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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第二章 第一節〜Re:境界を越えて〜

……すみません、エピソードを丸ごとリライトしました。今回、物語を作ったそばから投稿すると、前後のエピソードの整合性や調整が難しくなる事を学びました。

 山脈を貫く巨大なトンネルの中を、遠征調査隊は進んでいた。


 黒い岩盤を削り抜いて造られた通路は広く、大型馬車がすれ違えるほどの幅がある。


 頭上には魔力灯が一定間隔で設置され、淡い光が行く手を照らしていた。


 世界柱地上部を越え、山脈へ入った当初はまだ緑も残っていた。


 だが進むにつれて景色は変わっていく。


「寒っ……!」


 研究員の一人が肩を震わせた。


 吐いた息が白い。


 壁際には薄く霜が張り始めている。


 トンネルは完全な密閉空間ではなかった。


 所々に大きな開口部があり、その向こうには山脈の外側が見えている。


 かつて掘削時に岩石を廃棄するために設けられた場所であり、現在は換気口としても利用されていた。


 そのおかげで空気は淀まない。


 しかし同時に。


「うわっ!」


 開口部の前を通過した研究員が慌てて身を縮める。


 吹き込んできた冷気がまるで刃のようだった。


 外では雪が舞っている。


 黒い岩肌の崖。


 白く染まった斜面。


 吹雪の向こうに見える氷の世界。


 それはケテルともコクマーとも違う景色だった。



「そろそろ着替えた方がいいな」


 クレイスが言った。


 騎士も頷く。


「この先はもっと冷える」


 彼はビナー出身だった。


 故郷へ帰ってきたからか、どこか表情が柔らかい。


 遠征隊は一度足を止めた。


 研究員達は馬車から防寒装備を取り出し始める。


 厚手の外套。


 毛皮の手袋。


 防寒靴。


 首元を覆う防寒布。


 ソフィアもまた足元に小さな魔法陣を開いた。


 白銀の光が揺らぐ。


 次の瞬間。


 毛皮付きの外套や防寒具一式が現れた。


「相変わらず便利ですねぇ……」


 小柄な女僧侶が感心したように呟く。


「旅の準備だけは得意なんです」


 ソフィアは笑った。


 防寒具を身に着けながら、ちらりとクレイスを見る。


 黒い防寒外套を羽織った彼は、普段よりさらに魔術師らしく見えた。


「似合ってますね」


「そうか?」


「はい。雪国の怪しい魔術師って感じで」


「褒めてないだろ」


「褒めてますよ?」


 そんなやり取りに周囲が小さく笑った。



 さらに進む。


 気温は目に見えて下がっていった。


 開口部の外は完全な雪景色になっている。


 吹雪が岩壁へ叩き付けられ、白い煙のように舞い上がっていた。


 もしこのトンネルがなければ。


 もし山脈を直接越えようとしたなら。


 旅そのものが成立しないだろう。


 ソフィアはそう思った。


「すごいですね……」


「何がだ?」


 隣を歩くクレイスが尋ねる。


「こんな場所に街を作った人達です」


 黒い岩盤。


 極寒。


 吹雪。


 普通なら人が住もうとは思わない環境だ。


 だが人々は山を削り、道を造り、街を築いた。


「生きるためだろうな」


 クレイスは開口部の向こうを見る。


「海と内陸を繋ぐ唯一の道だ」


 物流。


 交易。


 人の移動。


 この道があるからこそ、ビナーは他領域と結ばれている。


 だから人はここに留まり続ける。


 厳しい環境であっても。



 そして数時間後。


 遠征調査隊の前方に明かりが見えた。


「見えてきたぞ」


 騎士が言う。


 やがてトンネルの先が大きく開けた。


 ソフィアは思わず足を止める。


「わぁ……」


 巨大だった。


 山の内部をそのまま都市にしたような光景。


 黒い岩盤を削って造られた建物。


 岩壁へ埋め込まれた住居。


 何層にも重なる通路。


 無数の魔力灯。


 荷車が行き交い、人々が忙しなく歩いている。


 岩盤を支える巨大な柱。


 鍛冶場から響く金属音。


 酒場から漏れる笑い声。


 それはコクマーともケテルとも違う。


 山の中に築かれた街だった。


「ここが……」


 ソフィアは呟く。


「トンネル都市か」


 クレイスも初めて見る景色だった。


 資料では読んでいた。


 だが実際に目にすると迫力が違う。


 山脈の内部に存在する巨大な人類拠点。


 ビナーへの玄関口。



 遠征調査隊が最初に向かったのは、冒険者ギルド ビナー支部 トンネル都市拠点だった。


 岩盤を削って造られた大きな建物。


 入口には剣と盾を模した紋章が掲げられている。


 中へ入ると暖炉の熱気が迎えてくれた。


「コクマー学術院遠征調査隊だ」


 クレイスが受付へ書類を差し出す。


 受付係は事前に届いていた書簡を確認し、すぐに頷いた。


「お待ちしておりました」


 手続きは驚くほどスムーズだった。


 地底湖調査に必要な申請。


 滞在許可。


 物資搬入。


 全て事前に済んでいるらしい。


「長期遠征者用宿舎をご利用ください」


 受付係が説明する。


「部屋も確保しております」



 一方。


 ソフィアは別窓口で旅人用簡易宿舎の手続きを行っていた。


 しかし。


「申し訳ありません」


 受付係が困った顔をする。


「現在、満室です」


「えっ」


 ソフィアが固まった。


「一部屋も……?」


「空き待ち状態ですね」


 笑えなかった。


 外は雪と氷の世界である。


 野宿など論外だ。


 凍死する。



「……どうした?」


 戻ってきたクレイスが尋ねた。


 事情を聞く。


 そして数秒沈黙した後。


「なら、こっちへ来い」


「え?」


「長期遠征者用宿舎ならまだ余裕がある」


「でも私、遠征隊じゃないですよ?」


「途中からだろうが何だろうが、ここまで一緒に来た仲間だ」


 騎士が頷く。


「今さらだな」


「そうそう」


 赤髪の女狩人も笑った。


「帰りもどうせ同じ方向なんでしょ?」


 小柄な僧侶も微笑む。


「一緒の方が安心です」


 盗賊も無言で頷いていた。


 ソフィアは少し驚いた。


 いつの間にか。


 自分はこの人達と随分打ち解けていたらしい。


「……じゃあ、お言葉に甘えます」


 自然と笑顔が浮かんだ。



 長期遠征者用宿舎で荷降ろしを終えた頃。


 遠征隊全員が共用ホールへ集められた。


 そこにいたのは、一人の中年男性だった。


 整えられた髭。


 厚手の研究用外套。


 鋭いが理知的な目。


 遠征調査隊を率いる主任研究員である。


「まずは諸君、ご苦労だった」


 落ち着いた声が響く。


「コクマーからここまでの長旅、本当にお疲れ様」


 研究員達が安堵したように息を吐く。


 主任研究員は続けた。


「まず今後の予定だが、二日間は休息日とする」


 誰も異論はなかった。


 寒暖差だけでも相当な負担だ。


 まして長距離移動の疲労もある。


「体調管理を優先してほしい」


 そして話は本題へ移る。



「今回の調査対象は山脈地下に存在する地底湖だ」


 主任研究員は地図を広げた。


「我々が調査するのは、“力の保存と継承”に関する現象である」


 ソフィアは少し興味を引かれた。


 主任研究員は続ける。


「人が一生をかけて得る技術、知識、魔術、経験。それらを保存し、次世代へ受け渡す方法が存在するならどうなるか」


 研究員達が真剣な顔で耳を傾ける。


「世代交代による損失はなくなる。知識も技術も積み重なり続ける」


 それは壮大な研究だった。


「我々はその手掛かりがこの地底湖にあると考えている」



 説明が終わる。


 主任研究員は最後にクレイスへ視線を向けた。


「ここから先は私が調査計画を管理する」


「了解しました」


「現場指揮は引き続き君に任せる」


 調査研究員。


 それがクレイスの役割だった。


 研究員達を率い。


 護衛と連携し。


 現地調査を進める。


 ここからが本番である。



 会議が終わった後。


 ソフィアは宿舎の窓からトンネル都市を見下ろしていた。


 遠くには大書庫が見える。


 そのさらに奥。


 選定の回廊。


 自分が目指してきた場所。


 放浪者を捨てる試練。


 新たな道を選ぶ儀式。


「いよいよだな」


 隣へクレイスが並ぶ。


 ソフィアは頷いた。


「はい」


 そして少し笑う。


「クレイスさんも忙しくなりそうですね」


「ああ」


 地底湖調査。


 現場指揮。


 新たな領域での任務。


 やることは山積みだった。


 それでも。


 二人はどこか期待していた。


 雪と岩に閉ざされた新天地で。


 それぞれの目的へ向かう日々が、これから始まろうとしていた。

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