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第13話 黒ちゃん、舞う

 その頃、夕食から戻ったおじいさんたちと交代したマサたちが、おばあさんたちのチームにやってきた。


「あ、お疲れ様です。夕飯の交代に来ました」


 すると、そこにはゴーストの授業を熱心に受けているおばあさんたちが居た。


「あ、あれ?」


 マサは少し驚きながら近づいていくと、ゴーストの質問にメイが答えていた。


「あ、それってベルちゃんの定理(ベルヌーイの定理)だ! じゃあ、大司教の杖で空気が移動できる範囲を途中から狭くしたら、負圧が出来るんだよね!?」


「はい、その通り! メイさん大正解!」


「まじで!? じゃあ、杖で空気が移動できる範囲をめっちゃ狭くしたら、やばくない?」


「すばらしい! 杖で強力な負圧を発生させて振り回せば、巻き上げられた空気や砂粒が乱気流によって回転し、無数の(やいば)として敵に飛んでいくのです」


「やば、わかった! ウケる!」


 メイがそう言うと、おばあさんたちも笑顔でウンウンと頷いた。


 すると、おばあさんたちもゴーストに質問し始めた。


「あら、じゃあ杖によって流速を制限できる範囲が違うのかしら」

「だよね。わたしもそう思った」

「そうか」


「はい。強力な負圧を生むことができる杖ほど扱いづらいので、杖の選択が重要になります」


 ナミも興味を示しながら質問した。


「それってパスカルの原理に、にてる?」


「そうですね。しかし、空気は圧縮されるので油や水を対象とした数式では表せませんが、概念は似ています」


「ぉもしろぃ。じゃあ、空気の制限の差で圧縮させて加速させたら……」


「はい。お察しの通りです」


 マサはみんなの質問がチョット良くわからない感じだったが、満面の笑顔でおばあさんたちに言った。


「あ、えっと、すんません、翠さんの仲間のマサっす! 夕飯の交代に来ました」


 マサの言葉に気づいたゴーストは驚きながらマサに言った。


「お、おお。翠さんのお仲間で」


「え、ああ、うん。なんか勉強してたから言いづらくって。はは」


「すみません、授業はキリが良いので終わりにしますので。ははは」


 ゴーストはそう言うとホワイトボードを仕舞った。


 こうして、おばあさんたちも一度ログアウトして夕飯をとることにした。


 ー マガイルー ー


 メイは夕飯を食べたいほどお腹が空いていなかったので、大司教のゴーストとマガイルーの魔法学校に来ていた。


「ゴーストさん、ほんとにわたし合格するかなぁ」


「大丈夫ですメイさん。あれだけ出来れば問題ないはずです。しかしメイさんが理数系が得意だと思ってもみませんでした」


「理数系? わたしが? それは無いよゴーストさん。ははは!」


 コン!

「おっふ」


 メイはゴーストの脇腹を小突くと、ゴーストは少し照れながら変な声を出した。


「ゴーストさん、じゃあ行ってくるね!」


 メイは笑顔で手を振って走り出すと、建物の奥にある試験会場へと向かった。


 ◆


 その頃、ピンデチの入り口近くのフィールドでは、黒ちゃんがルルから新体操を習っていた。


「はい! いいわよ黒ちゃん!」


「ありがとうございます!」


「そう! そのまま回転!」


「あ、はい!」


「ちがーうう!!」


「はっ!! ご、ごめんなさい!!」


 黒ちゃんは両足を揃えて女の子座りをしながらガクリと頭を下げた。


「もうっ、黒ちゃんは動きが雑なのよ」


「雑……」


「いい!? 新体操のクラブは優雅で繊細、そして高速に振るの」


「はいっ!」


「こうよ! やってみて」


「は、はいっ!」


 ブンブンブン!


 黒ちゃんは華麗にステップを踏みながら回転すると、モーニング・スターを美しく回転させた。


 それを見たルルは満足そうに言った。


「そう! それよ黒ちゃん!」


「あ、ありがとうございます!」


「じゃ、もう一回やるわよ!」


「はいっ!」


 黒ちゃんは一度足を止めて元の位置に戻ると、両手にモーニング・スターを持ちながら再び華麗にステップを踏み始めた。


 その様子を見ていたベンドレとロビたちは少し心配そうにしながら話した。


「ベンドレさん、黒ちゃんさん大丈夫でしょうか……」

「うむ。しかしルルが……」

「……えっと」


「……でもいいかも」


 2人の(そば)にいたゆぅがルルと黒ちゃんの動きを肯定すると、ベンドレは驚いてゆぅに尋ねた。


「ゆぅさん、それはどういう……」


「ええと、黒ちゃんさんは今まで()ける(こと)をしませんでした。なので、新体操のステップで動き回れば……」


「おお、それは一理ありますね! 良く見れば、黒ちゃんさんはルルを中心に上手くステップを踏んでいます」


「はい。僕はステップで敵の攻撃を()けながら盾と剣で攻撃します。ルルさんはもしかしたら黒ちゃんさんを、そう動かしたいのかも」


 ゆぅがそう言った瞬間、なんと空に無数の魔法陣が出現した。


 そしてルルは両手を挙げると、黒ちゃんに笑いながら言った。


「これが最終試験よ! 光の矢を()けながら、わたしにモーニングスターを当てなさい!」


「はっ! 承知しました、ルル先生!」


 黒ちゃんが返事をすると、ルルは光の矢を一気に降らせた。


 ズドドドドドドドドドド!!


 するとその時、黒ちゃんの頭の中にはショパンの軽快なピアノ・ワルツ『子犬のワルツ』が流れた。


 黒ちゃんは、その軽快なリズムに合わせてステップを踏むと、華麗に光の矢を避けながら美しく舞った。


 ルルはニヤリと笑って黒ちゃんを見ると、毒ナイフと痺れナイフを同時に黒ちゃんへ放った。


 シュッ、シュッ!


 しかし黒ちゃんは回転しながらモーニング・スターで弾き返すと、力強く、そして美しくジャンプした。


 そして鋭くルルとの間合いを詰めると、華麗にモーニング・スターを回転させてルルに迫った。


 ルルはニヤリと笑うと隠し持っていた痺れ粉と毒の粉を投げつけた。


「これはどうかしら!?」


 バフッ!


 しかし、黒ちゃんは身をかがめるようにして大きく横へステップすると、痺れ粉と毒の粉をかわし、一瞬にして背後へ回った。


 ルルは予想以上に素早い動きをした黒ちゃんに驚くと、慌てて(かかと)で足を踏み鳴らして、氷の壁を作りだした。


 しかし黒ちゃんは力強く飛び上がると、一気に氷の壁を飛び越えて、ルルの頭上からモーニング・スターを振り下ろした。


 ルルはその攻撃をバク転で華麗によけると、黒ちゃんに指を差しながら着地して言った。


「合格よ! いい攻撃だったわ!」


 黒ちゃんはその言葉に攻撃の手を止めると、感動のあまり直立したまま涙を流した。


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