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第65話 ヨリトミ、飛ぶ

 ―― 翌日、イグラァ本社 ――


 イグラァ本社の会議室では昨日の東の孤島の件について会議が行われていた。


 その会議は大谷を中心に、リモートでヨリトミも参加していた。


 大谷はリモートで参加していたヨリトミに尋ねた。


「ヨリトミさん、ではそのプレイヤーたちは誰かに頼まれてミナモトの一団を排除しようと訪れたのですね」


「はい。そう言っていました」


「ふぅむ……」


 大谷はしばらく黙り込むと、ヨリトミが大谷に言った。


「大谷さん。あの島に誰かが訪れる事は非常に稀です。ですが過去3度、プレイヤーがやって来た事があります」


「なるほど。ちなみに、それはどんなプレイヤーでしたか?」


「はい。最初の方は間違いなくマニアの方でした。マップを3年かけて端から端まで調べていると言っていました。2回目も似たような方でした」


「なるほど、では3回目の方は……」


「UVCの方たちでした」


「なっ! それは世界のVRゲーム市場をけん引する、United VR-games Companyの事でしょうか?」


「はい。彼らは自分たちからUVCの社員だと英語で名乗り、ザ・フラウのVR世界がUVCの世界よりも美しいと褒めていたので、特に警戒することなく集落を案内しました」


「そうでしたか。これは少し厄介な案件になるかもしれませんね。もし産業スパイだとすれば、東の孤島をマップから消えたこともAIですぐに見つけ出したでしょう」


 すると常務(専務と共に社長を補佐する役割だが、序列は専務の下位)の鶴居田《つるいだ》が大谷に進言した。


「大谷専務。もしUVCが不自然に消えた東の孤島に何か重要な物があると考えたとすれば、調査のために再びやって来ることが考えられます。いっその事、島を封鎖してはいかがでしょうか」


 しかし大谷は首を横に振った。


「いや。VR世界の土地は、購入した土地以外の場所は平等にプレイヤー様たちのものだ。この考え方は世界共通であり、もし突然東の孤島を封鎖すれば、UVCがその事実をネットを使って煽《あお》る可能性がある」


「な、なるほど……。そうなれば、我が社は権力を乱用して不当に特定のプレイヤーに利益を与える不平等なゲーム会社だと思われかねませんね……。それでギリギリの策としてマップから消したと……」


「その通り。島を封鎖すればミナモトの一団だけが特権扱いされているとUVCは煽る可能性がある。しかし、マップにはないオブジェクトや隠しエリアは他社もやっている。これならば隙を作らずに島を守れると考えた」


 するとそれを聞いていたヨリトミが大谷に言った。


「大谷さん。我らミナモトの一団は華奢《きゃしゃ》ではありません。あの島の出入り口は砂浜の一か所。敵が襲って来るならば戦います」


 しかし大谷は冷静に答えた。


「ヨリトミさん。あなたの気概と心意気、大変痛み入ります。これからも何卒我が社と協力をしていただきたい。しかし、今回の3人は捨て駒の戦力調査の可能性があります」


 それを聞いたヨリトミはハッとして声を震わせた。


「なるほど……。それは一理ありますね。もし、敵が本当にUVCだとしたら、我らが大勢いることを知っています。ならば3人で攻めて来るのは不自然……」


「はい。今回の敵の目的が、現在のミナモトの一団のおおよその数と、個々の強さの調査だった可能性があります。となれば、次回はそれ相応のプレイヤーを集め、再び攻めて来る事が予想されます」


「申し訳ございません。そうとは気づかずに全力で戦ってしまいました。それに我が団員たちが敵に一斉に矢を放ち、おおよその数も知れてしまったかもしれません」


「いえ、どうか謝らないでください。もし私がその場に居たとしても同じことをしたはずです」


「大谷さん……」


「ですが、稲もあと数日で収穫時期です。少なくとも、それまでは稲を死守したいのです」


 大谷は語気を強めて言った。


 ◆


 ―― 翌日、東の孤島 ――


 なんと、おじいさんたちG区画のメンバーとナミ一家《いっか》、そして、清率いるアーボンたちとスマイル道具店のメンバー、さらにはロビ率いるゆぅとミツ、そしてベンドレとルルとゴーストは東の孤島の砂浜で水着で海水浴やバーベキューを楽しんでいた。


 というのも、大谷から頼まれて収穫までの3日間、島の防衛に力を貸すことになったからだった。


 おじいさんたちG区画のメンバーはその見返りにララガやタッちゃん、茶太郎やピピちゃんが大喜びする「ちゅちゅチュ~ル」を1年分と白たんのためのケンタッキー・フライトチキンの割引券。


 ナミ一家には、虎次郎のための「ちゅちゅチュ~ル」1年分と、けん引すればマグロの移動にも使え、原付免許で運転できる、荷台つきハイパワー電動三輪モービル。


 清率いるアーボンたちには、アーボン宅の庭に現在開発中の「訓練場」を実験的に設置する約束をし、スマイル道具店とベンドレとルルにはピンデチ・ショッピングモールの家賃を3か月無料にした。


 最後にゴーストには、近々復活する伝説のオロチのクエストの選抜ベータテスト権(正式に発表する前に選ばれたプレイヤーがテストする権利)を約束し、もし勝利した場合は素材を手に入れられる契約をした。


 こうして、おじいさんたちは島の防衛に力を貸すことになったが、大谷の勧めで島を楽しみながら防衛することになっていた。


 みんなが海で遊んだり砂浜で楽しんでいると、ルルが顔を赤くした頭領のヨリトミを島から連れて来て、みんなに声をかけた。


「みなさーん! ちょっと集まってもらって良いかしら!」


 それを聞いたみんなは一斉にルルのところへと集まって来た。


 するとヨリトミはさらに顔を赤くして下を向き、それを見たルルはヨリトミの背中を叩いてヨリトミに言った。


「ちょっと、シッカリしなさいよ!」


「え、あ、あの……、その……」


「なによ。もしかして、水着の女子がたくさん居て戸惑ってるの?」


「えっ! え、えっと、あの、はい……」


「もぅ、ほんとシャイなんだから。でも、しょうがないか。この島、男子校みたいだしね。でも、あなたは頭領なんだから協力してくださる皆さんにシッカリ挨拶して!」


 それを聞いたヨリトミはハッとしてシャキっとすると、数歩前に出て砂浜に土下座した。


 そして、みんなに大声で言った。


「此度《こたび》のご協力! 大変感謝いたします! 私はミナモトの一団の頭領、ヨリトミと申します! 何卒我らにご協力、お願い致します!」


 それを聞いたおじいさんたちはヨリトミの礼儀正しさに拍手を贈ると、メイたちがヨリトミの腕を引き上げてヨリトミに言った。


「ちょっ、土下座とかやめてよ」

「ヨリトミさん? よろしくね」

「ぅん。ヨリトミなかなかゃる」


 すると、イリューシュとめぐとアカネ、そして美咲もやって来てヨリトミに言った。


「お顔をあげてください」

「わたしたちも頑張るね」

「まぁ、任せとけって!」

「その謙虚さ良いと思う」


 ヨリトミはメイたちに腕を引き上げられて顔をあげると、ルルがヨリトミに言った。


「なによ、あなたハーレム状態じゃない。こんなに美女に囲まれるなんて光栄すぎるわよ」


 それを聞いたヨリトミは必死に飛びそうな意識を保ちながら答えた。


「で、でで、では、わ、わわ、私は、戦《いくさ》、ささ、の、準備が、がっが、あります……、の……、で……」


 ヨリトミは必死に意識を保ちながら一礼すると、一団が待機している寺へと全力で走っていった。


 ◆


 ヨリトミは必死に寺にたどり着いて扉を開けると、その瞬間に力尽きてその場に倒れた。


 それを見た団員たちは慌ててヨリトミの元へと駆け寄った。


「ヨリトミ様! 大丈夫ですか!」


 するとヨリトミは薄目を開けて団員に言った。


「だ……、大丈夫だ……。ただ、意識が飛びかけ……、た……、だけだ……」


 シュゥゥゥウウ……


「「「ヨリトミさまぁー」」」


 なんとヨリトミは現実世界で意識を失い、ログアウトしてしまった。

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