第70話 悪役イリューシュ
転移してきた大谷は近くに居たおじいさんたちに深々と頭を下げて挨拶をした。
「ひろしさん、大熊笹さん、茂雄さん。先程報告を受けてまいりました。この度の大勝利、大変感謝致します!」
しかしおじいさんたちは少し困り顔で答えた。
「いえいえ、わたしは何も……」
「今回は強い方々の勝利ですな」
「はい。それに清さんの采配も」
「いえいえ、そんなご謙遜を……」
大谷が謙虚に答えると、イリューシュから大谷にボイスチャットが入った。
「大谷さん、ご到着ですね。早速ですが、奥の寺院にいらしてくださいませんか? 捕虜から事情を聞きましたので」
「承知した。急いで向かう」
大谷はそう言うと、おじいさんたちに挨拶をして寺へと急いだ。
◆
大谷が寺にやって来ると、3人の外国人プレイヤーが頭をうなだれていた。
そしてイリューシュと黒ちゃんが大谷の元へとやって来ると、イリューシュが大谷に説明した。
「やはり彼らはUVMから頼まれたそうです。募集と採用はUVMのゲーム内で行ったもようで、報酬はこの島の異変を発見したプレイヤーに1万ドルとの事です」
すると黒ちゃんも続けて言った。
「彼らは、このゲームを始めて2日や3日だと言い、しかしHPやステータスが異常に高いのです。彼らは口を割りませんが、間違いなくプレイヤーデータを改変したチートかと」
それを聞いた大谷は少し静かに考えてから黒ちゃんに答えた。
「その可能性は高いですね。ならば一芝居うちましょう。ここからは私が尋問します。エージェント、翻訳を頼む」
「はい」
イリューシュが返事をすると、大谷は捕虜のプレイヤーたちに話しかけた。
「私はこのゲームを運営する会社の専務、大谷だ。なぜ私がここへ来たか分かるか?」
すると捕虜のプレイヤーたちはそれぞれ目を合わせたが、最終的に1人が答えた。
「I have no idea.(見当もつかない)」
イリューシュが大谷に訳して伝えると、大谷は芝居を打つようにニヤリと笑って言った。
「我が社は日本最大のVRゲーム会社だ。もちろん、UVMとも良好な関係を築いている。私は今回の件の報告を受け、即座にUVMの重役に連絡したが、何も知らないと言っていた」
捕虜のプレイヤーたちはその言葉に一斉に動揺した。
「What the heck!(どうなってんだ!)」
「FXXk!(くそXXX)」
「They betrayed us!(裏切りやがった!)」
捕虜のプレイヤーたちが憤っていると、大谷は続けざまに芝居を打った。
「私はUVMの重役を信じる。という事は、君たちはUVMから頼まれたと嘘をついて、不正データでこのゲームをプレイしたと解釈する。不正データを作成するにあたり、君たちは我が社のサーバーに侵入した。これは高額な裁判になりますねぇ」
大谷はそう言ってわざとらしくニヤニヤと笑うと、イリューシュの翻訳を聞いた捕虜のプレイヤーたちは大谷に懇願するように大声をあげた。
それを聞いたイリューシュは捕虜のプレイヤーをなだめるように説得すると、彼らの意見をまとめて大谷に報告した。
「大谷さん、彼らは相当に動揺しています。そして濡れ衣だと主張していて、不正データもUVMが用意したと言っています」
「そうか。上手くいったようだな。では最後の一押しと行こう」
大谷はそう言うと、ボイスチャットでゴーストに繋いだ。
「ゴーストさん。交渉のニセの弁護士役として、お力をお借りしたい。お願いしても良いでしょうか」
するとゴーストは大谷の言葉に頷くと、静かに答えた。
「承知しました。お任せください」
ゴーストは装備をアルマーニョのスーツに変更して寺へと向った。
◆
ゴーストは寺の中へ入って捕虜のプレイヤーたちの前に出ると、イリューシュに目で合図をして、静かに笑いながら意図的に日本語で捕虜のプレイヤーたちに言った。
「こんにちは、みなさん。私は弁護士です。あなたたちは、サーバーに不正侵入して自分のプレイヤーデータを改ざんしましたね。日本では500万円以下の罰金刑、それに重複して懲役10年以下の禁錮刑になります(すべてウソ)」
それを聞いたイリューシュは映画の悪役のように、捕虜のプレイヤーを煽るように翻訳して伝えた。
捕虜のプレイヤーたちはイリューシュの言葉を聞くと、騒ぎ立てるように無実を叫んだ。
するとその時、大谷の所へアカネからボイスチャットが入った。
「大谷さん、こっちは準備オッケーだよ!」
それを聞いた大谷はニヤリと笑うと、捕虜のプレイヤーたちにウソをついた。
「そうだ、ちょうど面白いイベントが始まります。君たちも外に来てくれたまえ。実はこのイベントのために、この島を一時的にマップから消して秘密にしていたのだ」
それを聞いた捕虜のプレイヤーたちは、もしかしたら島の秘密を聞けて賞金を貰えるかもしれないと思い、大谷と一緒に外へと向った。
◆
大谷たちが外へ出ると、ちょうど夕暮れ時になっていて、捕虜のプレイヤーたちは大谷に連れられて田んぼのエリアにやって来た。
するとその時、突然、緑色の光の線が捕虜のプレイヤーたちの目の前を通り過ぎていった。
「What?(なんだ?)」
捕虜のプレイヤーが驚くと、大谷は捕虜のプレイヤーたちにウソの芝居を打った。
「これはゲンジボタルです。この昆虫は日本では大変人気で乱獲される恐れもあり、この島を隠して繁殖実験をしていたのです」
捕虜のプレイヤーたちはイリューシュの翻訳を聞くと、この島の異変を見つけたと一瞬笑顔になったが、UVMの裏切りとゴーストの言った罰金刑を思い出して微妙な表情になった。
それを見た大谷は捕虜のプレイヤーたちに言った。
「そういえば、君たちは逃げないのですね。ログアウトすれば、この場から離れられるのにも関わらず」
イリューシュが大谷の言葉を翻訳すると、捕虜のプレイヤーたちは慌てて愛想笑いをふりまき、次の瞬間、一斉にログアウトしていった。
その様子を確認した大谷は笑顔になると、黒ちゃんが大谷に言った。
「やはり彼らは……、このゲームの基本的なルールも知らないほどしかプレイしてなかったようですね」
「そのようですね。しかし、彼らは賞金欲しさに今回の件をUVMに報告するでしょう。そうなればUVMはゲンジボタルが原因だと考えて田んぼは守られます」
「はい。……しかし流石のお芝居でした大谷さん。それにイリューシュさんの翻訳も捕虜のプレイヤーの恐怖を煽るような鬼気迫るものがありました。正直、私が怖くなるくらいで……」
それを聞いた大谷とイリューシュは少し恥ずかしそうに笑顔で答えた。
「い、いえ……、専務の私としては……。しかし、イグラァを大きくする過程では、あのような芝居も山ほど……。ははは」
「い、いやですわ黒ちゃんさん。ふふふ。な、なんていうのかしら、You know,(ええと)、あの、Hollywood movies(ハリウッド映画)のVillains(悪役)みたいにActing(演じて)で……。ふふふ」
イリューシュも恥ずかしさのあまり英語と日本語が良く分からなくなりながら、珍しくアワアワしていた。
こうして今回の一件は解決し、おじいさんたちは少しずつログアウトしていったのだった。




