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第74話 ひろし、新しい可能性を知る

 大谷は混ぜ終えたTKG(卵かけご飯)を感慨深く見つめると、食堂の皆に一礼して箸ですくい上げ、口へと運んだ。


「……」


 大谷は静かに咀嚼すると、突然、右手に持った箸を震わせながら叫んだ。


「うーーー、まーーー、いーーー、ぞーーーー!!!!」


 ガガガガガガガガガガガ!!!


 大谷はあまりの美味さに一気に平らげると、全身を輝かせながら茶碗を置いた。


 それを見たイグラァの社員は慌てて大谷に言った。


「大谷専務! 体が光っています! 何かデータの異変があるのでは!!」


 それを聞いた大谷は慌ててステータスを開くと、なんとステータスの全てが上昇していた。


 大谷は驚愕しながら手を震わせると、食堂の皆に言った。


「こっ! これは素晴らしいものだ!! ステータスが平均10%上昇している!!  良い食は力になるという事だ!! なんと素晴らしい結果か!!」


 大谷は興奮してそう言うと、目を血走らせながら茶碗に残っている米粒を残らず箸で食べていった。


 ◆


 その頃、ミナモトの一団のいる東の孤島では、米どころ出身のプレイヤーたちが脱穀した籾《もみ》を発芽させるために水に浸していた。


「約10℃か……。ちょっと低いね」


「うん。水の温度を上げないと」


「でも良かった、アーボンさんお礼に来てくださっていて助かったな」


「ああ、アーボンさんが救世主だよ!」


 それを聞いたアーボンは少し恥ずかしそうにしながらミナモトの一団に言った。


「あ、あのぅ……。おれ、この水の中に爆炎タートルの剣を刺せばいいの?」


「あ、はい! おねがいします!」

「そうすれば水温があがるので!」


「そ、そっか。わかった」


 アーボンは爆炎タートルの両手剣を水に突き刺すと、水の温度がどんどん上がっていった。


 しかし、水温が上がりすぎてミナモトの一団の団員が慌てて言った。


「まずい! ちょっと水温の上昇が早すぎるようだ!」

「すみませんアーボンさん! 剣を抜いてください!」


「わ、わかった!」


 団員の声を聞いたアーボンは慌てて爆炎タートルの両手剣を抜くと、しばらく考えてから爆炎タートルの両手剣を「捨てる」に選択して地面に置いた。


 そしてミナモトの一団の団員に言った。


「これ、爆炎タートルの剣は捨てたから君たちがゲットして上手く使ってよ。おれ、水温の調節とか細かい作業は超絶苦手っていうか。だから貰ってくれない?」


「えええっ! あの爆炎タートルの両手剣を!?」

「本当に良いのですか!? おいくらですか!?」


「おいおいおい、お金とかもらわないから。爆炎タートルの剣なんていくらでも作れるからさ。好きなだけあげるよ」


「好きなだけ!?」

「あげるって!?」


 ミナモトの一団のメンバーは桁違いのステータスを持っているアーボンに驚愕しながらも、アーボンの爆炎タートルの両手剣を手に入れて、水温調整に使ったのだった。


 ◆


 その頃、レインたちはご高齢者の皆さんと一緒にワンタイ料理の名店に来ていた。


 そしてレインは笑顔でご高齢者の皆さんに言った。


「みなさん、お好きなだけ食べてくださいね! プクナはたくさんあるのでご心配なく!」


 それを聞いたサヤおばあちゃんは心配になってレインに尋ねた。


「レインさん、プクナがたくさんあるって、まさかレインさんが……?」


「はい! もうずっとプクナを使っていなかったので15億プクナ以上もっているんです。ご心配なく!」


「「「ええええっ!!」」」


 ご高齢者の皆さんたちが驚くと、1人のおじいちゃんがみんなに言った。


「そういう事なら、本日はおごってもらいましょう! ごちそうさまです、レインさん!」


 ご高齢者の皆さんは笑顔でレインにお礼をすると、レインは今まで味わった事のないような不思議な喜びを感じた。


 ◆


 その頃おじいさんは、家の和室で清からこの世界の事を教えてもらっていた。


 と、いうのも、清はこのVRゲームのマニュアルを全て頭に入れ、地図を記憶し、さらにSNSで情報を収集していたからだった。


「ですので、ひろしさんは無職ですが転職は可能です。しかし、そのベストピッチャー賞のジャージが着れなくなってしまうんですよ」


「あぁぁ、なるほど。そういう事になってしまうのですね。いやぁ、このジャージはチョットしたわたしの誇りでして。やはり無職のままが良さそうですね」


「そうですね。……ですが、ひろしさん。例えば僧侶に転職したとしますと、僧侶の杖を装備した瞬間にジャージの装備がキャンセルされますが、プリセットしておいた僧侶の装備に変更するだけで、ジャージは消滅しません」


「ぷり……、セット……? ですか?」


 すると横で話を聞いていたイリューシュがおじいさんに説明した。


「プリセットというのは転職した人たちが使うもので、例えば、黒ちゃんさんはモーニングスターを持つと大司教のローブを着ていますが、両手剣を持つと鎧になりますよね」


「あぁ、なるほど! 持つ武器が変わると自動的に防具も変わるのですね」


「はい。事前にセットしておいた装備に変わるんです。ですから、もしひろしさんが僧侶に並行転職した場合は、僧侶の杖を持てば僧侶の装備、何も装備しなければジャージに戻ると思います」


「いやぁイリューシュさん、清さん、とても勉強になります。そうであれば転職も良いかもしれませんね」


 おじいさんがそう言うと、清は嬉しそうに付け加えた。


「ちなみに、こちらの家にいらっしゃるめぐさんは昇格転職をされていますので、特例として騎士の武器や防具を装備しながら魔法を使うことができるのです」


「そうかぁ、めぐちゃんは凄いんだなぁ」


「それに、こちらのイリューシュさんは大弓使いで賢者です。賢者は全ての魔法と賢者スキルを扱え、昇格転職の大弓使いは、弓使いの装備のまま弓から魔法を発動できます。この世界では最強クラスのアタッカーです」


「なるほど。常々お強い方だとは思っていましたが、そういう事だったのですね」


 おじいさんがそう言うと、イリューシュは少し恥ずかしそうに笑った。


「ふふふ。ですが、転職だけが良いともかぎりません。ベンドレさんのように両手剣を極める方もいらっしゃいますし」


「あぁ、たしかにそうですね。ひとたびベンドレさんが剣を構えれば、前に出ようとする敵の方はいらっしゃらないですから。ははは」


「ええ、その通りですね。私も、もしベンドレさんが目の前で剣を抜いたら、即座に後ろへ下がります。ふふふ」


 ◆


 その頃、マラツンたちは、いつものようにレググリの溶岩地帯に初めて来たプレイヤーたちを優しく案内していた。


「こんにちは、溶岩地帯のサブクエストですよね! その装備だと溶岩の熱ダメージ受けちゃいますよ。良かったら、この防具を使ってください。今から捨てるんで」


 マラツンは耐熱効果のある防具一式を何個か選択すると「捨てる」を選んで所有権を放棄し、地面に置いた。


「えっ、良いんですか!? 耐熱効果のある防具ですよね?」


「はい! でも、攻略が終わったら返してくれると助かります」


「もちろんです! ありがとうございます!」


 プレイヤーたちはマラツンたちに笑顔で挨拶をすると、早速防具を装備して溶岩地帯の奥へと走っていった。


 するとその時、エストンレルトの洞窟地帯で撃退した2人のプレイヤーが突然現れてマラツンに言った。


「おいおい、お前らSNSで人気じゃねぇか」

「気になって来てみりゃ先輩面《せんぱいづら》で親切か?」


 しかしマラツンは冷静に戦いに備えると、ツックン、サソリ、マムシも戦闘態勢を整えた。


 するとその時、マラツンの懐でゴロゴロしていた虎次郎が顔を出してヒラリと地面に降り立つと、大きく背中を伸ばしてアクビをし、顔を洗い始めた。


 それを見たマラツンは慌てて虎次郎を抱え上げて懐へ隠そうとしたが、虎次郎はマラツンの腕から逃れて再び地面に着地し、敵の2人から目を逸らさずに静かに鳴いた。


「にゃぁぁ」


 その声を聞いたマラツンは虎次郎に言った。


「そっか。手を出すなって言いたいんだな。じゃあ、おれたちは見守るな」


「にゃぁぁん」


 虎次郎が返事をするとマラツンはツックンたちに言って虎次郎が戦えるように下がった。

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