第19話 大谷、完璧なシンメトリ
ヴァルキリーとナミが大広間へ行くと、奥のキッチンから沢山の刺身盛りと切り身を持った黒ちゃんと白たんが現れた。
それを見たアカネは驚きながら声をあげた。
「ええっ!! なになに!? 今日、なんかのパーティ!?」
それを聞いた黒ちゃんは笑いながら答えた。
「はっはっは! サプライズ・パーティなのだ。実は一昨日、ナミさんが大物のマグロを釣ってきてくれてな。ナミさんが、みんなにヴァルキリーさんを紹介しながら振る舞いたいから捌いてくれと頼まれたのだ」
それを聞いたヴァルキリーは驚きながらナミに尋ねた。
「ナミさん、本当? 私のために?」
「ぅん。バルキリちゃんはぉ友だち。だから、たいせつなぉ友だちともぉ友だち、紹介したかった」
「ナミさん……」
するとその時、庭のほうから声がした。
「おーい、ナミー! お昼休みに来たよー!」
声の主はスマイル道具店のメンバーと、ベンドレとルル、そしてゴーストだった。
さらに玄関からアーボンとたけち、そしてマラツンたちが両手一杯にドラゴン大福や溶岩ようかんなど、沢山のお菓子を持って現れた。
「スイーツ担当、アーボン・チーム参上!! たっくさんお菓子を持ってきたぜ!」
「「「おぉぉーーー!!!」」」
パチパチパチパチ!!
その場にいたみんなが一斉に笑顔になって拍手をすると、その様子を見たマラツンが後輩たちに言った。
「な……、なんか喜んでもらえるって嬉しいな。朝からあちこち駆けずり回ってお菓子集めた甲斐があるぜ」
「は、はい……。なんか、人の役に立ったっていうか」
「そうっすね……。なんすかね、この温かい感じ……」
こうしてヴァールキリーの紹介パーティが始まった。
◆
全員が大広間の席とソファ、そして大広間を見渡せるおじいさんの和室に腰を下ろすと、ナミはみんなの前でヴァルキリーを紹介した。
「この娘はバルキリちゃん。マグロの場所をぉしえてくれる。ね」
ナミがそう言うと、ヴァルキリーは笑顔で頷いた。
「うん!」
するとナミも笑顔になってみんなに言った。
「バルキリちゃんは、いつも助けてくれる。だから、みんなと仲良くしてほしぃ。ぉねがぃします」
ナミが頭を下げると、そこにいた全員は「マグロの場所を教えてくれるのよりも、ヴァルキリーの強さのほうを紹介するべきでは……?」と思いながらも黙って拍手した。
パチパチパチパチ!
するとアーボンが立ち上がってみんなに言った。
「おっし! ヴァルキリーちゃんの紹介も終わった事だし、乾杯しようぜ! ここは家主のイリューシュさんにお願いで良いよな!!」
パチパチパチパチ!!
アーボンの声にみんなが拍手すると、イリューシュは少し恥ずかしそうに立ち上がってグラスを片手に取った。
「では、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます。……新しい友人、ヴェルキリーさんに……、乾杯!!」
イリューシュはそう言ってグラスを掲げると、みんなも一斉に声をあげた。
「「「かんぱーーい!」」」
みんなは乾杯すると一斉に刺身やお菓子、それにスマイル道具店が持ち寄ったケーキ、ルルが持ってきた爆弾シュークリームを食べ始めた。
そして代わる代わるヴァルキリーに挨拶をしていった。
◆
その頃、不正なハッキングでゲームをめちゃくちゃにしようとした営業部長は、大谷から正式な被害届を受けた警察によって取調べを受けていた。
「……なるほど。では全てのハッキングを認めるんだな」
「……はい」
「分かった。まずは不正アクセス禁止法違反で逮捕。そして、その後は会社から民事訴訟を受ける流れになると思う。まぁ、実刑にはならないと思うけど、お金は覚悟しておいたほうがいいな」
「……そうですね」
「それにしても、君は任意の取り調べで正直に話してくれたからな。こちらとしても助かった。逃亡の恐れなしとして帰宅を許そう」
「ありがとうございます」
こうして営業部長は釈放された。
◆
営業部長は帰宅すると、玄関を閉めるなり大声で叫んだ。
「くそぅうう!! なんで私が!! あいつらのせいだ!! ピンデチのあいつらのせいだ!!」
営業部長はおじいさんたち、ピンデチを守ったプレイヤーたちを逆恨みした。
そして怒りに任せてパソコンを起動させると、顔を歪ませて呟いた。
「……もう、いいや。へへへ……。ここまで来たら、機密データ持ち出して外資のVRゲーム会社に移籍するしかねぇ」
営業部長は起動したパソコンを見つめると、かすれた声を漏らした。
「だが、その前に……、あのピンデチのヤツらだけは許せねぇ……」
営業部長はザ・フラウを起動させると、部長以上の者が使えるデバッグモードでログインした。
「なんだよぉ……、デバッグモードだったらログインできちゃうじゃんか……。これでピンデチのヤツらボコボコにしてやるよぉ……。大谷よぉ……、脇が甘いんじゃねぇのかぁ?」
営業部長はゲームの制限にとらわれないデバッグモードでログインした。
◆
営業部長は大司教の姿でピンデチに出現すると、苛立ちを顕にしながら呟いた。
「ちっ! 最大強化してもこんなもんかよ! デバッグモードだぞ? もっとチートできてもいいだろ!」
しかし、営業部長は冷静になって声を漏らした。
「まぁ……、魔法攻撃力が10万もあればいいか。ははは、どうせ仕返しが終わったら、また逮捕だろうしな。ははは。ははははは!」
営業部長は不気味に笑うと、不正に入手した位置情報を頼りにG区画の家へと向かった。
◆
その頃、G区画の家のみんながパーティで盛り上がっていると、突然専務の大谷が玄関を開けて挨拶をした。
「みなさん、こんにちは。申し訳ございません、少々お時間を頂きたいのですが」
大谷の言葉に全員が一斉に大谷を見ると、大谷の真剣な表情を察したイリューシュが大谷に尋ねた。
「こんにちは、大谷さん。どうなされましたか?」
「じつは先日のバグを起こした張本人がピンデチに出現したのです。それもデバッグモードで。そしてこのG区画の家へと向かっています。おそらく仕返しかと……」
「ええっ!?」
すると、それを聞いていたアカネが元気よく右手を挙げてイリューシュに尋ねた。
「はい、はーい!!」
「え? あ、はい、アカネさん」
「あのー、デバッグモードってなんすか?」
「はい、デバッグモードは主にゲームのバグを探したりするためのモードで、ステータスを自由に動かせたり、メインクエストをスキップできたりするモードなんです」
「えっ? じゃ、ステータスがヤバいヤツが、あたしたちに仕返しに来たの?」
アカネがそう言うと、大谷がアカネに説明した。
「おそらく。しかし、このゲーム自体にステータスの制限があるので、その制限は越えられません。ですが、安全地帯のこの場所でも攻撃が出来てしまいます」
「なんだ、じゃあこんなに強い人たち居るし、返り討ちにしてやろうよ!」
「実は、ご協力いただけないか思い僭越ながらお願いに参りました。通常、このエリアでは戦闘は出来ませんが、先程この家の敷地内での戦闘を解除しました。どうか! どうか、ご協力頂けませんでしょうかっ!」
大谷はそう言うと突然、神々しくも美しい土下座を決めた。
その姿を見たアーボンは恐れ慄きながらも興奮して思わず声をあげた。
「こ……、この土下座……、10回や20回の土下座では得られない土下座の境地!! コンパクトで完璧なシンメトリのシルエット!! さらに鼻先まで額を擦り付けるその覚悟!! これは本物だ!!」
アーボンはそう言うと走り出して飛び出し、なんと大谷と並ぶように美しい土下座を決めて言った。
「イリューシュさん! この人の覚悟は本物です! どうか助けてあげてください!!」
こうして、G区画にいたみんなは営業部長と戦うことになった。




