第63話 哲夫、どや顔を我慢する
その日の昼頃。
スマイル道具店の開店準備をしていた哲夫のところに、マユとメイがガッカリしながら歩いてきた。
それを見た哲夫は心配になりながらマユとメイに尋ねた。
「マユさん、メイさん、どうしましたか?」
するとマユがため息をつきながら答えた。
「実は噂になってたピンデチのショッピングモール、先着の1階と2階が全部埋まっちゃってて……。できれば区画が欲しかったのに……」
しかし、メイはマユを元気づけるように言った。
「もう決まっちゃった事はしょうがないよ! 3階と4階はこれから抽選じゃん! 頑張って当てようよ!」
それを聞いていた哲夫はドヤ顔してしまいそうな気持ちを抑えながら、マユとメイに言った。
「ご安心ください。入口正面の一等地を2区画、朝に契約してきましたよ」
「「えええええっっ!!!」
「最近急に空き地ができたので、毎日朝から見張っていたんです」
「すごっ! 哲夫さんすごっ!」
「哲夫さん、めっちゃヤバい!」
マユとメイはテンションMAXになると、思わず哲夫の両手を握った。
◆
その頃、桜の群生地から戻ったレインたちは、運営が増設してくれた5階のスタッフ用住居の居間で話していた。
レインはピンデチふれあい苑のスケジュール表を見ながら笑顔で言った。
「さっきは楽しかったね。ほんと、この世界であんなに楽しかったのって何年ぶりだろう。みなさん、あんなに歓迎してくれてさ……」
それを聞いたキョウコも笑顔で答えた。
「ああ、その通りだな。あたしサヤばあちゃんって人と仲良くなったんだけど、いま現実世界で転職で悩んでるって話ししたら、サヤばあちゃんの人生が壮絶すぎて勇気もらっちゃったよ」
するとランスのテッペキも言った。
「ぼくも皆さんが凄く良くしてくださって、なんていうか、とっても居心地が良いっていうか」
ハンマーのズドンも賛同するように言った。
「おれもそう思った。おれらの強さで皆さんを守れるなら本望だ」
それを聞いたニジも笑顔で言った。
「私も清さんとお話したんだけど、清さん、とっても謙虚で応援したくなっちゃった。私たち、ピンデチに来て良かったかも」
その言葉にレインたちはウンウンと頷いた。
するとレインは苦笑いを浮かべながら皆に言った。
「それにしても何で今まで気づかなかったんだろうね。強い追加ボスを倒しても、強いプレイヤーを倒しても、感謝される事は無かったよね。負けたプレイヤーからは恨まれるし、強い追加ボスっていっても……」
キョウコはレインの言葉に賛同するように続けた。
「そうだな。あたしたちが頑張ってやった事を称賛するのは極わずかな人たちだ。イークラトくらいになれば、僻み、やっかみ、嫉妬、妬みばっかり」
キョウコがそう言うとテッペキも続いた。
「うん。ぼくたちがイークラト代表になった時も、イークラトの多くのプレイヤーが無視してきたものね」
テッペキがそう言うとズドンも笑いながら言った。
「だな! あいつら絶対くやしかったんだぜ! なぁ、ニジ?」
「うん。私はSNSで結構陰口を書かれたんだ。だから、イークラトにいる時はいつも誰が敵なのかって気を張ってた。でも、ピンデチに来たら……、うふふふふ」
ニジが思わす笑うとレインも笑って皆に言った。
「まぁ、イークラト代表だった僕たちがピンデチ代表のひろしさんたちとの模擬戦にも負けてさ、その上ピンデチに引っ越しただなんて、イークラトの笑いもの決定だね」
それを聞いたキョウコは爆笑しながらレインに言った。
「あっはっはっは! その通りだな! でも、ひろしさんたちが強かったのは事実だ。あのチームにゃイークラトの手練でも勝てないよ。それにレイン、今ピンデチに居るのが楽しいんだろ?」
「ああ、もちろんだよ。イークラトに居た時よりも何十倍も!」
「なら胸を張ろうぜ! あたしたちはピンデチに負けて、ピンデチが好きになって、今ここに住んでるって!」
「ははは! さすがはキョウコ、良いこと言うね! 最高だよ!」
レインがそう言うと、みんなはウンウンと頷いて笑顔になった。
◆
その頃、ピンデチに新しく出来たショッピングモールには、スマイル道具店のメンバー総出で引っ越しをしていた。
その指揮を執っていた哲夫も重いひな壇を運びながらみんなに言った。
「こういうのは、何しろ急がなくてはなりません! 早く開店すれば、物珍しさで来たお客様も取り込めます。不格好でも良いので、とりあえずショッピングモールで開店しますよ!」
「「はいっ!」」
哲夫たちがショッピングモールにひな壇や什器、商品を運び込むと、哲夫は手伝っていた黒猫とドラちゃん、そしてマユとメイとナミに言った。
「あとは我らで運びますので、ピンデチの有名人のマユさんとメイさんとナミさんはこちらで開店して販売をお願いします! 黒猫さんとドラちゃんさんは猫と小さなドラゴンでマスコット的にお願いします!」
「はい!」
「うん!」
「ぅん!」
「承知。客寄せはお任せを」
「もちろん! 頑張ります」
哲夫たちが走って戻って行くと、メイは少しニヤニヤしながらマユに言った。
「ちょっ! 哲夫さんが、あたしたちをピンデチの有名人って!」
「ははは。なんだか気が引けるけど、ちょっと嬉しかったよね」
しかしそれを聞いたナミは、マユとメイにURLを送信して言った。
「それゎ、ほんと。それ見て」
マユとメイは、ナミから送信されたURLを開くと「ピンデチ推し百景(女性版)」というWEBサイトが開かれた。
「えっ!」
「推し?」
2人は並べられた画像をスクロールすると、沢山のルルとイリューシュの画像に混ざって、スマイル道具店で笑顔で販売するマユとメイの画像が多くあった。
「いつの間に? 撮られてた?」
「えっ、やば! これまじで?」
するとナミは静かに答えた。
「このサイトは、ぅらサイトだからマユとメイが告発したらスグ消ぇる。けど、どの写真もかわぃく写ってる。やっぱりルルさんとイリューシュさんが人気だけど、マユとメイとめぐさんも人気。ぁと、つむぎちゃんたちも」
それを聞いたマユとメイは少しだけ恥ずかしそうにすると、メイはふと気がついてナミに言った。
「え? てかナミは? ナミ、絶対かわいいのに」
「ゎたしの写真もけっこうぁる時がぁる。けど、コアなファンが大量投稿して違反するから、ぁとで削除される。美咲ちゃんとアカネさんもそぅ」
それを聞いたマユは少しだけ考えてからナミに言った。
「それ分かるかも。ナミも美咲ちゃんもアカネさんも、特定の人に深く愛されるキャラじゃない?」
するとメイも笑顔で言った。
「だよね! ナミは相性の合う人にめっちゃ好かれそう!」
それを聞いたナミは笑顔で答えた。
「ぅん。ゎたしも、そのほうがぃいし美咲ちゃんもアカネさんも、そうぉもってるとぉもう」
するとその時、メイはふと思いついて言った。
「って事はさぁ、ピンデチ推し図鑑の男性版もあるよねぇ」
メイがそう言うと、3人は無言で検索を始めた。




