第25話 ひろし仏
ピンポーン
アーボンの家のチャイムが鳴ると、ちょうど玄関の近くでアイテム欄にあったガラクタを出して整理していたアーボンが玄関を開けた。
「はーい! どちら様で?」
アーボンが玄関を開けると、おじいさんが立っていた。
「あ、ひろしさん。どうしました?」
すると、おじいさんは頭を下げながらアーボンに言った。
「アーボンさん。先日のアパタイト、大変助かりました。なんでも、つむぎちゃんたちの研究が社長さんに認められて支援を受けられる事になりまして、その御礼にとお伺いしたのですが……」
「え? マジすか? それは良かったです! ひろしさんのお孫さんが支援を受けられるなんて、おれも嬉しいですよ。それにお礼なんて言わないでください。おれは、ひろしさんにお世話になってるんで。ははは」
アーボンがそう言うと、おじいさんは申し訳なさそうにアーボンに言った。
「いえいえ、わたしは何も……。ですが、何かお礼にアーボンさんのお手伝いが出来ないかと思いまして来たのですが、何かお困りごとはありませんか?」
「困り事……? ううん……。困りごと……」
するとアーボンはふと思い出して、おじいさんに言った。
「あ! ウチのメンバーたちが、例の過去を見透かす白ヘビのダンジョンで散々言われて落ち込んでるんですけど、年長者のご意見を頂けたら嬉しいな、と……」
こうして、おじいさんはマラツンたちの悩みを聞くことになった。
◆
おじいさんは居間でマラツンたちと一緒に座ると、即座にマラツンがおじいさんに言った。
「ひ、ひろしさん! おれは……、おれは、ゲームが下手なのに強がって上手いふりをして、たくさんウソをついてきたんです! それを見せられたら恥ずかしくて、恥ずかしくて!!」
しかし、その言葉を聞いたおじいさんは柔和な笑顔で答えた。
「そうですか……。ですが、マラツンさん。ウソをついてしまった事は良くありませんが、怖かったからウソをついたのではありませんか?」
それを聞いたマラツンは突然大粒の涙を流すと、静かに答えた。
「はい……。その通りです。ゲームが下手なのが格好悪くて……、それがバレるのが怖くて……」
「そうでしたか。ですが、わたしもゲームが下手で格好悪いです。お友だちの助けが無ければ、すぐに死んでしまうはずですから。ははは」
おじいさんの言葉にマラツンが驚くと、アーボンがマラツンに言った。
「ひろしさんは無職でな、ステータスは攻撃力に全振りで、防御力は防具に依存してる。それに遠距離攻撃しかできないから、1人ならソッコーでやられるステータスなんだ」
「「「ええっ!?」」」
マラツンたちが驚くと、アーボンは笑いながらマラツンたちに言った。
「まぁ、大熊笹さんとか茂雄さんとか、ステータスとは無関係の実力でチート級の人たちも居るんだけど、ひろしさんはステータスとか、そんな事じゃないんだよ」
「「「……」」」
アーボンがそう言うと、マラツンたちは目を伏せて考え込んだ。
するとアーボンは突然胸を張って格好をつけると、マラツンたちに言った。
「おれはな。ひろしさんから、とてつもない最強奥義を学んだ。聞きたいか?」
それを聞いたマラツンたちは目を輝かせながら答えた。
「「「はいっ!!!!」」」
アーボンはマラツンたちの返事を聞くと、キメ台詞のように言い放った。
「謙虚!! そう、その答えは謙虚だっ!!!」
「「「……!!!」」」
マラツンたちがアーボンの言葉に驚くと、アーボンは畳み掛けるように言った。
「いいか!? ひろしさんはこのVRゲームの世界で、この世界を救うほどの恐ろしい功績をあげている! しかし、ひろしさんは自慢のひとつもしない!! それを謙虚と言わずになんと言う!?」
「「「なるほど!!」」」
「だから、おれは悟った! 謙虚に生きることこそ、本物の実力者なのだとっ!! そして過去の恥など、反面教師として謙虚になるための通過点なのだと!!」
アーボンはそう言って拳を突き上げると、マラツンたちとタケチは涙を流しながら同意した。
「た、確かにそうっすね!!」
「ひろしさんほどの人が……」
「ぼくらも頑張らないと!!」
「謙虚! あぁ、素晴らしい」
「はい! 素晴らしい響き!」
すると、おじいさんは少し恥ずかしそうにアーボンたちに言った。
「いえいえ……。わたしが謙虚だなんて……。わたしも若い頃は自分のことばかり考えて恥ずかしい事をしていましたから」
「「「ええっ!?」」」
おじいさんの言葉にアーボンたちが驚くと、おじいさんは少し恥ずかしそうに続けた。
「わたしは高校生の頃、野球部でピッチャーをしてまして甲子園の決勝まで行けたのです。その頃はお恥ずかしい事に、自分の力で野球部を引っ張っているだなんて思っていました」
おじいさんはそう言って頭を掻くと笑顔になって続けた。
「ですが、決勝戦で相手のピッチャーに投げ負けまして敗北してしまったのです」
それを聞いたアーボンたちは何も言えずに黙ってしまうと、おじいさんは頭を掻きながら笑顔で続けた。
「はははは。その時は絶望しました。ですがその時、自分が野球部を引っ張っていただなんて傲慢だったと気付かされました。そして集まってきてくれた部員のメンバーに心から謝りました」
おじいさんの言葉を聞いたアーボンは涙でグチャグチャになった顔でおじいさんに言った。
「ひろしさん! やっぱり、ひろしさんは謙虚の塊だよ! それに対しておれは恥ずかしい! 現実世界じゃお金はあったけど人としては底辺の底辺で! おれに近づいてくる奴らはみんな金目当てで!」
しかし、おじいさんは柔和な笑顔でアーボンに言った。
「いえいえいえ、アーボンさんはお金を稼げたのですから、お金を稼げなかったわたしのほうが底辺です。アーボンさんは素晴らしい才能をお持ちですね。ははは」
それを聞いたアーボンとマラツンと後輩、そしてタケチは後光が差すような土下座を決めると、仏像を拝むかのようにおじいさんに手を合わせた。




