第69話 ひろし、柔和に話す
最後の作戦が開始されると、ミナモトの一団は防具の装備を解除して直垂姿になり、美しい陣形を維持しながら一斉に走り出して敵のプレイヤーたちに襲い掛かった。
そして、おじいさんたちは敵との戦いを放棄すると、ベンドレたちと戦っている敵たちの背後を狙って走っていった。
すると、最後列でおじいさんと一緒に走っていた清がおじいさんに言った。
「ひろしさん、先ほど戦っていた敵の数人がこちらに向かってきます。ここは我々で足止めしましょう!」
「はい!」
おじいさんと清は立ち止まると、味方の背後をとらせないよう、敵の追撃を防ぐために2人で立ちはだかった。
清は2枚の土壁を作って敵の攻撃をけん制すると、おじいさんは土壁の隙間を縫って火薬玉を投げつけた。
しかしその時、予想もしないことが起きた。
なんと、おじいさんと清の頭上に敵の光の魔法陣が無数に現れたのだった。
それを見た清はおじいさんに言った。
「ひ、ひろしさん、申し訳ございません! これは、はぐれた我らを狙った敵の罠! これは完全に私の判断ミスです! 申し訳ございません!」
しかし、おじいさんは柔和な笑顔で答えた。
「いえいえ、あの光の魔法陣のおかげで敵も近づいて来られません。言ってみれば、足止め成功です」
「……ひろしさん」
「清さん。こんな年老いた我らが、こんな大きな戦いに参加できただけでも凄いことです。それに清さんの采配は素晴らしかったですし」
「いえ……、そんな……、しかし最後にこのような失態を……」
「そうだ清さん。やられてしまったら一緒にお茶でもいかがですか。アカネさんから最高級のお茶をいただきまして」
清はこんな状況でも柔和に笑うおじいさんに笑顔になると、思わず笑いながら答えた。
「はっ……、ははは。それは良いですね、ひろしさん。ではお言葉に甘えて、お茶を一服いただきます」
その瞬間、空の光の魔法陣から大量の光の矢が放たれた。
しかしその時、おじいさんたちのすぐ上に巨大な光の魔法陣が展開され、なんとそこから、降り注ぐ光の矢に向かって、格の違う光の矢が空に向かって大量に放たれた。
その空に向かって放たれた光の矢は、空から降り注ぐ敵の光の矢を完全に破壊して蹴散らすと、美しい光の粉となって降ってきた。
パァァァアアア……
その様子を遠目で見ていたルルは、少し驚きながら呟いた。
「なによ。ちょっとヤバい光の魔法使いが助けに来たじゃない」
おじいさんと清が驚きながらキョロキョロとしていると、笑顔のニジが手を振りながら清のところへとやって来た。
「清さん、間に合ってよかった! うふふ」
清は慌ててニジに頭を下げると、嬉しそうにニジに言った。
「ニジさん! まさかニジさんが来てくださるとは!」
「ううん、レインたちも一緒よ」
ニジはそう言って指を差すと、レインたちがミナモトの一団を援護するように、残った敵のプレイヤーたちを殲滅していくのが見えた。
するとその時、ルルから清にボイスチャットが入った。
「清さん、そっちにヤバい光の魔法使いいるでしょ?」
「あ、はい! ニジさんです!」
「清さん、ごめんね。ニジさんの力を借りたいの。敵は作戦も立てないで突っ込んでくるんだけど、1人1人が結構強いの。ニジさんに私のID伝えてもらえないかな。ボスチャットつなぎたいの」
「はい、わかりました! 転送します!」
すると清はニジにルルのIDを送信して言った。
「ニジさん、すみません。ルルさんという光の魔法使いの方がボイスチャットをつなぎたいそうです」
「あのルルさん? うふふ、わかったわ清さん」
ニジはルルとボイスチャットを繋ぐと、ルルが開口一番ニジに言った。
「ニジさん、突然ごめんなさい。敵が結構強くて……。光の魔法のシンクロできるかしら」
するとニジは笑顔で答えた。
「ええ。では私は地面からで良いですか?」
「えっ! って、あなたゼロ高度から光の矢を空に放てるの?」
「はい」
「……。あなた結構ヤバいけど最高ね! じゃあ、行くわよ!」
「ええ」
ルルとニジがタイミングを合わせるように光の魔法を発動すると、敵の頭上にルルの光の魔法陣が出現し、敵の足元にもニジの巨大な光の魔法陣が出現した。
それを見た敵のプレイヤーたちはパニックになると、敵のプレイヤーたちは一斉に防御の構えを見せた。
次の瞬間、敵のプレイヤーたちを上下から無数の光の矢が襲い掛かり、なんとそこへララガのお母さんが火の粉を放った。
そして、ゴーストとメイがリキャストしたウィンド・ブッチャーを放つと、それを見ていたナミがアーボンに言った。
「ァーボン、ぁのスキル。もうリキャストしたでしょ」
「えっ、ええっ!? あの恥ずかしい居合抜刀やるの?」
「ぅん。今みんなが総攻撃をしかけてる。ァーボン、ぃまがチャンス」
アーボンは渋々居合抜刀の構えを見せると、なんと真っすぐ先にベンドレが居るのが見えた。
それを見たアーボンはナミに言った。
「や、やっぱダメだ! まっすぐ前にベンドレ師匠がいる! もし、おれの投げた剣が刺さったりしたら……」
しかしナミは即答した。
「ァーボンの剣がベンドレさんに……、ぁたるゎけがなぃ」
それを聞いたアーボンはトホホと笑いながら居合抜刀の構えとってナミに言った。
「ま、まぁな。……おし! じゃあ、遠慮なくやらせてもらうぜ! でやぁぁぁああ! 居合抜刀ぅぅううう!! ベンドレ師匠に当たりませんようにぃぃぃいい!!」
スカッ!
お約束通りアーボンの剣は回転しながら一直線に飛んでゆき、敵に大ダメージを与えたながらベンドレに向かって飛んで行った。
しかしベンドレは、虫でも払うかのようにアーボンの剣を両手剣で軽々と弾くと、何事もなかったかのように敵の次の攻撃に警戒を続けた。
◆
結局、おじいさんたちは1人として欠ける事なく東の孤島を防衛して3人の敵プレイヤーを捕虜にし、捕虜にした3人はイリューシュと黒ちゃんが英語で尋問を始めていた。
集落の寺でララ助、タッちゃん、茶太郎、ポンちゃん、そして虎次郎をかくまっていたシロたんは、勝利の知らせを受けてみんなと一緒に砂浜へと向かった。
ミナモトの一団はさすがに大きな戦いに疲弊して砂浜にへたり込むと、ヨリトミは嬉しそうに団員たちを労って回った。
清は助けに来てくれたニジやレインたちと嬉しそうに話をし、おじいさんたちは砂浜に座りながら安堵の表情を浮かべていた。
おじいさんは横に座っている大熊笹と茂雄に言った。
「いやぁ、今日の敵は強かったですね。今までとは異質というか」
すると大熊笹が笑顔で答えた。
「敵は個々が異様に強かったですな。ですが戦略も無く突っ込んできて暴れるだけ。きっと寄せ集めのメンバーだったのでしょうな」
それを聞いた茂雄も言った。
「はい、僕もそう思いました。彼らは確かに強かったですが、誰かが劣勢になっても誰1人して助けませんでした。そのような敵は助け合う我らには敵わないでしょう」
茂雄がそういうと、おじいさんはウンウンと頷いて言った。
「さすがは大熊笹さんに茂雄さん。あの戦いの中で、そこまで分析していたのですね。わたしは、とにかく必死でして。ははは……」
おじいさんがそう言うと、おじいさんたちの近くに大谷が転移してきた。




