第55話 ひろし、照れる
―― それから数日後 ――
おじいさんたちは森の島バトルイベントでイークラトのチームと模擬戦をするために森の島にやって来ていた。
おじいさんたちが船着き場に転移してくると、先に待っていたイークラトのメンバーが笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは! 今日は来てくださいまして本当にありがとうございます! 今日は楽しんで戦いましょう!」
それを聞いたおじいさんたちも笑顔で答えた。
「あ、はい、宜しくお願いします」
「ええ、宜しくお願いしますね」
「お願いします!」
「うむ、こちらこそお願いします」
「今日は宜しくね!!」
するとイークラトチームの男性の騎士がイリューシュに挨拶をした。
「イリューシュさん。先日のピンデチの戦い、とても興味深かったです。しかし、イリューシュさんほどの有名な方が、なぜピンデチを拠点に?」
「ふふふ、ピンデチは良いところですよ。それに仲良くしてくださる方々がピンデチを拠点にしていますので」
「なるほどですね。イリューシュさんくらいになると小さなプライドなどは気になさらないのですね。すみません、失礼な事を聞きました」
男性の騎士が頭を下げると、イリューシュは笑顔で答えた。
「ふふふ。ですが住居を構えるとなると、家を建てたエリアが自慢になりますものね。イークラトに家を建てれば一流なんて言われていますから」
「はい。ですけど、最近イリューシュさんやベンドレさんやルルさん。それにちょっと異色ですけどアーボンさんなんかもピンデチに土地を買ったり家を建てたりしているじゃないですか」
「ええ、そうですね」
「それが今ネットで話題になっていて。なんで強すぎる人たちがピンデチに行くのかって……」
「ふふふ。それは、ひろしさんですね」
「……えっ? ひろし……、さん……、ですか?」
「ええ。直接的にも、間接的にも、ひろしさんが拠点にしているピンデチに集まっているんです」
「そ、そうなんですか?」
「私はひろしさんと出会った時に、その人となりに安心感すら覚えて仲良くさせて頂いています。ベンドレさんもルルさんも、ひろしさんが居なかったら今のように改心はしていなかったでしょう」
「ベンドレさんがあの盗賊の一団を解散したのは、まさか……」
「ええ、ひろしさんがベンドレさんにフレンドリクエストを送ったおかげです。それにアーボンさんも、ひろしさんを慕っていますしね」
「す、すごいですね……。その、ひろしさんという方に会ってみたいものです」
「ふふふ。ひろしさんは、こちらに」
イリューシュがおじいさんを手のひらで紹介すると、おじいさんは何と言ったら良いのか分からず恥ずかしそうに頭を掻いた。
◆
ピンデチのチームとイークラトのチームは握手して、それぞれ拠点となる砦へと向かうと、イークラトチームの男性の騎士は仲間たちに言った。
「あの、ひろしさんって方はすごく良い人だったな。なんだか、イリューシュさんみたいなレベルの人たちが慕うのが分かる気がするよ」
それを聞いた女性の騎士は笑顔で答えた。
「だね。なんかさぁ、あたしも最近いろいろ考えてたんだけどさ。エンドコンテンツ(クリア後のクエストなどのイベント)まで来ちゃうと正直誰が強いとか弱いとか、つまらない事になるよね」
「そうだね。コロシアムの対人戦も飽きちゃうし、新しいモンスターが追加されても退屈だし」
「ってか、だからこの模擬戦を申し込んだんでしょ? 有名人のイリューシュさんと最近有名になってる撲殺紳士と戦えるから」
「ははは、そうだね。おれたちの強さってこのVR世界だけなのに、最近は使い所も無いからね。このあいだのピンデチの戦いで、セーブデータが消えたら、また楽しめるんじゃないかって思っちゃったくらいだからな」
「そうだよな、あたしもそう思ったよ。けど今日は楽しめるんじゃないか? ネットの情報だと撲殺紳士がモーニングスターでウィンドブッチャーを発動して木をなぎ倒した動画が出てたぞ」
「そ、それは本当かい!? あの撲殺紳士が大司教の魔法を? ……はははは。今日は楽しめそうだね」
「だな! ……さて! 砦の防衛を考えなきゃな」
「そうだね! 今日は頑張ろう!」
「「おう!」」
イークラトのメンバーたちは笑顔で拳を挙げた。
◆
その頃、おじいさんたちはイリューシュの計画の元、自陣の砦周辺で会議をしていた。
イリューシュは地面に木の枝で森の島の地図を描くと、イリューシュは今日の作戦を説明した。
「相手は騎士が中心のグループです。魔法使いは1人ですので、恐らく砦の防衛に回ると思います。ですので騎士たちは音の出せる湖の周りから攻めてくると思います」
イリューシュは木の枝で湖の周りに線を描くと、湖に一本の線を描いた。
「それを逆手に取って、わたしとひろしさんは遊覧船に乗って湖を直進して一気に進軍します。そして遊覧船にはアカネさんにも隠れて乗ってもらいます」
それを聞いたアカネはよく理解できずにイリューシュに言った。
「えっ? あたしも?」
「ええ。アカネさんはアスレチックに強いと聞きました。湖の反対側に上陸した後、私とひろしさんは一気に敵の砦を攻略します。その間アカネさんはアスレチック近くで待機をしていてください」
すると黒ちゃんがアカネに言った。
「砦を防衛する殆どのプレイヤーは砦の前で待ち構える。そして、そのプレイヤーが敵を発見すれば当然のようにボイスチャットで……」
それを聞いたアカネはウンウンと頷きながら言った。
「なるほどな。ボイスチャットで救援を呼べば敵のメンバーが帰ってくるんだな。で、あたしはアスレチックエリアで迎え撃つって感じでしょ?」
「うむ、その通りだアカネ。池のほとりの拠点にはアスレチックを通るとショートカットができる。そこを迎え撃つのだ。私とめぐさんは砦を防衛するので加勢できないが、アカネ頼んだぞ」
「おっけー! なんだか面白くなってきたな!」
アカネは嬉しそうに言った。
◆
その頃、イークラトのチームはおじいさんたちのチームの武器構成が分からずに悩んでいた。
「まず、撲殺紳士は棍棒と大司教の魔法で良いよね? あと、イリューシュさんは大弓で賢者だって聞いたことがある」
「その2人は確定で良さそうね。で、あの女の子はさっきホワイトドラゴンの片手剣を持ってたわ。ピンデチにしては凄いわね」
「確かに、そうだね。……じゃあ、あの女の子は片手剣って事で良いね。あとは……」
「そうなのよ。ひろしさんと道着の女の子が……」
「ひろしさんの武器が不明だね……。それにあの女の子、まさか空手とか?」
「あ、それはあるかもしれないわ。だとしたら拳闘士の可能性が高いわね」
「なるほど、それは盲点だった。だとすれば俊足や反転スキルが怖いね」
「ええ。それにもしかしたら、ひろしさんも拳闘士かもしれないわよ」
「そうか。とすれば、ひろしさんと道着の女の子は俊足スキルを使ってスピードで勝負してくる可能性があるね。あ、だったら片手剣の女の子も俊足スキルつかえるね」
「なーるほどね、危なかったわ。イリューシュさん、もしかしたらそれを狙っていたのかもしれないわ」
女性の騎士はそう言うとメンバー全員に言った。
「私たち4人は近接武器だけど、得意武器は両手剣にハンマーにランス、そしてあたしの斧槍。俊足を使われると戦いづらいわ。みんな、防御力を犠牲にしてでも出来るだけ軽量な防具で挑むわよ」
「うん」
「はい」
「おう」
こうして、イークラトのチームの騎士たちは防御力の低い軽量な防具に装備を変更した。




