第31話 ひろし、感動する
その日の午後、G区画の庭には、一瞬で成長したネバネバの樹を調査しに大谷とエンジニアチームがやって来ていた。
そして、すでに実っていた実と木の皮を剥ぎ取って調査をすると、つむぎたちやイリューシュにお礼の品を渡していった。
そして最後に大谷はつむぎたちに言った。
「つむぎさん、Chocoさん、ミッチさん。皆様の研究の成果は素晴らしすぎる。そして素晴らしすぎるが故に内密にして頂きたい。今回の結果は悪用されると非常に危険です」
「はい!」
「もちろんです!」
「はい、誰にも言いません」
すると大谷は柔和な笑顔を浮かべてプクナを送金した。
「これは私個人からのお礼です。みなさんの楽しみのために使って頂ければ幸いです」
大谷がそう言うと、プクナの送金を受け取ったつむぎたちは驚いて声をあげた。
「ええっ!?」
「50万プクナも!」
「良いんですか? こんなに!」
「もちろんです。それと、ピンデチふれあい苑の裏に日当たりの良い土地を確保致しました。こちらも耕作地としてお使いください」
「「「えええっっ!!!」」」
「つむぎさんは未成年ですので、土地の所有権はひろしさんで登録してあります。一度ひろしさんと一緒に行って頂いて権限を付与していただいてください」
こうして、つむぎたちは土地まで手に入れることが出来たのだった。
◆
大谷はイグラァ社に戻ると、即座にエンジニアチームと会議を開いた。
大谷は大画面に採取した実のデータを表示すると、エンジニアチームに説明を始めた。
「皆も見て分かると思う。この実の中には今までには無いデータが大量に含まれている。今からエンジニアチームは3交代制でデータの解析を開始する。やれそうかエンジニア部長」
「はい。現在、特に大きなイベントもありませんので、エンジニアの数は確保できています」
「そうか。では会議のあと、すぐに始めてくれ。この新しく生まれたデータは酵母のように働くかもしれない。もしそうであれば、VR世界で世界初の快挙だ」
「はい。大谷専務の夢は、現実世界を完全再現した上でのファンタジー。その悲願が達成できるかもしれませんね」
「うむ……。今までVR世界では植物の成長と生き物のタンパク質のデータ化が大きな課題だった。しかし、植物の成長をこのレベルで再現できれば、他社を大きく引き離す事ができる」
「そうですね。そうすれば、生き物のタンパク質のデータ化に力を入れる事ができます」
「その通り。生き物のタンパク質のデータ化にも成功すれば、プレイヤー様たちに最高の環境とリアリティを提供することができる!」
「はい。それができれば、無限の可能性が見えてきます」
「ああ、その通りだ! まさにプレイヤー様たちが無限の可能性を楽しむ世界が完成するのだ!! そして我らが作り出した美しく洗練された最高のVR世界は伝説となる!! ふははははは!!」
大谷は不気味に笑った。
◆
その頃、おじいさんと孫のつむぎたちはピンデチふれあい苑の裏にある土地に来ていた。
おじいさんはイリューシュに教わった通りに土地の端にある端末を操作して、つむぎたちに土地に入る権限を付与すると、つむぎたちは大喜びで日当たりの良い土地に走り込んだ。
「うわーー! すごいね!!」
「うん! こんなに広い土地」
「これでもっと研究できるね」
おじいさんは権限付与して端末を離れようとすると、端末の画面に「こちらはピンデチふれあい苑の敷地になります。ピンデチふれあい苑の利用者様にも権限を付与してもよろしいでしょうか」と表示された。
それを見たおじいさんは、つむぎに尋ねた。
「つむぎちゃん、この土地はピンデチふれあい苑の土地みたいで、この施設を使う人たちにも権限を与えても良いかどうかを聞かれているのだけれども、良いかな?」
「うん、もちろんだよ! だって、使わせてもらってるんだもん」
「ああ、わかった。じゃあ、そうしておくね、つむぎちゃん」
「うん!」
おじいさんはピンデチふれあい苑の方々の権限を承諾した。
するとChocoは大谷からもらった50万プクナで購入した手押し耕運機とパワーグローブ(装着すると腕力が増すアイテム)を装備して、さっそく嬉しそうに土地を耕していった。
ミッチは大谷から貰ったプクナで購入した作業小屋を土地の隅に設置すると、つむぎも大谷から貰ったプクナで購入した農具一式を出現させて作業小屋の中に並べていった。
その様子を見ていたおじいさんは、少し気になってつむぎに尋ねた。
「つむぎちゃん、たくさん買ったね」
「うん! 大谷さんが50万プクナもくれたから」
「でも、良いのかい? 大谷さんは楽しみのために使ってくださいって……」
「だって、これが楽しみだもん。この世界で美味しいキャベツと小麦を作ってね、ひろじいちゃんに美味しいお好み焼きを作ってもらうんだ。へへへ」
その言葉を聞いたおじいさんは思わす感動して、目頭が熱くなった。
「つむぎちゃん……」
すると、つむぎは笑顔でおじいさんに言った。
「だって、ひろじいちゃんは現実世界だと遠いから会えないでしょ? でも、この世界だったら、ひろじいちゃんのお好み焼きが食べられるかもって思って、美味しい野菜の研究を始めたの」
「そ、そうなのかい……?」
「うん! わたし、ひろじいちゃんのお好み焼き大好きだから!」
「……つ、……つむぎちゃん」
おじいさんは思わず目に涙を溜めると、つむぎは少し恥ずかしそうにおじいさんに言った。
「でもね、Chocoとミッチは反対でね、遠くに住んでるおじいちゃんとおばあちゃんにVR世界で美味しい手料理を食べさせてあげたいんだって。へへへ……、わたしだけ食いしん坊でごめんね」
しかしそれを聞いたおじいさんは優しくつむぎを抱きしめて言った。
「ありがとう、つむぎちゃん。本当に嬉しいよ。絶対に美味しいお好み焼きを作るからね」
「うん。私も美味しい野菜を頑張るね」
「あぁ、ありがとうね……」
おじいさんは、思わず涙を流した。
◆
その日の夜、ナミの提案でおじいさんはアーボンの家にやって来ていた。
そして1階の居間に全員が集まると、ナミは腕を組みながらみんなに言った。
「ぁした、ひろしさんと一緒にマラツンたちとイークラトにぃく」
「「ええっ!?」」
アーボンとハデス、そしてマラツンたちは驚いたが、ナミは動じずに続けた。
「ひろしさんは、サイクロプスの素材がぁると今後べんり。マラツンたちは鍛冶屋を解放したから、レッド・ドラゴンの防具をつくりたぃ」
しかしアーボンは驚きながらナミに尋ねた。
「ってか、ナミちゃん。ナミちゃんってイークラトあたりのモンスター、大丈夫そう?」
「ぅん。みんなに内緒だけどメインクエスト終わらせてる。弓スキルもけっこぅ持ってる」
「え!? まじか!」
「でも、なぃしょ」
「お、おう。わかった」
「けど、アーボンとタケチとハデスにも手伝ってほしぃ。ぃい?」
「そりゃ、もちろんOKだよ。なぁ、タケチ、ハデス」
「もちろんです!」
「はい。私が助けられた御恩は一生をもっても返しきれませんので」
こうして、おじいさんとマラツンたちはイークラトの街へと行く事になった。




