第34話 ひろし、戦闘準備
おじいさんたちが雪山にたどり着くと、イリューシュのグループ分けの通りにメンバーは別れて進むことになった。
黒ちゃんは、おじいさんたちのグループを先導しながらクエストの説明をした。
「雪男前はこの雪山の高度500mを超えると出現します。団体で行って雪男前が多数現れるのを避けるため、我々のグループは北東の方角へ進みます」
「「はい!」」
「では気をつけて進みましょう! こちらです!」
こうしておじいさんたちは黒ちゃんの先導で雪山を登ってゆき、騎士グループと魔法グループ、そして召喚グループも別々のルートで雪山を登り始めた。
◆
黒ちゃんとおじいさんたちは順調に雪山を登って行くと、その先に人影が見えてきた。
それを確認した黒ちゃんはみんなに言った。
「雪男前です。みなさん、戦闘準備を」
「「はい!」」
おじいさんたちは戦闘準備を整えると、雪男前はゆっくりとした足取りで近づいてきた。
そして、おじいさんたちの前に姿を見せると、アカネは笑いながら声を漏らした。
「ははは! やば! 筋肉バッキバキの男前じゃんか! ウケる、まじで雪男前!」
すると雪男前は少しだけ笑顔を漏らしてアカネに言った。
「おれは男前などとは思っていない。真の男前とは体を究極にまで仕上げ、技を謙虚に受け継ぎ、心に宿る誇りがこの上なく磨かれた者。残念ながら、おれはまだその領域には辿り着いていない」
それを聞いたアカネは思わず感動して答えた。
「おいおいおい! 君、なかなか良いことを言うじゃんか! 君みたいな人は嫌いじゃないよ!」
そして大熊笹や茂雄、おじいさんまでもが雪男前の発言にウンウンと頷くと、黒ちゃんが前に出て全員に言った。
「この通り、雪男前は謙虚で誇り高く、正々堂々と戦ってきますが、それだけではありません。ですが、まずは正攻法で戦いましょう」
「わかりました」
「はい」
「承知しました」
「おっけー!」
すると雪男前はおじいさんたちの前までやって来ると、突然両膝をついて頭を下げ、おじいさんたちに言った。
「宜しくお願い致します」
それを聞いたおじいさんたちも両膝をついて頭を下げ、雪男前に答えた。
「「宜しくお願い致します」」
そしてお互いに顔を上げて立ち上がると、戦闘態勢を取った。
◆
その頃、騎士グループも雪男前に遭遇していた。
こちらの雪男前は軽量な防具を装備したシンプルなブロードソードを持つ剣士で、騎士グループの近くへやってくると片膝をついて頭を下げた。
「此度の戦い、お互い悔いの残らぬよう戦いましょう。私の剣術などまだまだですが、宜しくお願い致します」
雪男前の挨拶に意表を突かれたマユたちは思わず同じように片膝をついて頭をさげた。
「宜しくお願いします!」
「おねがいします!」
「がんばります!」
アーボンと美咲も軽く頭をさげると、アーボンが小声で美咲に言った。
「あいつ、まじで正確に攻撃してくるし、後半はヤバいから苦手なんだよね……」
「気持ちは分かる。あいつの奥の手は面倒だからね」
「やっぱ美咲ちゃんも苦戦した?」
「うん。雪男前は何の変哲もないブロードソードで両手剣のスキルを使ってくる。さすがに最初は防戦一方になった」
「だよね……。でも勝てたんでしょ? いいなぁ」
「うん、最終的には。……ん? という事は、まさかアーボンさん……」
「……へへへ。ごめん、実はおれ雪男前倒してないんだよね……。だからスキル使えなくって……。ははは」
「ええっ!?」
「いやぁ、なんか成り行きでサポート的な感じになっちゃったんだけど、実はまだ倒してなくてさ……。ごめん美咲ちゃん!」
「そ、そうなのか……。まあでも聞いたところ、アーボンさんの攻撃力は6万超えだし、挑発の盾でタンクもできるみたいだから、サポートには充分だよ」
「いやぁ、そう言ってもらえると救われるよ。イザとなったら、おれをオトリにして放置プレイで良いからさ。ははは」
こうして騎士グループの戦いが始まろうとしていた。
◆
その頃、魔法グループの前にも雪男前が現れていた。
魔法グループの前に現れた雪男前はローブを着た魔法使いで、杖を持っていた。
そして雪男前は静かにローブのフードを上げると、片膝をついて挨拶をした。
「この度は宜しくお願い致します。私の魔法は拙いですが、皆様のお相手をさせて頂けることを光栄に思っております」
雪男前の挨拶を聞いためぐとメイ、そしておばあさんは思わず感動して声をあげた。
「うわ、ほんと男前かも。めっちゃ謙虚!」
「ね! やば!」
「あらあらあら、そんなにご丁寧に」
しかしサポート役のルルは雪男前を見下すように言った。
「へぇぇ。あなた、謙虚そうに見えてキモいわね。拙い魔法しかできないんでしょ? でも戦おうとするなんて、拙い魔法って言ってる魔法で戦えると自信があるんでしょ? ほんとキモいわ」
それを聞いた雪男前は表情を硬直させると、ルルは続けざまに言った。
「そうやって謙虚を装って近づいてきて、敵を陥れようなんて人たちは業界には腐るほど居るのよ。わたしはダマされないわ」
ルルはそう言うと、光の魔法の魔法陣を空に無数に展開した。
それを見た雪男前は思わず焦って声をあげた。
「ちっ! バレてたか!!」
それを聞いたおばあさんたちは正気に戻って戦闘態勢をとると、雪男前にルルの光の魔法が炸裂した。
◆
その頃、召喚グループはすでに雪男前との戦闘になっていた。
というのも、雪男前が現れた瞬間、何も聞かずにベンドレが雪男前を斬りつけたからだった。
マラツンはアタフタしながらベヒーモスで雪男前に雷撃を食らわせると、恐怖のあまり思わずベンドレに言った。
「ちょっ!! いきなり雪男前に攻撃するとか、作戦とかあるんすか!?」
「もちろん考えてのことだ。雪男前は謙虚を装って敵を信用させ、その隙を突いてくる。最初にダメージを与えれば、こちらが有利になる」
「なっ、なるほどっす!!!」
「雪男前は後半に正体を現すが、最初から正体を現せば手間が省ける。だから有無も言わさずに斬りつけた」
「了解っす! そうとは知らず済みません! 頑張るっす!!」
マラツンは突然の戦いに恐怖しながらも和代の軍神零式と共に雪男前にダメージを加えていった。




