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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第二章 第二節〜Re:白紙の書〜

……すみません、エピソードを丸ごとリライトしました。今回、物語を作ったそばから投稿すると、前後のエピソードの整合性や調整が難しくなる事を学びました。

 長期遠征者用宿舎の朝は早かった。


 まだ外の鐘が鳴り終わらぬ内から、人の動く気配が聞こえてくる。



 休息期間初日。


 遠征調査隊の面々は、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。


 ビナー出身の騎士は、久しぶりに故郷へ戻ったらしく朝から宿舎を出ている。


「親父殿に顔見せだろ」


 盗賊がそう言っていた。


 その盗賊自身もまた地元の知人達と会う予定らしく、珍しく早々に姿を消していた。


 一方で赤髪の女狩人は市場区画へ向かっていた。


 見慣れない土地の商店を覗くのが好きらしい。


「せっかく別の領域まで来たんだからね」


 そう言い残して出て行った。


 小柄な女僧侶はというと、トンネル都市に存在する礼拝堂を訪れる予定らしかった。


 慣れない寒さに少々参っている様子ではあったが、それでも穏やかな笑顔は崩れていない。


 研究員達も各々休養に充てている。


 長旅の疲労は決して軽くなかった。


 今は無理に動く時ではない。



 そんな中。


 ソフィアは朝食を終えると、クレイスの部屋を訪ねていた。


「本当に付いて来てくれるんですか?」


「昨日も言っただろう」


 クレイスは肩を竦めた。


「土地勘が無いんだから案内役くらいはする」


「ありがとうございます」


 ソフィアは少し笑う。


 本音を言えば。


 一人で行くのが少し不安だった。


 選定の回廊。


 人生を変える試練。


 そんな場所へ向かうのだ。


 誰かと一緒の方が心強い。


「……それに」


 クレイスは視線を逸らした。


「何が起こるか分からない場所だろう」


「心配してくれてるんですか?」


「違う」


「今の間は絶対そうですよね?」


「気のせいだ」


 ソフィアはくすりと笑った。



 二人が宿舎を出ようとした時だった。


「クレイス君」


 背後から声が掛かる。


 主任研究員だった。


「少しいいかな」


「……承知しました」


 クレイスは表情を引き締める。


 ソフィアへ向き直った。


「少し待っていてくれ」


「はい」



 主任研究員は人気の少ない廊下へ移動すると、静かに口を開いた。


「選定の回廊へ向かうそうだね」


「その予定です」


「やはり」


 どこか満足そうな顔だった。


 クレイスは内心でため息をつく。


 この人は相変わらずだ。


 先回りが上手い。



「君も聞いていると思うが、我々が調査する地底湖は“力の保存と継承”に関係している」


「ええ」


「実は選定の回廊も近い性質を持つと考えられている」


 クレイスの眉がわずかに動く。


「学術院は以前から調査を打診していた」


 だが。


 許可は下りなかった。


 書簡による交渉も不調。


 内部調査は認められていない。


「しかし今回は違う」


 主任研究員は微笑んだ。


「君達は正式な試練の挑戦者として中へ入る」


「俺は付き添いですが」


「それでもだ」


 視線が鋭くなる。


「何か見えたら覚えておいてほしい」


 研究者らしい目だった。


 未知への探究心。


 そして知識への渇望。



「……休息日を設けたのも、そのためですか」


 クレイスが尋ねる。


 主任研究員は答えない。


 だが否定もしなかった。


「君は優秀な観察者だ」


 代わりにそう言った。


「私が見られない場所を見てきてくれ」



 ソフィアと合流した頃には、クレイスはいつもの表情へ戻っていた。


「何の話だったんですか?」


「研究の話だ」


「また難しそうなやつですね」


「ああ」


 それ以上は語らない。


 だが主任研究員の言葉は頭に残っていた。


 力の保存と継承。


 選定の回廊。


 そして地底湖。


 偶然とは思えない。



 二人は大書庫へ向かった。


 トンネル都市の中央部。


 岩盤を削り抜いて築かれた巨大施設。


 何層もの回廊が重なり、石橋が空中を横切っている。


 その最深部に目的地はあった。


「大きい……」


 ソフィアが見上げる。


 黒い岩盤と白い石材が組み合わされた荘厳な建築。


 入口には本を象った巨大な紋章。


 静寂そのものを形にしたような場所だった。



 受付には年配の司書がいた。


 ソフィアは高位僧侶から預かった紹介状を差し出す。


「ケテルの神殿より紹介を受けました。クラスチェンジの試練を受けるために参りました」


 司書は書簡へ目を通した。


 そして頷く。


「確認いたしました」


 その視線がクレイスへ向く。


「こちらの方は?」


 クレイスは丁寧に一礼した。


「私はコクマー学術院所属の調査研究員です」


 普段よりずっと落ち着いた口調だった。


「彼女とはビナーまでの道中を共にしておりました。この土地に不慣れなため、案内と付き添いを兼ねて同行しております」


 司書は少し考えた後、頷いた。


「問題ありません」


 二人は応接室へ案内された。


 暖炉の火が静かに揺れている。


 司書は席へ着くと説明を始めた。



「まず理解していただきたいのは、選定の回廊は僧侶になるためだけの施設ではありません」


 ソフィアが姿勢を正す。


「現在の適性を失い、新たな適性を得るための施設です」


 司書は静かに続ける。


「儀式は三段階あります」


 第一段階。


 挑戦者自身が物語を書くこと。


「物語?」


「はい」


 司書は頷いた。


「挑戦者はまず、自らの人生を『白紙の書』へ記します」



 第二段階。


 その本を携え、選定の回廊へ入る。


 回廊には無数の本が納められている。


 そして。


 その中から自らが求める本を選び取る。


「ただし」


 司書の声が少し低くなる。


「回廊内の本は開けません」


「え?」


 ソフィアが目を瞬かせた。


「開けないんですか?」


「大書庫の司書以外には不可能です」


 つまり。


 本の内容は読めない。


 感じ取るしかない。


「そこに込められた執筆者の性質を頼りに選ぶのです」


 選択を誤れば。


 望む適性へ辿り着けない。


 僧侶になりたい者が別の本を選べば。


 別の適性を得る可能性もある。


 ソフィアは思わず息を呑んだ。


「神殿の高位僧侶が貴女を長く見ていた理由も、その辺りでしょう」


 司書は言う。


「貴女が僧侶へ至れるかを見極めていたのです」


 ソフィアは静かに頷いた。


 今なら分かる。


 神殿での日々は修行だけではなかった。


 見られていたのだ。


 自分自身を。



「最後に」


 司書は締め括る。


「最奥で、自らの本と選び取った本を用いて儀式を行います」


 そして。


 完成した自分の本は回廊へ納められる。


 未来の挑戦者のために。



 その説明を聞いていたクレイスが口を開いた。


「一つ質問してもよろしいでしょうか」


「どうぞ」


「ソフィアが僧侶になるなら、僧侶の本を選ぶ必要があります」


 司書は頷く。


「つまり過去に僧侶がこの場所へ来て、本を書き残したということですね」


「その通りです」


「放浪者以外も試練を受けられるのですか?」


 司書は微笑んだ。


「可能です」


 だが。


 結果は難しい。


「人は無意識に、自分と似た本を選びます」


 戦士は戦士を。


 僧侶は僧侶を。


 魔術師は魔術師を。


 そのため。


 儀式を終えても何も変わらないことが多い。


「しかし放浪者は違う」


 司書はソフィアを見る。


「柔軟だからです」


 だからこそ成功率が高い。


 その代わり。


 一度別の適性へ変われば。


 再び放浪者へ戻るのは容易ではない。



 説明が終わる。


 司書は一冊の本を差し出した。


「こちらを」


 白い装丁。


 何の題名も無い本。


 中を開く。


 全て白紙だった。


「期限はありますか?」


 ソフィアが尋ねる。


「ありません」


 司書は即答した。


「納得できるまで書いてください」


「持ち帰っても?」


「もちろんです」



 一通りの説明を終えた二人は大書庫を後にした。


 帰り道。


 トンネル都市の灯りが岩壁を照らしている。


「思ったより大変そうですね」


 ソフィアが本を抱えながら言った。


「ああ」


 クレイスも頷く。


「本を選ぶところが特にな」


「私、絶対迷います」


「だろうな」


「ひどい」


 そんなやり取りを交わしながら宿舎へ戻っていった。



 その夜。


 自室へ戻ったソフィアは机へ向かっていた。


 目の前には白紙の書。


 ペンを握る。


 そして書き始める。



 白き天空の領域ケテル。


 転生。


 冒険者。


 固定パーティに馴染めなかった日々。


 街の仕事。


 神殿。


 僧侶見習い。


 飛空艇。


 コクマー。


 クレイスとの出会い。


 橋上の戦い。


 懐かしさ。


 前の世界の話。


 そしてビナー。


 気付けば時間は過ぎていた。


 最後の行を書き終えた時。


 ソフィアは大きく伸びをする。


「……ふぅ」


 ペンを置く。


 改めて本の厚みを見る。


 白紙だったページの半分ほどが、既に文字で埋まっていた。



 まだ一年も経っていない。


 それなのに。


 これだけのページが埋まるほどの出来事があった。


「濃いなぁ……」


 思わず苦笑する。


 だが。


 同時に疑問も浮かんだ。


 本当にこれで終わりなのだろうか。


 今提出して。


 今試練を受けて。


 それでいいのだろうか。



 窓の外では、トンネル都市の灯りが静かに輝いている。


 自分はしばらくここに滞在する。


 地底湖調査もある。


 クレイス達との時間もある。


 まだ、この本には書かれていない日々が残っている。


 まだ、自分の物語は続いているのだ。



 ソフィアはそっと白紙の書を閉じる。


 白い表紙を撫でながら微笑んだ。


「もう少しだけ、続きを書こう」


 選定の回廊へ向かうのは、その後でもいい。


 そう決めた彼女の胸には、不思議な納得感が広がっていた。


 そして静かな夜が、更けていくのだった。

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