第44話 アーボン、飛ぶ
その頃、マガイルーでは、ログインしてきたゴーストが仲間から対戦決定の報告を受け、驚きながら呟いていた。
「……アーボン、……さん?」
すると連絡役の仲間の賢者がゴーストに言った。
「はい。頂上決戦の時はエストンレルトの代表でしたが棄権しました」
「お、おお」
「ゴーストさん、もしやアーボンを知っているのですか?」
「ああ。実は先日一緒にピンデチで戦った」
「ええっ!? まさかあのピンデチの騒ぎでですか?」
「そうだ。しかし、なるほど……。アーボンさんの眷属はハデス。闇属性吸収のローブは安全のために確保しておきたいだろうな」
「ハ、ハデスですか!? あの冥界族の!?」
「ああ、そうだ。そして、対戦にはタケチさんも来るだろう」
「ええっ!? グレートリセットの人じゃないですか! なんかヤバいメンバーですね……」
するとその時、賢者の視界に通知アイコンが現れ、賢者はアイコンをタップして詳細を確認した。
「ゴーストさん、相手の詳細が決定しました。コピーして送りますね」
「頼む」
ゴーストは転送された内容を確認すると、さらに驚いて声を漏らした。
「なっ!? ナミさんも!?」
それを聞いた賢者は不思議に思ってゴーストに尋ねた。
「ナミさんという人も強いのですか?」
「テイマーの弓使いだ。ララガを使役している」
「ええっ、ララガをですか!? それにテイマーだなんて!」
「今回の戦いは面白くなりそうだ。しかし、アーボンさんのチームは1人足りないな」
「そうですね、対戦では眷属が使えません。眷属の全てが人型になれるわけではありませんから、1人として数えられません」
「そうだな。だがメンバーにハデスの名が出ている。これはアーボンさんに知らせておかねばならないな」
「良いのですか? そのまま対戦になれば敵のメンバー不足で自動的にこちらの勝ちになりますよ」
「何を言っている。勝負とは正々堂々とやってこそ意味がる。それに、そんな前代未聞の勝ち方をしてしまえば、教えなかった我らも恥ずかしいだろう?」
「あ、ははは、そうですね」
こうしてゴーストは黒ちゃん経由でアーボンに連絡した。
◆
しばらく後、アーボンの家ではアーボン、ハデス、タケチ、清が「ムンクの叫び」のような顔で絶望していた。
アーボンは黒ちゃんからのメッセージでハデスが参加できないことを知ったのだった。
アーボンは大量の冷や汗をかきながら声をあげた。
「やばいよ、やばいよ、やばいよ、やばいよ!!」
するとその時、ナミが2階から降りてきてアーボンに言った。
「アーボン、メイに家にはぃる権限ぁげて。ぁそび来てくれた」
アーボンはナミの声に正気に戻ると、慌ててメイに家に入る権限を与えて答えた。
「お、おお。おっけー、もう大丈夫だぜ。ははは、変な所見せちゃってごめん」
「アーボン大丈夫? なにかぁった?」
「いやぁ……、実は今度の対戦でもう1人必要になっちゃって……」
するとメイが玄関を開けて家に入ってきた。
「おじゃましまーす! あ、アーボンさんたち!」
メイは嬉しそうに靴を脱いで家にあがると、ナミはメイを見ながらアーボンに言った。
「必要な1人、きた」
それを聞いたアーボンはハッとすると、その場から美しく飛び上がった。
「とぅっ!」
「えっ!? なに!?」
メイが驚いていると、飛び出したアーボンは空中で体操選手のように回転しながら美しい捻りを加え、そして着地のために美しい土下座の姿勢をとると、旅客機が滑走路に着陸するような、華麗なスライディング土下座をキメてメイの前にひれ伏した。
「メイちゃん!! いや、メイ様!! どうか我々をお救いくださいませ!!」
「えっ!? なになになに!?」
こうしてアーボンはメイに事の成り行きを話すことになった。
◆
メイは振る舞われたプレミアム・ドラゴン大福を頬張りながらアーボンの話を聞いていた。
「アーボンさん、それってわたしで大丈夫? だって相手はゴーストさんなんでしょ?」
「いやぁ、そうなんだよね……。でも大司教のメイちゃんだったら魔法戦で有利だと思うんだよ。大司教の最高魔法のウィンドブッチャーもできるしさ」
「そっか。でも、わたしのウィンドブッチャーはゴーストさんのと比べたらメッチャ弱いよ?」
「いや、ぜんぜん大丈夫! 実はさっき話した騒音規制がある湖で、唯一放てる魔法が風魔法なんだよ」
「あ、だよね! だって風は風を切る音のババババしか音出ないもんね」
「そうそう! その音ってギリ50デシベルに届かないんだよ。おれらの砦は湖のほとりでさ、ナミさんと一緒に遊覧船に乗って戦ってもらえると助かるんだよね……」
「あ、でもナミと一緒だったら楽しそう! だって模擬戦って倒されても痛くないんでしょ?」
「ああ、もちろん! 森の島のバトルイベントで倒れても船着き場にリスポーンするだけだから痛くないよ!」
「ならナミと一緒に戦ってみたい! わたしやるよ」
メイはナミの手をとって笑顔になると、アーボンは目に涙を浮かべながら笑顔になって喜んだ。
◆
翌日、アーボンとメイは2人でルシフェルの魔城に来てダンジョンのような通路を進んでいた。
「アーボンさん、ここめっちゃダンジョンじゃない?」
「まぁな。ここは魔城の第1階層でさ、第3階層にさっき言った『堕天の杖』があるんだよ」
「そっか。じゃあ2つだけ下に行けば良いんだよね」
「だな」
「けど、堕天の杖とか、名前やばくない? わたし堕天とかしないよね?」
「ははは、大丈夫大丈夫。ってか、おれら天使でも無いから堕ちようも無いしな。堕天の杖は凄くてさ、聖なる力の大司教の魔法を闇属性に変えて攻撃するんだよ」
「え、やば! なんか怖くない?」
「へへへ。でもそこがミソなんだ。実はゴーストさんが勝者アイテムとして用意した闇属性吸収のローブは普通なら使い道が限られてて、簡単に言うと、あんま要らないアイテムなんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ。実はの世界の闇属性の魔法は冥界族の眷属と、魔城にいる一部のモンスターしか使えないんだ。あ、ほら、洋子さんの黒猫の暗黒魔法だって闇属性だぜ」
「そうなんだ、知らなかった」
「けど、同じ冥界族でもヴァルキリーは聖属性で、ほかの冥界族もほとんど聖属性なんだよ」
「あ、なるほどね! じゃあ、猫ちゃんとハデスさんに会わない限り要らないアイテムなんだね」
「そうそう、そうなんだよ。けど闇属性吸収のローブは超レア・アイテムだからコレクターたちの間では高値で取引されるけど、ゴーストさんにとっては……」
「あ、わかる! ゴーストさん、ハデスさんを助けたし、洋子ちゃんとも仲良くなったし、魔城もクリアしたから、もう必要ないんだね」
「おお、さすがメイちゃん! その通り!」
「って事は、今ゴーストさんって闇属性を油断してるってこと?」
「おおっ! すごいぞメイちゃん! さすがだな! だから堕天の杖がほしいんだ!」
「え、わたしすごい? さすが?」
「ああ、やっぱりメイちゃんは頭いいぜ!」
「え、はははは、ほんとに?」
アーボンとメイは笑い合いながら第1階層の奥へと進んでいった。




