第53話 黒ちゃん、納得する
ブンブンブンブン!!
黒ちゃんは高速にモーニングスターを振り回しながら力士のように腰を落としていくと、モーニングスターを地面擦れ擦れで回し、土埃を巻き上げていった。
ブワワワワ……
「よし今だ! ウィンドブッチャー!」
黒ちゃんはモーニングスターを振り回しながら体を素早く横に回転させて遠心力をつけると、その勢いでモーニングスターからウィンドブッチャーが発動した。
ズバババッ!!
すると発生した真空波は土埃を巻き込み、高速に回転しながら飛んでいった。
そしてその真空波の数は少なかったが、豊富に土埃を巻き込んだ真空波は、まるで薄いヤスリのようになって森の木を切断した。
ズバンッ!!
そしてそのまま、その後ろの木にも傷跡を付けて消滅した。
「こ……、これは……」
黒ちゃんはなかなかの破壊力に驚きながらも、手応えを感じた。
「攻撃範囲は狭くなってしまうが、なんとかウィンドブッチャーを発動できたな……。しかしモーニングスターには1つしか魔法がセットできん……。防御魔法陣が使えなくなってしまうか……」
黒ちゃんはそう呟いたが、ふと気づいて笑った。
「ふっ。私としたことが、つまらぬ事を考えたな。防御するまえに攻撃すれば良いではないか。はっはっは!」
黒ちゃんは笑いながら切断した木の所へ行くと、両手剣に持ち替えて切断した木を様々な長さに切断していった。
そしてアイテム欄から「樹木成長促進剤」を出現させると、切断した木の幹に垂らした。
「木材、ありがたく頂戴した。ちょうど台所の作業台が欲しかったのだ。この促進剤で回復してくれ」
黒ちゃんは促進剤を傷をつけた木にも垂らすと、切断した木を大きな麻の袋に入れてアイテム欄に収納した。
◆
その頃、ルルはピンデチの騒動で戦った武士の集団「ミナモト」が拠点としている東の孤島に転移してきていた。
この孤島はマップの外れ近くにあり、ミナモトの一団が和風の建物を作って共同生活していた。
ルルは誰も居ない村の中に入ると辺りを見回しながら呟いた。
「あのコたち、まだ居るかしら。あんな騒動を起こしちゃったし……」
ルルは村の中程まで進むと、突然、直垂(鎌倉時代の武士の服装)姿の男性が現れてルルにひれ伏した。
「ルル様!! 申し訳ございませんでした!!」
「えっ! ちょ、って、君は頭領のヨリトミくんよね?」
「はっ!! 我々は馬鹿が付くほど正直に嘘の情報を信じ、ルル様たちをっ!!!」
「え、なになに? ちょっとよく分からないんだけど!」
「申し訳ございません!!! 今から切腹致します!!!」
「ちょっ! とりあえず落ち着いて! ね! とにかく事情をおしえてヨリトミくん」
ルルは優しくヨリトミの腕を引っ張り上げた。
◆
ルルはヨリトミの案内で島の奥にある大きな寺へ行くと、そこにはミナモトの一団がひれ伏しながら待っていた。
それを見たルルはヨリトミに言った。
「ヨリトミくん、みんなは自分たちが悪いことをしたって分かってるのよね。だったら頭をあげさせて。わたしだってチョット気が引けるから」
それを聞いたヨリトミはルルに頭を直角に下げて一団に声をあげた。
「皆のもの! ルル様の御慈悲を頂いた! 正座!!」
バババッ!!
ヨリトミの声を聞いたミナモトの一団は一斉に顔をあげて正座をした。
ルルはヨリトミと一緒に中へと進んでいくと、ヨリトミの案内で一段高い場所にある座布団に座らされた。
そしてヨリトミは下に降りると、片膝を突いて頭を下げながらルルに言った。
「ルル様。此度の粗相、心よりお詫び申し上げます。いち早くルル様には謝罪に伺いたかったのですが、運営より30日間この島から出ることを禁ぜられましたが故、それは叶いませんでした」
「あ、そ、そうだったのね。っていうかヨリトミくん、どうしてあんな事をしたの?」
「はっ! 我らは、ある女性からピンデチが無法地帯になって悪意のあるプレイヤーたちに占拠されそうだから助けてほしいと頼まれました」
「あ、うん。確かにあの時はそういう状況だったわね」
「はい。我々もその情報は得ていましたので助けに向かうと約束しました。しかしその女性は、G区画の海岸に凶悪な強い敵が集まっていると言い、それを倒して欲しいと」
「……なるほどね。それでG区画の海岸に転移して来て戦ったのね」
「……うっ。しかし、まさかそれがルル様たちとピンデチの騒動を助けようとした正義のプレイヤー様たちとは気づかずに!!!」
ヨリトミが泣き崩れると、ルルは座布団から立ち上がって下に降り、ヨリトミの肩を優しく叩いた。
「もぅ、ほんとにバカねぇ。あなたたちはホント正直で素直なんだけど、そういう所は甘いのよね。完全に騙されちゃってるじゃない」
「も!! 申し訳ございません!!!」
ヨリトミは必死に土下座をすると、それを見たルルはヨリトミの腕を引き上げながら言った。
「もう、土下座はやめてよ。わたし怒ってないし。それに事情を話したら、みんなだって分かってくれるわよ」
しかしヨリトミは頭を擦り付けながらルルに言った。
「いえ! 全て私の責任です!! この恥と愚かさ、謝らずにはいられません!! 30日の謹慎期間が明けましたら、ピンデチに謝罪に行き、皆様の前で切腹する所存です!! 何度でも!!」
「ちょっ! そんなの怖くて引くわよ! って、もぅ……。こういう所は変に頑固なんだから……」
ルルは腕を組むと少し考え込んだ。
しかし、何も良い解決策が浮かばなかったので、なんとなくヨリトミに言った。
「じゃあさ、ピンデチのみなさんが喜ぶような事ができないか聞いてみるわね。それなら罪滅ぼしができるでしょ?」
「いえ!! 私は切腹をっ!!!」
それを聞いたルルは少し強い口調でヨリトミに言った。
「ヨリトミくん! あなたが切腹して、誰が得するの!?」
「……!」
ヨリトミが黙ってしまうと、ルルはゆっくりとヨリトミに言った。
「いい? あなたが切腹して痛い思いをしても、ピンデチのみなさんは何も得しないでしょ? だったら、お役にたって感謝されなさいよ。切腹して納得するのは自分に酔ったヨリトミくんだけよ。ワガママがすぎるわ」
それを聞いたヨリトミは深く納得し、再びひれ伏してルルに言った。
「ルル様。あたなはいつも冷静で正しい事を言ってくださいます。今もルル様の言葉で目が覚めました。申し訳ございません」
するとそれを聞いていた一団も一斉にひれ伏した。
ルルはその様子を見ると腕を組んでみんなに言った。
「もぅ……。とりあえず、ピンデチのみんなにお役にたてる事がないか聞いてくるから、ちょっと待ってなさいね」
「「「ははぁっ!!!!」」」
ヨリトミと一団は一斉に声をあげると、ルルは少し困ったような表情でその様子を見た。




