第20話 ひろし、霧を作る
営業部長はG区画の家へとたどり着くと、玄関に手を当てて呟いた。
「こっちはデバッグモードだ。権限は無視で入れるからな。はははは!」
営業部長はG区画の玄関を開けて中に入ると、薄暗い中、アーボンとたけち、そしてマラツンと後輩のツックン、マムシ、サソリたちがお菓子を食べていた。
アーボンは営業部長に気づくと、わざとらしく尋ねた。
「あれ? どちら様ですか?」
すると営業部長は苛立ちながら答えた。
「ああ? 馬鹿にしてんのか? こっちは、お前らが邪魔したって知ってんだよ! とりあえず死ね!」
営業部長はそう言うと、大司教の最高魔法、ウィンドブッチャーをアーボンたちに向けて放った。
しかしその瞬間、なんとアーボンから無数のウィンドブッチャーが飛び出し、営業部長の放ったウィンドブッチャーにぶつかっていった。
ズババババババババ!!
そして営業部長のウィンドブッチャーを全て相殺すると、それに驚いた営業部長は顔面を硬直させながらアーボンに言った。
「お、お前は、大司教なのか!? 私の魔法攻撃力は10万だぞ!? まさかお前も……」
するとアーボンはニヤリと笑って答えた。
「さぁ、どうだかなぁ……」
もちろんアーボンが放ったように見えたウィンドブッチャーは、後ろのキッチンの陰からメイとゴーストが放ったウィンドブッチャーだった。
「やば! わたしのウィンドブッチャー、めっちゃアーボンさんに当たっちゃったんだけど!」
「ですがアーボンさん、なんとか持ちこたえましたね……、ははは」
実はこの時アーボンは、メイのウィンドブッチャーをノーガードで背後から食らって瀕死の重傷だった。
すると今度はマラツンが立ち上がって営業部長に言った。
「今度はおれの番っすねぇ。ふっふっふ」
マラツンもニヤリと笑うと、ベヒーモスを召喚して腕を組んだ。
しかしそれを見た営業部長は大笑いしながらマラツンに言った。
「はぁ!? 何かと思えばベヒーモスじゃねぇか!! そんなの召喚して、なに息巻いてんだよ!! 雑魚が!!」
営業部長がそう言った瞬間、なんと営業部長の頭上に光の魔法の魔法陣が無数に展開され、光の矢が降り注いだ。
「ぎゃぁぁああ! そんな馬鹿な!! ベヒーモスが光の魔法を!?」
営業部長は慌てて防御魔法陣を展開して光の魔法をやり過ごすと、裏でルルが笑いながら呟いた。
「うふふふふ、最高のドッキリね。ウケるわ」
すると今度はマラツンの後輩のマムシが人差し指を立てると、突然家の中に霧がたちこめた。
その霧は大広間に接している和室でアカネとめぐとおじいさんがドライアイスを水に溶かしながら、ララガのお母さんとララ助が尻尾であおいで大広間へと霧を送っていた。
マムシは不敵な笑みを浮かべながポーズを決めると、勢いよく営業部長に言った。
「この指をあなたに向ければ、霧の中から無慈悲な矢が降り注ぐだろう!」
しかしそれを聞いた営業部長はニヤリと笑って答えた。
「はぁ!? このゲームにはそんな設定なんてねぇっつうの!! ハッタリかますんじゃ……」
その瞬間、
ドドドッ!
ズドドドドドドド!!
ズドンッ!!
ナミが放った3本の矢と、イリューシュが放ったオロチの矢、ついでにヴァルキリーの槍が営業部長に刺さった。
「……へ?」
営業部長はHPを大きく削られて怯むと、今度はマラツンの後輩で槍使いのツックンが立ち上がって営業部長に言った。
「僕の槍は、ここで一振りすれば、あなたに届かなくても吹き飛びます」
それを聞いた営業部長はさすがに呆れて大声をあげた。
「そんなわけねぇだろ! このゲームはそんな設定が……」
しかしその瞬間、営業部長の体は宙を舞っていた。
「ば、ばかな!!」
ドシャッ!
そして床に叩きつけられると、嬉しそうに笑顔を見せながらアカネが和室に戻ってきた。
そして和室の奥に入ると、めぐとおじいさんに小声で言った。
「ははは! あのおっちゃん、あたしが投げたの全然気づいてなかったよ。はははは!」
営業部長は何が起きているのか分からずキョロキョロとしていると、マラツンの後輩で剣士のサソリが立ち上がって剣を抜き、営業部長に言った。
「もう終わりにしましょう。僕が剣を振れば、無数の剣があなたを突き刺すでしょう」
しかし、それを聞いた営業部長はニヤリと笑って答えた。
「ふっ……。ナメられたもんだな。私の防御力は10万。剣の攻撃など、相当なプレイヤーが何人かで斬り掛かって来なければ、やられねぇよ!」
営業部長がそう言った頃、霧に隠れながらアーボンとベンドレ、マユと美咲、そして黒ちゃんも両手剣を持って営業部長の近くまで来て待機していた。
営業部長は大司教の杖を掲げると、サソリにウィンドブッチャーを繰り出そうとした。
しかしそれより前にサソリが剣を振り下ろすと、それを合図に一斉にアーボンたちは営業部長の体を突き刺した。
ズドッ!
ドスッ!
ドッ!
スッ!
ズバッ!
そしてアーボンたちは素早く身を引いて隠れると、営業部長は何が起きたが分からず、混乱しながら狼狽した。
「な! なんだ! なぜHPが瀕死に!? 本当に無数の剣で刺されたぞ!! 何が起きたんだ!!」
するとそこへ大谷が現れて営業部長に言った。
「営業部長……。やってくれたな」
突然現れた大谷に、営業部長は驚愕の表情を浮かべた。
「ひっ! ひぃぃいいい!!!」
営業部長は急いでログアウトしようとしたが、それよりも早く大谷の刀が営業部長の首を刎ねた。
パンッ!!
「ぎゃっ! い、いやだ! 痛いのは……、痛いのはいや……、だ……」
シュゥゥゥウウ……
営業部長は消滅していった。
◆
営業部長が消滅すると、大谷は直角に頭を下げながらみんなに言った。
「先日に引き続き、この度のご協力、大変感謝致します! つきましては、皆様にプレミアム・ガチャ券と、国産ブランド和牛の食べ比べセットを差し上げたいと存じます!!」
大谷はこの場にいた全員にプレミアム・ガチャ券を送信すると、テーブルの上にたくさんの牛肉を出現させた。
家にいたみんなはそれを見ると大歓声をあげた。
「「「おおおぉぉぉおおおお!!!」」」
◆
こうしてパーティは日が暮れるまで行われ、1人、また1人とログアウトしていくと、茂雄と白たんを残してG区画の家には誰もいなくなった。
白たんは茂雄に挨拶してララガとタッちゃんたちの所へ行くと、茂雄は庭に出てロッキングチェアに腰を下ろした。
「ああ、なんて幸せな日々なのだろうか。ヨシ子、もう少しそちらへ行くのが遅くなりそうだ。すまないね」
茂雄はそう言うと、ロッキングチェアで笑顔のまま眠りについた。




