第42話 ひろし、紅茶を楽しむ
翌日、アーボンが家にやって来ると申し訳なさそうに座っているハデスと、それを気遣うように見ている清とタケチが居た。
タケチはアーボンに気づくと慌ててアーボンに言った。
「アーボンさん、来週の森の島のイベントなんですけど!」
「え? 森の島のイベントが、どうした?」
「あるチームが『闇属性吸収のローブ』を勝者アイテムとして参加していて……」
「なっ! まじか! それ超レアアイテムじゃんか! でも誰かの手にそれが渡ったら……」
「はい。間違いなく、アーボンさんを敵視している輩はハデス対策に手に入れたいと思っているかと」
「やばい! 今すぐ、そのチームに対戦願い入れてくれ!」
「はい! 勝者アイテムはどうしますか?」
「じゃ、じゃあ、全回復薬1000個、全魔法回復薬1000個でどうだ! これを嫌がるヤツはいない!!」
「わかりました!」
タケチは即座に対戦予約を入れると、しばらくして対戦が承認された。
「アーボンさん! 対戦決定です!」
「おぉ、それは良かった! はぁぁ……、とりあえずは安泰だな」
「一応、対戦相手のURL送りますね」
「ああ、ありがとう」
アーボンは対戦相手のページを開くと、硬直して驚愕した。
「……えっ。……こ、これ」
なんと対戦相手はマガイルーのゴースト率いるエリート魔法使いのチームだった。
「タケチ、やばいよやばいよ!! 相手はゴーストさんのチームじゃんか!!」
「ええっ!?」
タケチも慌ててURLを開くと、その事実を確認して驚いた。
◆
その頃おじいさん、イリューシュ、アカネ、めぐ、黒ちゃんは、森の島に来ていた。
アカネは一番乗りで船から降りると目の前に広がる森に驚きながら声をあげた。
「うわぁ、ほんとすごい森だなぁ!」
それを聞いた黒ちゃんはアカネに言った。
「アカネ。たしかに大規模な森ではあるが、中は意外と整備されている。アスレチックやカヌー遊び、パラグライダーや乗馬なんかも出来るぞ。しかもバトルイベント日以外は戦闘禁止エリアだから安心して遊べる」
「えっ、まじか! アツいな! 早く行こうよ!」
「お、おう」
走るアカネを黒ちゃんが追いかけると、イリューシュがジャージの懐にタッちゃんを入れているおじいさんと、めぐに言った。
「ひろしさん、めぐさん、この島はイチゴ狩りができる施設があるんです。タッちゃんも喜ぶかもしれませんし、私たちはそちらへ行きませんか?」
「あぁ、それは良さそうですね。どうだいタッちゃん?」
「うききっ!!」
「わたし、アスレチックとかよりもイチゴが良いです!」
こうして、めぐはアカネに連絡をして別行動をすることにした。
◆
おじいさんたちはイチゴ狩り農園にやってくると、イチゴの匂いに気づいたタッちゃんが嬉しそうにおじいさんの顔を触った。
「うききっ! ききっ!」
おじいさんはタッちゃんの頭を撫でると、ウンウンと頷いてタッちゃんに言った。
「ははは。嬉しそうですねタッちゃん。おいしいイチゴをたくさん食べましょうね」
「きききっ!」
おじいさんたちは入口で3人分の料金とタッちゃんの分の料金を払うと、ビニールハウスの中へと入った。
するとその規模の大きさにおじいさんとめぐは目を丸くした。
「おおぉ、こんなに広いのですね」
「すごっ! すごく大きなハウス」
おじいさんたちが驚いていると、なんとタッちゃんがジャージから飛び出して、近くのイチゴをもぎ取り、嬉しそうに口に入れた。
もぐもぐもぐ……
「きききっ!! きききっ!!」
タッちゃんはあまりにもイチゴが美味しかったので両手をあげて飛び跳ねながら喜び、おじいさんの足に抱きついた。
おじいさんはタッちゃんの頭を撫でるとタッちゃんに優しく言った。
「美味しかったのですね。イチゴはどれだけ食べても良いんですよ。たくさんお食べ」
「きききっ!」
タッちゃんはおじいさんの言葉を聞くと、近くにあったイチゴを丁寧にもぎ取り、お行儀よく座りながら食べ始めた。
それを見たおじいさんはタッちゃんの頭を撫でながら言った。
「タッちゃんはお行儀が良いですね。えらいですよ」
もぐもぐ……
「ききっ!」
タッちゃんは嬉しそうにおじいさんを見上げた。
◆
その頃、アカネと黒ちゃんはアスレチックで勝負をしていた。
小柄ですばしこいアカネはスルスルとアスレチックを走り抜けてゴールしたが、黒ちゃんは最後の網をよじ登るところで力尽き、網に絡まって足を止めた。
それを見たアカネは笑いながら黒ちゃんに言った。
「はっはー! あたしの勝ちだな!」
「お、おう。私の負けだ。しかしアカネ、お前の速さは尋常じゃないぞ」
「え? そう?」
「うむ。ジップラインで急降下したらそのまま前回り受け身で着地して走り出し、池の飛び石は2つ飛ばしで通過。一本橋は恐れること無く加速して、そのまま湖の丸太橋にジャンプ。そこから湖から突き出した細い木の先を走り抜けて網に……」
「ってか、そんなに難しい? めっちゃ楽しかったけど」
「……アカネ、お前の身体能力には敵わぬな。対戦ではこの場所が使われる事が多い。もしそうなったら、アカネは格上の相手でも倒せるかもしれん」
「え、まじで? ってか褒めすぎじゃない?」
「いや、これは本当の事だ。アカネの身体能力には改めて感服した」
「ええっ、そ、そうかな? へへへへへ」
アカネは嬉しそうに頭を掻いた。
◆
その頃おじいさんたちはイチゴ狩りを終え、湖エリアにやって来ていた。
おじいさんたちは遊覧船チケットを購入すると、遊覧船に乗って湖に出て、イリューシュが用意した紅茶を飲みながら優雅に景色を楽しんだ。
おじいさんはタッちゃんを撫でながら紅茶を飲むと、美しい景色にウンウンと頷いてイリューシュに言った。
「イリューシュさん、この湖はとても綺麗ですね。緑に囲まれて穏やかで」
「ええ。この湖は色々な穏やかなアクティビティがあって、あちらはサップヨガ、そちらは湖上の坐禅会をしています。それに、あちらはお茶会のようですね」
「おぉ、湖の上に浮いている畳のような物の上で皆さん楽しんでいらしゃいますね」
「はい。この湖には騒音規制がありまして、50デシベル以上の音を出すと警告が出て、無視すると強制的にログアウトになるんです。ですから、穏やかな時間を求めるプレイヤーさんたちが集まるんです」
「ああ、なるほど。これは良い場所を知りました。ははは」
「ですから来週の対戦では、湖での戦闘は音が出る剣や魔法を使わないプレイヤー同士の戦いの場所になるかもしれませんね。特に弓には格好の場所です。ひろしさんの丸い石にも向いてそうですね」
「……なるほど、そうですね」
「ひろしさんと私は音を出さずに攻撃できます。来週の対戦は、この場所を有効利用できるような気がします。遊覧船も使えますしね。ふふふ」
イリューシュはそう言うと優しく笑った。




