第72話 アーボン、瞳孔開きっぱなし
タケチとキリ丸は訓練場に入ると、タケチはホワイトドラゴンの片手剣を装備して構え、キリ丸は防具は装備せずに鬼切丸だけを装備した。
タケチはキリ丸の姿を見ると、キリ丸に尋ねた。
「キリ丸さん、防具は装備しなくて良いのでしょうか」
「はい! タケチさんは片手剣ですので、重たい盾無の甲冑を装備してしまえば速さに翻弄されて簡単に負けてしまいます!」
「なるほど、さすがはミナモトの一団ですね」
「え、いえ……、僕は戦闘修行中の下っ端なので、一団と言われると……。ははは」
キリ丸は照れ笑いをしながら鬼切丸を構えると、タケチは腰を低くして小さな盾を前にしながら片手剣を構えた。
キリ丸は鬼切丸を上段に構えると、それを見たタケチは小さな盾を前にしながらキリ丸に突進した。
「キリ丸さん、行きます!!」
「はい!」
タケチはキリ丸の攻撃をパリィするつもりで飛び込んだが、なんとキリ丸は上段の構えのまま動かなかったので、タケチは戦法を切り替えて片手剣でキリ丸の胸を狙った。
しかしキリ丸は左腕を前にして突っ込み、なんとタケチの剣を意図的に左腕に突き刺させた。
ドスッ!
「しまった!」
タケチが思わず声を漏らした次の瞬間、
ズバン!!!
キリ丸の鬼切丸はタケチを一閃し、タケチのHPは大幅に削られた。
その様子を見ていたアーボンが思わず驚くと、タケチも驚きを隠せずにキリ丸に言った。
「キ、キリ丸さん……、ミナモトの一団は皆そのような戦い方を……?」
するとキリ丸は笑顔で答えた。
「あ、いえ、戦闘修行中の下っ端だけです。下っ端は何百回もボスを倒す苦行をして手に入れた最強レベルの武器を手に、肉を切らせて骨を断つ戦法が基本です。ですが、さすがタケチさん。剣を受けただけでHPが半分になりました」
その様子を見ていたアーボンは驚きながら呟いた。
「キリ丸くん、この世界の痛みが現実世界よりはかなり軽いとはいえ、自分の腕を刺しにいって反撃する気合はヤバいな……。今さらながらピンデチで戦ってたのが怖くなってきたよ……」
アーボンはそう言いながらキリ丸を見ると、キリ丸の笑顔が逆に怖く見えてきた。
◆
その頃、ピンデチ近くの荒野地帯では、めぐとマユが、美咲と戦闘練習をしていた。
美咲は一番攻撃力の低い「鉄のレイピア」を構えると、めぐとマユに言った。
「じゃあ行くよ。スキルを使って攻撃すれば良いんだよね」
「おねがいします」
「うん美咲ちゃん」
めぐとマユが返事をした瞬間、美咲は「気合」を発動してレイピアを納め、「居合抜刀」で飛び出した。
「あっ!」
「うそ!」
めぐとマユがあまりの速さに驚くと、なんと美咲は居合抜刀を途中でキャンセルしてめぐの盾を駆け上がった。
それを見ためぐは美咲が「駆け上がり脳天割り」を繰り出すと予測して、「グレート・パリィ」でその攻撃を弾こうと準備した。
しかし美咲は空中で攻撃の威力を増す「溜め」を発動しながらめぐの頭上を通り過ぎると、着地した瞬間に「俊足」を使ってめぐの背後から襲い掛かった。
「うわ!」
めぐは完全に美咲の攻撃の対応が遅れたが、なんとか盾を構えることができた。しかし、
ガォォオン!!
美咲は「溜め」スキルで増した攻撃力でめぐの盾の端を突いてまくり上げ、がら空きになっためぐの腹を狙った。
「きゃっ!」
パンッ!
しかしその時、マユが美咲のレイピアを「スライディング斬り上げ」で弾いた。
しかし美咲は冷静に手の力を抜き、レイピアを弾かれた力を逃してレイピアを一回転させると、素早く構え直して「俊足」でマユに迫った。
「やば!」
するとその時、美咲の耳にめぐが「シールドバッシュ」を発動した音が聞こえた。
美咲は少し笑顔を見せると、まだ使用時間が残っていた「俊足」と「スライディング斬り上げ」を発動してマユの脇腹に一撃を食らわせた。
ドッ!
「わっ! やられた」
そして、美咲は流れるように素早くステップすると、そのままマユを追い越すように滑り込んだ。
すると「シールドバッシュ」が止められずに突っ込んできためぐは、なんとマユとぶつかってしまった。
「わわわ! マユごめん!」
「え、うそうそ! やば!」
ドガン!!
マユはめぐの「シールドバッシュ」で吹き飛ぶと、美咲はめぐの盾を踏み台にして空へと飛び出した。
そして「駆け上がり脳天割り」を発動すると、そのままめぐの頭上から狙った。
ズバン!!
「わーーー!!」
しかし美咲のレイピアはめぐを避けて地面に刺さり、めぐは冷や汗を流しながら硬直していた。
美咲はレイピアをしまって笑顔になると、めぐとマユを称賛するように言った。
「2人とも、すごく強かった。驚いたよ」
しかし、めぐもマユも「?」な表情で聞き返した。
「でも美咲さんに全く敵わなかったし……」
「美咲ちゃん、強すぎて手も足も出ないよ」
それを聞いた美咲は首を横に振って2人に言った。
「最初は居合抜刀と気合だけで勝てると思ってた。でもスキル全部使ったんだ。今までスキル全部使って戦った事は少ないから、2人で戦うと本当に強いと思う」
「そうなのかなぁ……」
「でも完敗だったしね」
めぐとマユが信じられずにいると、美咲は笑顔で2人に言った。
「2人は本当に強いよ。だって、わたしザ・フラウ頂上決戦の個人部門で決勝に進んだんだから。決勝はお姉ちゃんだし、2人はこの世界最強の姉妹に全てのスキルを使わせたんだ。絶対強いよ」
それを聞いた2人は笑顔で納得して、嬉しそうに手を取り合った。
◆
その後、めぐはマユと美咲と別れてG区画の家へとやって来ると、下に見えるアーボンの家の横に、訓練場が設置されていることに気づいて、興味津々でアーボンの家へと降りて行った。
すると訓練場の中ではアーボンとキリ丸が戦っていて、ちょうど相打ちになって2人同時に両端にリスポーンしたところだった。
シュゥゥゥウウ……
リスポーンしたアーボンはテンションMAXでキリ丸に言った。
「キリ丸くん! きみ盾無の甲冑着ると、スゲー脳筋プレイするじゃん! 最高のゴリ押しだな! カッコ良かったぜ!」
「いえいえ、アーボンさんのゴリ押しには適いませんよ! 瞳孔開きっぱなしでザクザク斬ってくるアーボンさん、カッコよかったです!!」
なぜかアーボンとキリ丸は意気投合して盛り上がっていると、タケチは、その会話を引き気味で聞いていためぐに気が付いて声をかけた。
「あ、めぐさん! こんにちは」
「あ、タケチさん、こんにちは」
するとアーボンとキリ丸もめぐに気づいて挨拶をした。
「あ、めぐちゃん! こんにちは」
「初めまして、キリ丸と申します」
「アーボンさん、こんにちは! キリ丸さん、初めまして!」
めぐは笑顔で挨拶を返しながらやって来ると、アーボンに訓練場の事を尋ねた。
「アーボンさん、この施設って……?」
「あぁー、これ訓練場なんだよ。ほら島の田んぼ守ったじゃない? その報酬で大谷さんが作ってくれたんだ」
「あ、そうなんですね。訓練場っていう事は、イリューシュさんの家のリングみたいな感じですか?」
「そうそう。リングみたいに、倒されても痛みは無くてそのままリスポーンする仕様みたい」
「え、すごいですね! リングがそのまま広くなった感じですか?」
「まぁ、そんな感じだね。ってか、めぐちゃんも使ってくれて構わないから、じゃんじゃん使っちゃって。さっきピンデチのフレンド全員に使用権限を付与したからさ」
「ええっ、良いんですか!?」
「もちろんだよ。今おれたちが、こんなに平和に暮らせてるのも皆さんのおかげだからね。遠慮なく使ってよ」
アーボンがそう言うと、めぐは満面の笑顔でアーボンの手を取ってお礼をした。




