第37話 ひろし、驚きを伝える
お昼すぎ、おじいさんは急いでG区画の家へとやってくると、予想外のメッセージをG区画のメンバーに伝えた。
「みなさん、頂上決戦の決勝が……、イークラトのチームが棄権したことで、わたしたちが優勝になってしまいました。それにイークラトのチームの方々からビデオメッセージが届いてまして」
おじいさんはそう言うと、メッセージをみんなに転送した。
メッセージを受信したみんなは早速ビデオメッセージを再生すると、笑顔のイークラトチームのメンバーの動画が再生された。
(ピンデチ代表のみなさん、こんにちは! 突然の試合棄権、どうか許してください。棄権の理由は、先日ピンデチで一緒に戦ったみなさんが今回の相手だと分かったからなんです)
ビデオメッセージをそこまで見たイリューシュは思わず声を漏らした。
「この方たちはピンデチで戦った時に加勢に来てくださったイークラトの方たちね……」
(あの日のピンデチ防衛で戦っていた皆さんとは、こんな試合ではなくて、もっと広大なフィールドで戦ってみたいと思いまして……。ですので、もし宜しければ、来週定期開催される「森の島バトル」で模擬戦をしませんか?)
それを聞いたおじいさんは首をかしげながら呟いた。
「森の……、島?」
(もちろん、ご都合が悪ければ無理にとは言いませんし、ご興味がなければ無視していただいて構いません。ですが、どうかご検討頂けると嬉しいです!)
するとイークラトのメンバーたちは両手に数々のアイテムを出現させて続けた。
(勝者アイテムはこちらです! もし、こちらが勝ってしまっても差し上げるつもりですし、もちろん、そちらの勝者アイテムは無しで大丈夫です! どうか、よろしくお願いします!)
イークラトのメンバーたちは笑顔で頭を下げると、動画はそこで停止した。
すると動画を見終えたアカネが感心したように言った。
「へぇぇ。イークラトの人たちって強そうだから鼻にかけてるのかと思ったら、こういう人たちも居るんだな」
それを聞いたイリューシュは笑顔でアカネに言った。
「この方たちは、先日のピンデチ防衛戦に協力してくださった方たちです。自分のセーブデータが消えるかもしれないと知りながらも助けに来てくださるくらいの方たちですからね。ふふふ」
「え、マジすか? って、そっか。動画の中でも言ってたっすね」
「ええ。イークラトには色々な人たちが居ますが、本当に強い方たちは謙虚な方が多いんですよ。どちらかと言うと、そこまで強くない方のほうが……」
「あ、わかる! 熊じぃが謙虚なのと同じっすね」
「ふふふ。本当にその通りですね」
「てか、イリューシュさん、さっき言ってた森の島の模擬戦って……」
「森の島の模擬戦イベントは定期的に開催されているバトルイベントで、森の島という島全体で模擬戦ができるんです」
「へぇぇ。模擬戦ってことは、やられても痛くないやつすか?」
「ええ、そうですね。それに対戦内容は単純明快で、先に敵の砦の中にある水晶を破壊したほうが勝ちです。そして通例ではお互いに自分のアイテムを勝者アイテムとして提示して、勝ったほうが手に入れる事ができます」
「え、水晶を破壊するだけなんすか? それに、相手はこっちのアイテムいらないって……」
「ええ、あちらからの名指しですものね。それと模擬戦自体は単純ですけれど、島全体が森ですから、潜伏や不意打ち、罠や待ち伏せ、死角からの魔法や情報操作まで色々な事ができますから油断はできませんよ。ふふふ」
するとそれを聞いたアカネは満面の笑みになっておじいさんに言った。
「じいちゃん、参加しようよ! めっちゃ面白そう!」
こうして、おじいさんたちはザ・フラウ頂上決戦を制し、さらにみんなで相談して「森の島」の模擬戦にも挑戦することにした。
◆
その頃、つむぎたちの畑では、つむぎたちが抱き合って喜んでいた。
「すごいすごい!!」
「うん芽が出たね!」
「上手くいったね!」
すると、つむぎたちの背後から突然、専務の大谷の声がした。
「ふむふむ。やはり20倍速くらいがプレイヤー様たちにも快適だろうか」
「きゃっ!」
「大谷さん」
「あ、はは」
つむぎたちが驚くと、大谷は深々と頭を下げて言った。
「つむぎさん、突然の訪問失礼しました。……しかし、つむぎさんたちの研究結果は、このVR世界に革命をもたらしました」
大谷はそこまで言うと、静かに両膝を折り、後光が差すようなコンパクトで美しい完全シンメトリの土下座をして続けた。
「この通り、我が社を代表してお礼をいたします!! つむぎさん、Chocoさん、ミッチさん!! みなさまの功績、大変感謝致します!!」
その様子を見たつむぎたちは慌てて大谷の腕を引き上げながら答えた。
「いえいえいえ、そんなそんな!」
「楽しくやっていただけですから」
「そ、そうですよ、大谷さん!!」
大谷はつむぎたちに引き上げられながらゆっくりと立ち上がると、また頭を下げながら言った。
「この研究結果は大変な可能性を秘めているのです。この世界に『収穫して調理』という概念が生まれるかもしれません」
しかし、つむぎたちは驚きながら声を漏らした。
「え、調理できなかったんだ……」
「うん……、知らなかったね……」
「わたしたち、てっきり……。ね」
すると大谷がつむぎたちに言った。
「もちろん、小麦粉やマヨネーズといったモノはありますから調理はできます。しかしその小麦粉やマヨネーズは小麦や卵から出来ているわけではなく、データとして作っています」
「そっか」
「だよね」
「確かに」
「ですから、だれが作っても手順さえ間違えなければ味に差が出ません。しかし! 土から作るとなれば話が変わります! 美味しい野菜を作る農家様、その野菜を最大限活かして調理する料理人様が誕生する可能性が出てくるのです!」
「「おおーーー!」」
すると大谷はつむぎたちの前にニワトリのホログラムを出現させて説明を始めた。
「私たちは現在、動物のタンパク質を再現するプロジェクトを進めています。このニワトリには乾燥させたトウモロコシを食べさせて卵を産ませたいのです」
それを聞いたつむぎはピンと来て大谷に言った。
「あ、だから大谷さんはトウモロコシの種もくれたんですね」
「はい、その通りです。この世界の設定で植物は20倍で成長するようにしました。5、6日で収穫できると思います」
「え、すごいですね! それならキャベツや他の野菜も5、6日くらいで収穫できるかもしれません」
「それはそれは、嬉しいです!」
すると大谷は突然、片手をヒラリと開くと、つむぎたちの畑の奥に建っていた少し大きめの家を指して言った。
「話は変わりますが、みなさまのご功績に我が社からプレゼントです。1階がガレージの3LDK一軒家と、3台の電動トラクターです。どうかお収めください。畑も拡張する予定ですので」
「「「ええーーーっ!!!」」」
なんとつむぎたちは、一軒家を手に入れたのだった。




