第102話 洋子、転生受付所を見つける
おばあさんが三途の河原にやってきてから暫く過ぎ、おばあさんはこの場所に様々な人や動物、さらには妖怪と思われる者までが居ることに気づいた。
「ねぇ猫ちゃん。この場所には色々な人たちがいるのね」
「そのようですね。まさか黄泉の国の入口がこのような事になっていようとは……」
するとその時、おばあさんが少し遠くに金棒を持った鬼のような人物を見つけて思わず立ち上がった。
「あっ!」
それに気づいた黒猫も立ち上がっておばあさんに尋ねた。
「どういたしましたか洋子殿」
「あれはきっと鬼ね。それに、近くで石を積んでいる子どもたちが居るわ」
「洋子殿、それはもしや賽の河原の物語でしょうか……」
「ええ。子供のうちに死んでしまうと親孝行が出来なかったからって、罰として石を積ませるの。それなのに鬼は石を壊すのよ」
「……はい、そのようですね」
「おかしいわよね、そんなの。子供たちだって死にたくって死んでしまったわけではないのに。もうっ! ちょっと鬼に言ってやらないと!」
おばあさんは少し厳しい表情になると、鬼たちのほうへ歩き出した。
「洋子殿!」
黒猫は慌てておばあさんを追いかけたが、おばあさんはどんどん早歩きで鬼たちに近づいていった。
ザッザッザッザッザッザッ
そしてとうとう鬼たちの前に出ると、両手を腰に当てて鬼たちに言った。
「あなたたち、子供たちが積んだ石を壊す鬼ね?」
おばあさんの言葉に鬼たちは驚きながら口々に答えた。
「あ、いや、壊すんですけど……」
「ルールっていうか……」
それを聞いたおばあさんは険しい表情になって鬼たちを問い詰めようとしたが、突然うしろから子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「10コ積んだー!」
「あたしも!」
「ぼくもぼくも!」
おばあさんが振り向くと、石を積んだ子供たちが嬉しそうに飛び跳ねていた。
「えっ!?」
おばあさんが驚いていると、鬼の1人が少し困った顔でおばあさんに説明をした。
「ええと、実は子供たちとゲームをしてまして。おれたちが石を壊す前に10コ石を積んだらお菓子をあげるルールで……」
「ええっ? お菓子を?」
「ええ、はい」
すると次々と子供たちの声が聞こえてきた。
「ぼくも積んだ!」
「あたしだって」
「ぼくも……」
子供たちの声に鬼たちは笑顔になると、首からかけている小さな巾着袋からマカロンを取り出して子供たちに渡していった。
「はい、じゃあマカロンな」
「ありがとー!」
「やった!」
「はやく次やろう!」
おばあさんが驚いていると鬼の1人がおばあさんに説明をはじめた。
「この河原は日本の人たちが来る河原なんですが、日本の子供たちは命を落とす事が少ないんで最近は渡し船も1日1回しか出ないんですよ」
鬼は三途の川を指差すと話を続けた。
「それで、子供たちを河原で待たせてると退屈しちゃうんでゲームしてるんです」
それを聞いたおばあさんは少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら答えた。
「そうだったのね……。ごめんなさいね、勘違いしてしまって……」
「あ、いえいえ。よく勘違いされるんで。でも何千年も前から栗とか、柏餅とかあげたりして、子供たちを楽しませてたんですよ。……って、いつもは地蔵さんが説明してくれるんですが、今ちょうど渡し船の船着き場に行ってて」
「船着き場に?」
「はい。子供用の渡し船は小舟なんで、地蔵さんがロープで引っ張って接岸させるんです」
「あら、お地蔵様も力仕事をなさるのね」
「ええ。地蔵さんは三途エリアきってのゴリゴリ・マッチョですからね。バッキバキですよ」
「あらあら。それはまた、ずいぶんとイメージが……」
するとその時、川のほうから筋骨隆々の地蔵菩薩が満面の笑顔で走ってきた。
「お舟が来ましたよー。行きますよー」
地蔵菩薩の声に子供たちは立ち上がると、走って来た地蔵菩薩は子供たちの手を取って優しく言った。
「極楽に行って、お父さん、お母さんを待ちましょうね。少し待てば会えるから安心してくださいね」
地蔵菩薩の優しい言葉に子供たちは笑顔になると、地蔵菩薩は子供たちと手を繋いでゆっくりと歩きだし、子供たちを川のほうへ連れて行った。
その姿を見送ったおばあさんは少しだけ気になって鬼に尋ねた。
「鬼さん。お地蔵様は少し待てばご両親に会えるって言ってらしたけども……」
「あ、こっちの1日は人間界ではだいぶ長い年月なんですよ。なんで、長くても一ヶ月もすれば親に会えるんですよ」
そこまで言うと鬼は少し慌てた表情で言った。
「おっと、ごめんなさい。新しく来た子供たちが心配そうな顔してるんで行きますね」
「あ、はい。ごめんなさいね、お仕事の邪魔をしてしまって。がんばってくださいね!」
鬼は笑顔で手を振ると子供たちのところへ走っていった。
おばあさんは鬼を見送ると黒猫に話した。
「猫ちゃん。賽の河原の物語は、なんだか間違って伝わっていたみたいね」
「そのようですね。少々、不条理な物語でしたので、我も安心しました」
おばあさんと黒猫は並んで鬼たちと子供たちを眺めた。
すると、おばあさんは少し離れたところに大きな寺院がある事に気づいた。
「猫ちゃん。あれって……、お寺よね?」
「はい。……山門の前には『転生受付所。あなたも、もっと徳を積みませんか?』と書いてあります」
「あら。徳が積めるなんて修行みたいな事をするのかしら」
「ふむ。そうかもしれません」
「ちょっと行ってみようかしら。きっと、ひろしさんはたくさん徳を積んでるから、わたしも積んでおかないと、……なんて、いつも思っていたのよね」
こうしておばあさんと黒猫は寺院へと向うことにしたのだった。




