第56話 ひろし、駆け抜ける
午後3時、おじいさんたちとイークラトのチームの模擬戦が始まった。
イリューシュとおじいさん、そしてアカネは遊覧船に乗り込むと、全速力で湖を進んだ。
そしてイークラトの騎士たちも一斉に湖に向って走ってきた。
そして湖の奥からイリューシュたち遊覧船が向ってくるのを確認すると、女性の騎士が男性の騎士に相談した。
「どうする? 予想はしていたけど、イリューシュさんが遊覧船で向ってくるわ。ここで迎え撃つべきかしら?」
「いや、船の上にはひろしさんもいる。という事は、ほかのメンバーは湖の横を通って向ってくるか、3人で砦を守るつもりだよ」
「なら、スピード勝負ね。2人ずつ2手に分かれて湖の両側から攻めるわよ!」
「うん」
「はい」
「おう」
イークラトのチームは2手に分かれて湖の両側から砦へと向った。
◆
イリューシュの遊覧船は、2手に分かれたイークラトチームとすれ違うように対岸に到着すると、アカネも船の中から跳び出して一斉に陸へと降りた。
するとイリューシュがおじいさんとアカネに言った。
「ひろしさん、アカネさん、先に進んでアスレチックの近くで隠れて待機していてください。私は少し敵を翻弄してきますね」
「わかりました」
「おっけーっす」
おじいさんとアカネはアスレチックのある方へと走り出した。
イリューシュは軽量な弓を構えると、遊覧船に隠れながら湖の両側を砦へと走っていくイークラトのメンバーの背後から狙った。
ヒュッ!
イリューシュが放った矢は、見事に男性の騎士を背後から射抜いた。
ドッ!
「えっ!?」
男性の騎士と一緒にいた女性の騎士は慌てて体を伏せると、女性の騎士が警戒しながら男性の騎士に言った。
「やられたわ。あの遊覧船のイリューシュさんとひろしさんは、最初からあたしたちを背後から狙うつもりだったんだわ。挟み撃ちよ」
「くっ! さすがイリューシュさん。僕らの行動は見透かされていたのか」
男性の騎士は湖の反対側を進むメンバーにボイスチャットを繋いだ。
「気をつけて、こちらは背後からイリューシュさんに狙われている。挟み撃ちみたいだ。そちらも気をつけて」
「わかった! あの遊覧船は砦を攻撃に行くと見せかけて、おれたちを背後から狙うための作戦だったのか!」
湖の反対側を進むメンバーたちも背後を警戒しながら足を止めた。
イリューシュは遠目で足止めに成功した事を確認すると、アスレチックへと向って走り出した。
◆
イリューシュはおじいさんたちと合流すると、笑顔でおじいさんに言った。
「ひろしさん、敵の進軍速度を落とすことが出来ました。今がチャンスです、一気にいきましょう。アカネさんはアスレチックで待機で」
「はい!」
「おっけーっす」
おじいさんとアカネが返事をするとイリューシュは一気に飛び出して敵の砦へと走り出した。
おじいさんも慌ててイリューシュを追いかけると、砦を防衛していた女性の魔法使いがおじいさんたちを発見してボイスチャットを繋いだ。
「大変よ! イリューシュさんと、ひろしさんが来ちゃった!」
それを聞いた男性の騎士を驚きながら答えた。
「なんだって!? だ、騙された……」
男性の騎士が驚いていると女性の騎士がボイスチャットを繋いで騎士たちに指示を出した。
「あたしたちは自陣の砦に戻って加勢するわ。そっちの2人はそのまま湖の横を進んで敵の砦へ攻め込んでちょうだい。……ふっ、まんまとヤラれたわね」
女性の騎士は、男性の騎士と一緒に自分たちの砦へと急いだ。
◆
その頃アカネはアスレチックのジップラインの乗り場で体育座りをしながら、あくびをしていた。
「ふわぁーあ。バトル中なのに、平和だなー。ほんとに敵さん来るのかなぁ」
アカネはそう言って湖の方角を見ると、なんと男性の騎士と女性の騎士が慌てた表情で走ってくるのが見えた。
「あっ、来た来た! おっし」
アカネはジップラインに飛び乗ると、一気にアスレチックエリアに向って滑り降りていった。
シャァァアアアア……
男性の騎士と女性の騎士は自陣の砦への道をショートカットしようとアスレチックエリアに入ると、横からジップラインで迫ってくるアカネに気づいて武器を構えた。
「あっ! 道着の女の子!」
「しまった! 待ち伏せか」
アカネはジップラインの終点から飛び降りると、前回り受け身で着地して加速し、一気に男性の騎士と女性の騎士へと迫った。
それを見た男性の騎士と女性の騎士は、アカネのあまりの運動神経の良さと速さに驚きながら戦闘態勢を整えた。
「あの運動神経、やっぱり拳闘士!」
「あの速さは俊足に間違いないわ!」
男性の騎士と女性の騎士が勘違いをすると、アカネは嬉しそうにあの凶悪なアイテムを投げつけた。
「はい、危険なほど臭い排せつ物」
びちゃっ
「うっ、うわぁぁああ!」
「きゃぁぁあああああ!」
アカネの「危険なほど臭い排せつ物」は、男性の騎士と女性の騎士に重なるように命中し、2人は悶絶しながら体についた危険なほど臭い排せつ物を取り除こうと、アスレチックの横にある池へと飛び込んだ。
◆
その頃、黒ちゃんとめぐは、敵のハンマーとランスの騎士を相手に砦の防衛戦をしていた。
めぐは手に入れた俊足スキルと盾スキルで敵の攻撃を防御しつつ土壁で視界を遮りながら敵を翻弄すると、それと連携するように黒ちゃんが攻撃を繰り出し、敵の騎士のHPをどんどんと奪っていった。
黒ちゃんはめぐの防御技術に感服すると思わずめぐに言った。
「めぐさん。すばらしい防御コンビネーションです。まさか大地の魔法まで手に入れていたとは……」
「へへへ。全部守るためのものなんですけどね」
めぐがそう答えた瞬間、ハンマーの騎士が捨て身の攻撃を仕掛けてきた。
「おれはこの一撃にかける! 尋常に勝負!」
ハンマーの騎士はそう叫ぶと横に回転し始め、ハンマーのスキル「ぐるぐるハンマー」でめぐを狙った。
しかしめぐは冷静に盾を構えると、迫りくるぐるぐるハンマーに向けて石の礫を放った。
ズバババババ!!!
「うわっ! 目がぁっ! 目がぁぁあぁっ!!」
めぐの石の礫がハンマーの騎士の顔に命中してヨロけた瞬間、黒ちゃんが左手のモーニングスターを空に投げて走り込み、左腕でハンマーの騎士の腕を掴んだ。
そして、もう片方の腕のモーニングスターでハンマーの騎士の甲冑をひっかけると、豪快に柔道技の肩車に持ち込んだ。
「でやぁああああああ!!!」
「なっ、なななな! うそ!」
ズバンッ!!
ハンマーの騎士は地面に叩きつけられると、黒ちゃんは空中に投げたモーニングスターをキャッチして、全力でハンマーの騎士の腹にモーニングスターを叩きつけた。
「おぉぉおぉおおおお!!」
ドゴン!!
「うっ! だめだったか……」
ハンマーの騎士は消滅していった。
それを見たランスの騎士は劣勢だと判断して下がったが、その様子を見ためぐは思うところがあって黒ちゃんに言った。
「黒ちゃんさん、ランスの人って盾のスキルが豊富だって聞いたんですけど、勉強のために、わたしが戦ってみても良いですか? きっと敵があの状態だったら黒ちゃんさんだけでも倒せると思うので」
「なるほど、さすがはめぐさん。ですが、私が戦って敵のスキルを客観的に学ぶことも出来ますよ。私が盾スキルを出すように誘導しながら攻撃することも出来ますし」
それを聞いためぐは少し悩みながら呟いた。
「そっか……。主観で学ぶのと、客観で学ぶのはどっちも大事よね……。どうしよう……」
それを聞いた黒ちゃんは閃いてめぐに言った。
「それならば、良い考えがあります」
黒ちゃんはそう言うと、ランスの騎士は冷や汗を流しながらランスを構え続けた。




