使わなかった部分や、生えた雑草を土の中に混ぜ込みながら耕し、土壌を改良する作業。
そして、つむぎたちはイグラァから貰った家の中で、種から苗を育てるための作業をしていた。
つむぎたちは美しく装飾された部屋の床にブルーシートを敷き詰めていて、オシャレな家の中は完全に作業場になっていた。
つむぎは今回収穫した作物から取り出した種を丁寧に選別しながらミッチとChocoに言った。
「ミッチ、Choco、なんだか私たちが始めた事が、びっくりするくらい大きなことになっちゃったね」
「うん、ほんとにね。でも私たちだけだったら……」
「このゲームの会社の人が助けてくれて良かったね」
「そうだよね。でも私たち、楽しくゲームしているだけなのに、こんなに優遇してもらって良いのかなぁ」
「うん。でも、専務の大谷さんが嬉しそうにしているし」
「そうだよね、だから私たちも新しい野菜とか頑張ろう」
「うん、そうだね! いろんな野菜や果物を作ってお返ししようね!」
「そうしよう!」
「うん、だよね」
つむぎたちが一致団結している頃、ピンデチふれあい苑のスタッフルームのレインたちは居間で話していた。
レインはご高齢者のみなさんをワンタイでおもてなし出来た事を喜びながらみんなに言った。
「今日は本当に楽しかったね! 僕たちプクナが余り過ぎているから、また皆さんを高級料理店にご招待しようよ」
しかしそれを聞いたキョウコは冷静にレインに言った。
「レイン。お前の気持ちは良く分かるんだ。だけど、ちょっと冷静になれ」
キョウコがそう言うと、ニジとズドンとテッペキも頷いた。
その様子を見たレインは少し考えると、突然反省したように言った。
「……そうか、そうだよね。いま分かったよ。僕は、おごられる方々の気持ちを考えていなかった……。みんな、ごめん。」
それを聞いたキョウコは笑いながらレインに言った。
「いやいや、お前の気持ちは良く分かるよ。あたしだって皆さんに毎日おごってあげたい。だけど、あんな謙虚なみなさんは毎回おごってもらったら申し訳ないって思うだろうからな」
「そ、そうだね……。そうしたら遠慮されて、皆さんはもう僕たちに……」
「まぁ、そういう事だ。今日だって、皆さん絶妙な値段のメニューばっかり頼んでたぞ。気づいてたか?」
「ええっ!! ……そ、それは気づいていなかった」
「ったく、お前は……。まぁ、あたしはお前のそういう素直すぎるところは嫌いじゃないけど、……ちょっと配慮は必要かもな」
「……。ごめん、ありがとうキョウコ。キョウコはいつも色んな事を見ているね。本当に尊敬するよ」
「え、あ、いや、まぁ、あたしは全体を見るシニアマネージャーだからな」
するとその時、テッペキがレインに言った。
「ご高齢者のみなさんはイグラァから毎月15日にプクナを頂いているって言ってた。だったら15日に美味しいレストランにお連れするのはどうかな?」
それを聞いたレインは嬉しそうに答えた。
「それだ! さっすがテッペキ!!」
するとニジもレインに言った。
「私たち、使っていないアイテムがたっくさんあるじゃない? それをピンデチふれあい苑の皆さまに安く売ってもらったらどう?」
「あっ! さすがニジ! それもやってみよう!」
「うん。それにサヤおばあちゃんたちは編み物がとっても上手なの。編み物も一緒に売ったり、サヤおばあちゃんたちに承諾してもらえたら編み物教室をしても良いんじゃないかな」
「ニジ、きみは本当に優しいね! 編み物も売ろう!」
するとズドンがレインに言った。
「おれは、この食堂でカフェをやったら良いと思うんだ。畑の野菜の料理を出すカフェはどうだろうか」
「おおお!! ズドン、それ最高だよ! そうすればピンデチふれあい苑にプレイヤーさんたちが沢山来てくれるかもしれない!」
レインは大喜びで仲間の話を聞くと、さっそく専務の大谷へメッセージを送った。
◆
翌日のお昼過ぎ、なんと大谷とイグラァの社員たちはピンデチふれあい苑の入り口で沢山の来場者たちを案内していた。
「ご、ご予約のお客様はこちらへ! ご予約がまだのお客様は、あちらの端末からご予約ねがいます!」
大谷は大声で来場者たちを案内すると、社員の1人がやって来て大谷に言った。
「大谷専務! 専務が昨夜掲示したピンデチ・カフェの告知は10万プレビューを超えていました! このままではパンクしてしまいます! 今日のところは予約の停止を!」
「うぐぐ、仕方がない……。今、予約端末に並ばれているプレイヤー様たちを最後に一旦予約を停止する……」
「はい! では、各所に伝達いたします!」
その頃、ピンデチふれあい苑の食堂のピンデチ・カフェは大盛況だった。
食堂で販売していたレインたちのアイテムは飛ぶように売れ、サヤおばあちゃんたちの編み物教室も大盛況で、カフェではご高齢者の皆さんが楽しそうにお客さんと雑談していた。
さらに、つむぎとミッチとChoco、そしてニジがメイド服姿でコーヒーや焼きトウモロコシを運んでいた。
そして、お客さんたちはカフェに満足しながら嬉しそうに声を漏らしていた。
「おいおいおい! こ、ここは天国か?」
「ああ! メイドの娘たちわかいいな!」
「おじいちゃんおばあちゃん、カワイイ」
「おい待て! 回復薬やばい値段だぞ!」
「え、うそ! ガチャのアイテムもある」
「焼きトウモロコシ、めちゃウマいよ!」
「意外と紅茶に合うなぁ。うまいうまい」
そしてカウンター席では、真っ先に予約を取っていた海が、つむぎがコーヒーを運んでくれるのを待っていた。
そしてとうとう、つむぎが海のコーヒーを運んでくると、海は冷や汗を流しながら硬直した。
「海くん、お待たせしました。コーヒーです」
つむぎが笑顔でコーヒーを差し出すと、海はカッチカチになりながら答えた。
「つ! つむぎさん、ありがとうございます! メ、メメ、メイド服、と、とっても似合ってます!!」
それを聞いたつむぎは嬉しそう一回転して海に言った。
「うふふ。ありがとう海くん。嬉しい」
海は、つむぎのあまりの可愛さに気を失いそうになった。




