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第62話 哲夫、一番乗り

 大谷とアーボンが話している頃、ピンデチふれあい苑に引っ越してきたイークラトのメンバーは、夜、食堂にいたご高齢者の皆さんと談笑をしていた。


「ぼくは騎士のレインです。こちらの女性の騎士がキョウコ、そちらの女性の魔法使いはニジで、ランスの彼がテッペキ、ハンマーの彼はズドンです。しばらく名前をガムテープに書いて胸に貼っておきますね」


 それを聞いたご高齢者たちは嬉しそうに握手を求めながら言った。


「いやぁ、格好良い鎧、着てはりますなぁ!」

「ごめんなさいね、頑張ってお名前覚えるわ」

「大谷さんに聞いたわよ。よろしくお願いね」


 レインたちはご高齢者たちの熱い歓迎を受けると、このゲームでは感じたことのないような感覚を感じて、みな笑顔になった。


 すると、ご高齢者の1人がレインたちに言った。


「この施設の地下にはなぁ、温泉施設があるんやで。せっかくやし、一緒に行かへんか?」


 しかし、それを横で聞いていたご高齢者が慌てて言った。


「ちょっと、そんな急に! みなさんは、いま私たちと会ったばかりなのよ!」


 しかしレインたちは仲間たちと話し合うと快諾して答えた。


「ありがとうございます! ぜひ、一緒に温泉に入りましよう!」


 こうしてレインたちは、ご高齢者の方々と仲良くなっていったのだった。


 ◆


 翌日の朝。


 ピンデチふれあい苑のご高齢者の皆さんは社長のマイクロバスで桜の群生地に到着していた。


 ご高齢者の皆さんは遠くに見える桜の美しさに感心しながらマイクロバスから降りると、清が走り出てレインたちの前で頭を下げた。


「レインさん、どうか私も戦闘に参加させて頂けませんでしょうか。最強と言われるイークラトの方々の戦い方を見たいのです」


 それを聞いたレインたちは謙虚な清に心を打たれ、全員一斉に頭を下げてレインが答えた。


「もちろんです! 清さんは土の魔法使いですよね。では、今回はタンク役になって頂いて、清さんを中心に戦ってみましょう」


「はっ、はい! 精一杯頑張ります!!」


 清はイークラトのメンバーのタンク役という大役に緊張しながらも、岩の杖を出現させて気合を入れた。


 ◆


 清とイークラトのメンバーが先に進んでゆくと、社長がご高齢者の皆さんに説明をした。


「みなさん、この場所はとても桜が綺麗な場所なのですが、この道の先に敵が現れるのです。いま清さんとイークラトの皆さんが戦いに行きましたので、離れないように、ゆっくりと進んでいきましょう」


 ご高齢者の皆さんは清の事を心配しながらも社長の案内でゆっくりと桜の群生地へと歩いていった。


 すると少し遠くでサムライの亡霊との戦いが始まるのが見えた。


 社長は念のため両手に盾を装備して足を止めると、遠くでは清が勇ましく土壁や石の礫《つぶて》、さらには業炎の壺も使ってサムライの亡霊をを足止めしている姿が見えた。


「清さん、やりますな!」

「ええ、格好良いわね!」

「さっすが清さんやで!」


 そして清の作った土壁を起点に、イークラトのメンバーが回り込みながらサムライの亡霊を次々と倒していっていた。


 しかし敵の数も多く、清がMPを減らしすぎて焦っていると、それを察した女性の魔法使いのニジが素早く清に全魔法回復薬を送信して言った。


「清さん、それで回復してください。敵の足止めは一旦わたしがやるね」


「はい、お願いします!」


 清が返事をすると、ニジは空に光の魔法陣を展開して壁を作るように光の矢を地面に放った。


 ズドドドドドドドド……


 レインたちはそれを見ると、一斉にスキルを使ってサムライの亡霊へと飛び込んだ。


 ◆


 こうして清とレインたちによってサムライの亡霊は倒され、ピンデチふれあい苑のご高齢者の皆さんは無事に桜の群生地へとやって来ることができた。


「いやぁ、綺麗だなぁ」

「ほんとうね、うふふ」

「こらぁ、すごいなぁ」


「お花見は、何年ぶりだろうか」

「また歩いて見られるだなんて」

「んだが清さん格好良かっだな」


 すると遅れてやって来た専務の大谷が皆さんに挨拶をしながら桜の群生地の開けたところにグランピングセットを展開し、沢山の椅子やテーブル、そしてバーベキュー台を出現させた。


 さらに高級和牛の赤身食べ比べセットと、ピンデチふれあい苑で収穫した野菜を出現させると、ご高齢者の皆さんに嬉しそうに言った。


「皆さん! 今日は特別にこちらでバーベキューを致しましょう! 和牛はもちろんのこと、皆さんに育てていただいた野菜もお持ちいたしました!」


「「おおおおおー!!」」


 大谷の言葉にご高齢者の皆さんは嬉しそうに声をあげた。


 しかし、清だけは少し離れたところで地面に座っていた。


 それを気にかけたニジは清の近くに行って優しく声をかけた。


「清さん、大丈夫ですか?」


 すると清は頑張って笑顔を見せながら答えた。


「あぁ、ははは。さすがに今回の戦いは肝が冷えました。まさかMPが無くなってしまうなんて……。ニジさんが居なかったらと思うとゾッとします」


「うふふ、清さんはカッコよかったですよ。もし私がMPが無くなりそうになったら、怖くて逃げてたかも」


 ニジが笑顔でそう言うと清はニジの優しさに表情を崩して答えた。


「お優しい言葉ありがとうございます、ニジさん。私は一生かけてもニジさんのように光の魔法を使えるようになれないですが、できるだけ近づけるように頑張りたいと思います」


 それを聞いたニジは満面の笑顔で答えた。


「ううん、清さんなら絶対光の魔法が使えるよ。だって私がピンデチにいた時は、そんな謙虚になれなかったもの。もし、魔法で困った事があったら絶対に私に相談してくださいね」


「あ、ありがとうございます! ニジさんのような方にそう言って頂けると嬉しいです! 今後とも何卒よろしくお願い致します!」


 清は慌てて立ち上がってニジに頭を下げた。


 こうして清は、魔法の相談相手を見つけることが出来たのだった。


 ◆


 その頃、ピンデチのメインストリートの脇にあった大きな空き地に突然大きな建物が現れた。


 その建物はスコットランド旧市街にありそうな中世ヨーロッパの面影がある4階建ての建物で、入口にはピンデチ・ショッピングモールと刻まれていた。


 なんとそのショッピングモールが出現したすぐ横では哲夫が笑顔になりながら頷いていた。


「やはり出来ましたな。今まで何度と無く出ていた噂と、突然出来た空き地。予想していた通り。毎日早朝から待っていた甲斐があったというものです」


 哲夫はそう言って入口に移動し、暫くショッピングモールの前で待っていると、中からロボットアシスタントが出てきて入口の前に止まり、胸の液晶画面に「入居者募集中」の文字を表示させた。


 それを見た哲夫は一番乗りで液晶画面をタップし、なんと入口を入ってすぐ正面の区画を2区画契約した。


 哲夫は契約を完了すると、笑顔になりながらスマイル道具店へと向った。


「さて、これでスマイル道具店も協業しているルルさんの花と昆虫の店も一等地を手に入れられましたな。これからが楽しみというものです」


 哲夫はスマイル道具店にへ向かいながら、今後のプランを考えていた。

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