第54話 ルル、仲介役になる
ルルはピンデチの時計台に転移してくると、偶然ピンデチふれあい苑から歩いてきたおじいさんに出くわした。
「あ、ひろしさん」
「あぁ、ルルさん」
おじいさんたちはお互いに挨拶を交わすと、ルルがおじいさんに尋ねた。
「ひろしさん、何か困りごととか無い? 実はね、この間海岸で戦った武士の一団って、騙されてわたしたちと戦ってたみたいなの。でも、とっても反省しててピンデチのみなさんのお役にたつ事をするって言ってくれて」
するとおじいさんは笑顔になってルルに言った。
「あぁ、それでしたら、ちょうど良い話があります。今、つむぎちゃんの畑で大谷専務と会っていたのですが、大谷さんは稲作をしたいみたいなんです。ですが、畑の作業もあるので人が足りないとかで……」
「あっ! それいいかも! 大谷さんってまだピンデチふれあい苑に居る?」
「え、ええ。つむぎちゃんたちと難しい話をしていたみたいなので」
「ありがとう、ひろしさん! ちょっと行ってくるね!」
「あ、はい」
ルルは全力で走ってピンデチふれあい苑へと向かった。
◆
翌日、ルルはミナモトの一団がいる東の孤島にやって来て、島の奥にある寺に一団を集めていた。
そして一段高いところから全員に言った。
「聞いて。ピンデチの重要な任務を頂いたわ。それも、このゲームを運営しているイグラァの専務、大谷さんからの大きな任務よ! 汚名を挽回できるチャンスよ!」
「「「おおぉぉおおお!!!」」」
ヨリトミと一団は歓喜すると、ルルは話を続けた。
「これからこの島で稲作をするわ。でも、この世界の植物は20倍で成長するんだって。だから稲作も20倍で手入れをしないといけないんだけど……」
ルルがそこまで言うとヨリトミがルルに言った。
「問題ありません!! 我らは現実世界の仕事の時間を申し合わせながら24時間、この島におります! 20倍の稲作であれば我らの得意分野かと思います!」
「そ、そう。なら良かったわ」
しかしルルは姿勢を正して一団に言った。
「でもいい? 20倍の稲作ってけっこうヤバいわよ? わたしのおじいちゃんとおばあちゃんは茨城で米農家やってたから少し知ってるけど、半端な気持ちじゃお米って作れないわよ?」
しかし頭領のヨリトミは満面の笑顔で答えた。
「ご心配には及びませんルル様。私は新潟の出身で両親は現役の米農家です。そして私も大学に行くまでは両親の手伝いをしており、米作りに妥協はありません」
それを聞いたルルは嬉しそうに言った。
「なによ、いいじゃない。ってか、ヨリトミくんってそんな笑顔出せるのね。それなら安心してお米は任せられるわ。ピンデチのみなさんに美味しいお米を作ってあげられるかしら」
「ははぁっ!! 米どころのプライドにかけて、VR世界でも最高のお米を育ててみせます!!」
ヨリトミはその言葉に満面の笑顔で頭を下げると、一団も一緒に頭をさげた。
◆
その頃、ピンデチふれあい苑の入口ではちょうど収穫時期を迎えた野菜を販売する、市場が開かれていた。
つむぎたちは、嬉しそうにプレイヤーたちに声をかけていた。
「こちらは、トウモロコシの醤油焼きでーす! おひとつ、いかがですかー!」
「じゃがバターおいしいですよー! ぜひ!」
「サツマイモはいかがですかー! 甘いですよーー」
つむぎとミッチとChocoが笑顔で収穫した農産物を加工して販売していると、お客さんさちは、その美味さに驚いて次々と声をあげた。
「うわっ! このトウモロコシめちゃ美味しい!」
「なに、このじゃがバター! やばいんだけど!」
「あぁ、このサツマイモ。故郷を思い出すなぁぁ」
こうして、つむぎたちのお店は好評を得て確実に常連客を得ていった。
そして、つむぎたちの店の前ではサヤおばあちゃんたちが収穫した野菜を販売していた。
「トマトにきゅうり、じゃがいもにサツマイモ、キャベツにトウモロコシ! なんでも美味わよー!」
すると30代くらいの獣人のカップルがやって来て、野菜を見て驚いた。
「あら? ここの野菜、色つやがリアルね」
「ああ。それに、デジタル野菜ショップの野菜みたいに、同じ形じゃないな」
それを聞いたサヤおばあちゃんは嬉しそうにカップルに言った。
「これはね、ちゃんと土から作った畑で収穫した野菜なのよ。よかったら、お試しにトマト食べてみてちょうだい!」
サヤおばあちゃんはそう言うと、試食用にカットしておいたトマトを爪楊枝に刺して2人に差し出した。
2人はトマトを受け取って口に入れると、そのあまりの美味しさに驚いた。
「えっ!? 味がリアルすぎてビックリ!」
「うまい! 本物のトマトだ! すごい!」
すると獣人の女性は嬉しそうに目を輝かせながらサヤおばあちゃんに言った。
「ここにある野菜、全種類2つずつもらって良いかしら。本当においしいわね!」
「喜んでもらって良かったわ! じゃあ、6種類の野菜を2個ずつで、600プクナになりますね」
「えっ!? 12個で600プクナで良いんですか!?」
それを聞いたサヤおばあちゃんは看板を指差しながら笑顔で答えた。
「ええ。きょうはどの野菜も1つ50プクナで売っているのよ」
「ええっ!! じゃ、じゃあ4個ずつにしてもらっても良いですか!?」
「ええ、もちろんよ! じゃあたくさん買ってくれたから1000プクナにしておくわね」
「いいんですか!?」
「うふふ! 私たちもたくさん買ってもらったら嬉しいもの。野菜たちも喜ぶわ」
サヤおばあちゃんの言葉に獣人のカップルは感動しながら笑顔になった。
◆
その頃、ミナモトの一団が暮らす東の孤島に専務の大谷率いる稲作エンジニアチームが到着していた。
大谷はヨリトミの案内で一団が集まる大きな寺へと案内され、大谷は一段高い座布団に案内された。
大谷は座布団に正座をするとミナモトの一団に話しはじめた。
「まずは、今回のプロジェクトに参加してもらえたことに感謝します」
大谷はそう言って美しく頭を下げると、ミナモトの一団もヨリトミを先頭に一斉に頭を下げた。
そして大谷は頭をあげると、再び話し始めた。
「今回のプロジェクトはVR業界に大きな変革をもたらす可能性を秘めた重要な任務です。先程、田んぼ予定地の近くに大量の土を転送しました。その土を使って田んぼを作って頂きたい」
すると先頭のヨリトミが返答した。
「はっ! 承知いたしました」
「そして、ここから先が重要です。この稲作プロジェクトは内密でお願いします。それに関連して皆さんにお願いがあるのですが、お聞き頂けますか?」
「はっ! なんなりと!」
「この孤島をマップから消し、隠れ里にしたいのですが、宜しいでしょうか」
大谷の「隠れ里」という言葉にヨリトミとミナモトの一団は心躍ると、ヨリトミは少し笑顔を見せて大谷に答えた。
「もちろんでございます! それは願ってもないこと! 宜しくお願い致します!」
「快諾、大変感謝いたします。これをもって我が社はミナモトの一団と友好関係を築いたと認識します。ピンデチの件は不問とし、30日間の謹慎も解除致します」
大谷はそう言うと笑顔を見せた。
ヨリトミも大谷の笑顔を見て少しだけ笑顔になると、スッと頭を下げて大谷に言った。
「此度の騒動、大変申し訳ございませんでした。そして、この稲作は我らの使命として必ずや成功させてみせましょう」
こうして東の孤島での稲作が始まったのだった。




