第73話 ひろし、招待する
お昼ごろ、G区画のおじいさんの和室では、おじいさんと清がお茶をすすっていた。
「いやぁ、清さん。おいでくださいまして、ありがとうございます」
「いえいえいえ、ひろしさん。こちらこそ、お誘い頂きましてありがとうございます。それにしても、こちらの家の皆さんはハイレベルでいらっしゃって、それでいてお優しくて……」
「いえいえ、清さん。島での戦いの指揮を執る清さんもハイレベルでいらっしゃって素晴らしかったですよ。あの作戦は、この家の皆さんも感心していましたから」
「えっ、皆さんがですか!? いえ、ええと……、その……」
清が恥ずかしそうに頭を掻くと、和室にお茶菓子を持ってきたイリューシュが笑顔で清に言った。
「ええ、ひろしさんの言う通りです。本当に素晴らしい作戦で、私たちも安心して戦えました」
イリューシュがそう言うと、清はアワアワしながら答えた。
「いえいえ、そんな! イリューシュさんの島の戦いでの見事な曲射と精密射撃、驚くばかりでした!」
するとイリューシュは小皿に乗った溶岩ようかんを2人に差し出しながら座り、笑顔で清に答えた。
「ふふふ。あの戦いは、ひろしさんと清さんのコンビも噂になっていましたよ。めぐさんがお2人の戦いを見て負けてられないと奮闘したそうですし」
それを聞いたおじいさんと清は恥ずかしそうに答えた。
「いやぁ、あの時は清さんの素晴らしいリードあったので」
「いえ、あれはひろしさんの攻撃があったからこそです!」
すると清は少しハッとしてイリューシュに言った。
「しかし……、最後の最後で失敗してしまい、光の魔法で狙われてしまいました。私は皆様のお役に立たねばと思い立ち、勝手にひろしさんを巻き込んでしまって……」
しかしイリューシュは笑顔で答えた。
「あの光の魔法陣は、恐らく後ろに残った敵から放たれたものです。ですから、もし後ろの敵を足止めせずに追撃を許してしまっていたら私たちが危なかったかもしれません」
「そ、それは、本当なのでしょうか……」
「魔法は発動できる距離に制限がありますし、私たちと交戦していた敵プレイヤーたちは必死でした。ですから、後ろに残っていた敵が光の魔法を放ったと考えるのが自然です」
「な、なるほど……。それが本当ならば、もし足止めをしていなければイリューシュさんたちに近づいて光の魔法を放っていた可能性も……」
「ええ、その通りです。そうなればルルさんが反撃せざるを得ず、戦力が一時的に落ち込んで隙ができたかもしれません」
「……。イリューシュさん、そう言って頂けると救われた気がします……」
「ふふふ。救われたのは私たちの方です。清さんの作戦は本当に素晴らしかったのですから」
「えっ、あ、そ、そんな……、ですがイリューシュさんのようなハイレベルな方に言われますと……。はははは」
清は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑った。
◆
その頃、ピンデチふれあい苑のレインたちは、ご高齢者のみなさまと一緒に船でワンタイへと向っていた。
甲板で海を眺めていたレインは隣りにいるキョウコに話しかけた。
「船に乗るなんて久しぶりだね。ずっと転移魔法だったから。ははは」
「ああ、そうだな。しかしレイン。お前ずっと楽しそうにしてるな」
「え、そうかい? でも楽しいのは間違いないかな。だってワンタイの美味しい料理を食べに行きましょうって皆さんに言ったら、あんなに喜んで頂いて。ははは」
「そうだよな。それに、あいつらも楽しそうにしてるし」
キョウコが振り返ると、甲板で楽しそうにサヤおばあちゃんたちに編み物を習っているニジや、難しい顔でおじいちゃんと将棋をしているズドン、ご高齢者のみなさんと一緒に太極拳をしているテッペキがいた。
それを見たレインは笑顔になってキョウコに言った。
「なんか良いのかな、こんなに楽しくて」
「なに言ってんだよ、いいんだよ。あたしもそうだけど、みんなふれあい苑の皆さんに会うために仕事の時間だって調整したんだから。みんな楽しいんだよ。楽しいのに悪いわけがないだろう?」
「そうだよね。それよりも……、僕は1日ごとに仕事の量が決まってるから時間は調整できるけど、キョウコは……。大丈夫だったかい?」
「はぁ? 何心配してんだよ。あたしはシニアマネージャーだぜ? 午前中に仕事まとめたら、あとはマネージャーたちがやってくれる。んで、夜にマネージャーたちの成果をまとめれば終わりって感じさ」
「やっぱりキョウコは凄いね。現実世界でも格好良いんだろうなぁ」
それを聞いたキョウコは少し照れながら答えた。
「な、なんだよレイン。今日はいやに褒めるじゃんか……」
「そうかい? 僕はいつもキョウコを尊敬してるよ」
「なっ……! いや、ええと、なんだ、そ、それなら……、嬉しい……、ぞ」
キョウコが顔を真赤にして答えると、船はワンタイの港に到着した。
◆
その頃ピンデチふれあい苑の食堂では、大谷とつむぎたち、そしてイグラァの社員たちが、ふっくらと炊き上がったお米を茶碗に持って笑顔になっていた。
そして、一緒に参加していたヨリトミも茶碗の米を感慨深く見つめながら声を漏らした。
「美しい……。輝く白米のなんと美しいことか……。お父さん、お母さん。私はあなたたちにこの白米を見ていただきたい……」
ヨリトミが思わず涙を流すと、大谷が立ち上がって皆に言った。
「みなさん! このお米はヨリトミさん率いるミナモトの一団と、島を防衛してくださった方々、そして何より、こちらにいらっしゃる、つむぎさんたちの土が育んだお米です!」
大谷がそう言うと、食堂は大歓声に包まれた。
すると、大谷に背中を押されたつむぎが立ち上がって皆に言った。
「……み、みなさん。みなさんのお陰でお米が収穫できました。え、ええと……、で、では、美味しくいただきましょう! い……、いただきまーす!」
つむぎが緊張した面持ちでそう言うと、食堂にいたみんなは一斉に声をあげた。
「「「いただきまーす!!」」」
食堂にいたみんなは嬉しそうにお米を頬張ると、みな笑顔になって口々に声を漏らした。
「えっ! すごい! お米だ!!」
「だよね! えっ? すごくない」
「コシヒカリを完全再現している……」
「はい。新VR世界の夜明けですなぁ」
「ふっくらしてて美味しいね!」
「ね! ほくほくウマウマっ!」
「まさか、これまでとは。怖いくらいだ」
「大谷専務が力を入れた理由がわかるな」
「ちょっ! 海苔ほしくない? 海苔!」
「えっ、あたし明太子欲しいんだけど!」
そしてヨリトミは米を口に入れると、静かに涙を流して呟いた。
「お父さん、お母さん……。私はこのVR世界で美味しいお米を作ることが出来ました……。もちろん、そのままでも美味しく、それでいて海苔や明太子をも調和して包み込むであろう奥深い味わい……。あぁ、ぜひ食べて頂きたい……」
ヨリトミはそう言って止めどめく涙をながしていると、大谷がやってきてヨリトミに言った。
「ヨリトミさん。こちらは我らのニワトリが最初に産んだ卵です。そして、こちらは過去にコラボした『越のむらさき色』というかつお出汁の醤油です。ぜひ、卵かけご飯を味わって頂けませんか?」
それを聞いたヨリトミは飛び下がって土下座をし、大谷に答えた。
「大谷様!! このコシヒカリを越のむらさき色と卵で混ぜた卵かけご飯の味は至高の逸品でございます!! それは我が故郷の家庭の味!! 何卒、大谷様にご試食願いたい!!」
ヨリトミは一歩も退かずに大谷に言うと、大谷はヨリトミの力強い気迫を受け取って答えた。
「承知した。ヨリトミ殿の誇り、この私が存分に味あわせてもらおう!」
大谷はそう言うと、コシヒカリを盛った茶碗に貴重な卵を割り入れた。
「「「おおぉぉおおー!!」」」
食堂にいた皆が嬉しそうに声をあげると、大谷は鮮度保存容器に入った「越のむらさき色」を流しかけ、箸を使ってグルグルと混ぜ始めた。
すると、その香りに食堂にいた皆はメロメロになった。
「や、やばい……」
「うん、ほんと!」
「これ鉄板だよね」
こうしてピンデチふれあい苑の食堂は最高の熱気に包まれた。




