第103話 ひろし、新たなる旅立ち
洋子と黒猫が寺院に辿り着くと、たくさんの人たちが並んでいるのが見えた。
洋子と黒猫もその列に並ぶと、前の人達の会話が聞こえてきた。
「あ。その数珠、もしかして次で転生2回目ですか?」
「あ、ええ。ははは。いやぁ、あっちの世界で魔王倒すまでに12年かかったんですけど、倒すと余生が楽し過ぎちゃって」
「わかります! 僕も魔法が使いたくて転生したんですけど、もう最高で。今回で6回目なんですよ」
「え、すごいですね! 6回も転生したら徳がやばいですよね」
「え、ええ。お陰様で、心から人に感謝したり反省できるようになりました」
「素晴らしいですね! いやぁ、私も早くそうなりたいですよ!」
洋子と黒猫が前の人たちの会話を聞いて「?」になっていると、行列の先の山門から2人の烏天狗がゆっくりと降りてきた。
そしてなんと、洋子と黒猫の横へやって来ると烏天狗の1人が洋子に話しかけた。
「洋子様ですね」
洋子は烏天狗に驚いたが、一度頭を下げて答えた。
「はい、そうです」
「そして……。私の目に狂いがなければ、そちらの黒猫は暗黒魔法の使い手」
烏天狗は黒猫を指差すと、黒猫は静かに答えた。
「そのとおり。そして洋子殿に仕える者」
烏天狗は小さく頷くと洋子に言った。
「洋子様。大天狗様が直接お話をしたいと申し出ております。お話を聞いて頂けませんでしょうか」
洋子は烏天狗の言葉に驚いていると、列に並んでいる人々が驚きの声をあげた。
「大天狗様から!?」
「す、すげえ!」
「うそ! そんなことが!」
「や、やべぇ! 大天狗様から直々に!?」
洋子は周りの人々が驚く様子に驚きながらも、黒猫と一緒に烏天狗についていった。
―― 大天狗の御殿 ――
烏天狗は洋子たちを連れて大天狗の御殿にやってくると、なんと立派な門の前に洋子の夫、ひろしが立っていた。
それを見た洋子は思わず大きな声をあげた。
「あ! あ、あなた!」
そして目に涙を浮かべながら駆け寄ると、おじいさんも大粒の涙をこぼしながら洋子に言った。
「ああ、ここで会えるなんて……」
駆け寄る洋子におじいさんは両手を広げて迎え入れると、洋子は飛び込むようにおじいさんを抱きしめた。
「あぁ……、もう会えないかと思ったわ……」
おじいさんは洋子を優しく抱きしめながら答えた。
「すまないね……。あっちの世界では、ひとりになって長かったけれども、やっと会えた……。ありがとう」
それを聞いた洋子も大粒の涙を流しながら言った。
「そんな、ありがとうだなんて……」
ふたりが抱き合っていると、静かに大きな影が現れ、その大きな体をひれ伏した。
そしてそれに気づいた黒猫は、その大きな影と洋子たちの間に立ちふさがり、小さな声でその影に質問をした。
「我は洋子殿の眷属。お主は何者だ。返答によっては我は命がけでお主の命を奪う」
それを聞いた大きな影はひれ伏したまま答えた。
「私は大天狗。このような場に現れ大変失礼つかまつる。それゆえ、静かにお二人をお待ちしている」
「……。そうであったか」
黒猫は大天狗の返答に納得し、姿勢を正して目を伏せた。
すると大天狗はひれ伏したまま黒猫に言った。
「お主は黒猫であるな。そして暗黒魔法の使い手。そして……、この黄泉の国の王族『黒狐の一族』が気まぐれに救った命無き命」
「命無き命……?」
「そうだ。お主には両親がおらぬ。それ故、命が生まれてはおらぬ」
「……」
「だがお主は地球という世界に生まれた、ごく稀に輝く命の眷属になった。だからお主は、ここに居る」
「……ごく稀に輝く命とは、やはり」
「そうだ。そこにおられるお二人だ。そして、あのお二人はお主を必要とするだろう」
「我を……?」
「うむ。あのお二人は強大な力を持っておられる。だから黄泉の国の左大臣であるわたしが頭を下げている」
「なんと……」
黒猫は大天狗の言葉を聞くと、同じようにひれ伏した。
―― 大天狗の御殿、表座敷 ――
大天狗は客間の表座敷におじいさんとおばあさんを招き入れると、前に出て頭を下げながら話し始めた。
「ひろし殿、洋子殿。このような所にお呼び立て致した失礼、心よりお詫び申し上げる」
その姿を見たおじいさんとおばあさんは揃って頭を下げながら答えた。
「いえいえ、どうか頭をお上げください」
「そ、そうですよ。そんな、お詫びなんて」
すると大天狗は少しだけ顔をあげて答えた。
「ひろし殿、洋子殿。どうか、わたしの願いをお聞き入れ願いたく……」
大天狗の申し出におじいさんとおばあさんは顔を見合わせたが、おじいさんは意を決したように大天狗に静かに答えた。
「え、ええと、わたしたちに出来ることであれば……」
それを聞いた大天狗は、その大きな体を広げるように立ち上がり、片膝をついておじいさんに言った。
「なんという寛大なお言葉! この大天狗、心より感謝いたします!」
―― 剣と魔法の異世界、リムリテイル王国 ――
おじいさんとおばあさんは乾いた大地が広がる土地に座っていた。
そしてVRゲームの時と同じようにアイテムボックスやHP・MP、そのほかのアイコンも表示されていた。
「ええと、ここは……」
「ええ……。どこかしら」
すると近くにいた黒猫が二人に答えた。
「ひろし殿、洋子殿。ここは大天狗殿が話していた世界……。我々のVRゲーム内の能力をそのままに送り込まれた異世界です」
それを聞いたおばあさんは思い出したように言った。
「ああ、そうだったわね。あの大天狗さんは、わたしたちがゲームの中で使っていた力を使ってこの世界を救ってほしいって言っていたわね」
それを聞いた黒猫は少し怒りをあらわにしながら答えた。
「はい、そのとおりです。しかし、今まで誰も救えなかったこの世界を救うという無理難題。さらに事情は説明できないという身勝手。我が主になんという事を!」
黒猫がそう言うと、おばあさんは少し笑いながら黒猫に言った。
「まあまあ猫ちゃん。わたしたちが選ばれたのだもの。一緒に頑張りましょうね。うふふ」
おばあさんはそう言いながら黒猫を抱きかかえると、黒猫は少し落ち着きを取り戻した。
―― 新たな冒険のはじまり 完 ――
そして「異世界おじいちゃん ~みんなで異世界転生~(https://ncode.syosetu.com/n3654mt/)」へと続く




