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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第一章 第五節〜橋上瀑布大作戦〜

 翌朝。


 再編成を終えた遠征調査隊は、再び白い大橋の付近まで戻ってきていた。


 空は晴れている。


 世界柱から流れ落ちる巨大な滝は、朝日を受けて白銀に輝いていた。


 だが橋の周囲には、昨日よりも濃い魔物の気配が漂っている。


「……嫌な予感しかしねぇな」


 騎士が眉をひそめる。


 その時、偵察へ出ていた盗賊が戻ってきた。


「橋の上、まだ溜まってる」 「どれくらいだ?」 「昨日より増えてる」


 空気が重くなる。


 どうやら、野盗達の死体が完全に撒き餌になってしまったらしい。


 自業自得ではあるが、こちらとしてはたまったものではない。



「他のルートは?」


 研究員の一人が尋ねる。


 盗賊が首を振った。


「滝裏に回廊がある。でも馬車は通れない」


 遠征調査隊は大所帯だ。


 調査設備。


 物資。


 馬車。


 今さらルート変更は現実的ではない。


「つまり、橋を突破するしかないってことか……」


 赤髪の女狩人が肩を竦める。


 その間。


 ソフィアは少し離れた場所で、じっと滝を見つめていた。


 轟々と流れ落ちる水。


 終わりの見えない水流。


 その白い飛沫を見ながら、彼女は考える。


(……収納した物って、どこに行ってるんだろう)


 袋に詰め込んでいる感覚ではない。


 積み上がっているわけでもない。


 欲しいものだけが現れる。


 干渉もしない。


 容量も実質無限。


 制限があるのは、“入口の大きさ”だけ。


 なら。


 もし。


 流れ続けるものを、“通し続けた”なら――


「……あ」


 ソフィアの碧眼がぱちりと開く。



「クレイスさん」 「なんだ」


 嫌な予感がした。


 声を掛けられた瞬間、クレイスは本能的にそう思った。


 ソフィアは妙にいい笑顔をしている。


「作戦、思いつきました!」 「その顔やめろ」 「えっ」 「絶対ろくでもない」



 数十分後。


 クレイスは滝裏の回廊へ連行されていた。


 巨大な滝の内側。


 天然洞窟のような白い通路。


 轟音が絶え間なく響き、水飛沫が霧になって漂っている。


「それで?」 「私の能力って、物を収納できますよね」 「知ってる」 「でも、収納した物って、中で押し合ってる感じじゃないんです」


 ソフィアが真剣な顔で語る。


「だからたぶん、“流体”もそのまま保持できるんじゃないかと思って」 「……待て」


 クレイスの声に警戒が混じる。


 だがソフィアは止まらない。


「つまりですね」


 彼女は両手を広げた。


「滝を収納して、一気に放出したら強いんじゃないかなって!」


「は???」



「いや待て待て待て」 「理論上いけます!」 「理論上で全部押し通すな!」 「大丈夫ですって!」 「何を根拠に!?」 「なんとなく!」


 最悪だった。


 だが。


 クレイスは薄々気付いてしまっていた。


 たぶん。


 これ、成功する。



 ソフィアが魔法陣を展開する。


 白銀の円陣。


 そして。


 滝の中へ向けて出現。


 瞬間。


 轟音の一部が消えた。


「……うわ」


 クレイスが思わず引く。


 滝の水が、魔法陣へ吸い込まれている。


 大量に。


 延々と。


 しかもソフィア本人は平然としていた。


「いける……!」 「いけちゃ駄目だろ普通!」



 そして作戦決行。


 遠征調査隊は再び橋へ突入した。


 騎士が前衛を支え。


 盗賊が側面を処理。


 狩人の矢が飛び。


 僧侶が支援を行う。


 騎士達四人が橋入口で防衛線を形成する。


 その間に、クレイスとソフィアが中央突破を担当する――それが今回の作戦だった。


 クレイスは槍を振るいながら前へ出た。


「道を開ける!」


 魔力が奔る。


 槍先から放たれた雷撃が橋上を薙ぎ払う。


 爆発。


 魔物達が吹き飛ぶ。


「ソフィア!」 「はい!」


 二人は一気に橋の半ばまで駆け抜けた。


 クレイスが迎撃。


 ソフィアが後方支援。


 呼吸は完璧だった。



 橋中央へ到達。


 ソフィアは即座に荷物からロープを取り出す。


「持ってて良かった……!」 「何を想定してたんだお前は!」


 ロープを橋の支柱へ結び付ける。


 さらに自分とクレイスの腰へ固定。


「命綱よし!」 「ほんとにやるのか!?」 「やります!」


 ソフィアは空へ手を掲げた。



 出現した魔法陣は、下向きだった。


 そして次の瞬間。


 滝が落ちてきた。


「――――っ!?」


 轟音。


 白い瀑布が橋中央へ直撃する。


 直後。


 圧縮された激流が、爆発するように全周囲へ弾け飛んだ。


 橋上を埋め尽くしていた魔物達が、まとめて左右の橋外へ吹き飛ばされる。


 橋が震動する。


 白い水流が橋面を暴れ狂い、欄干から滝のように溢れ落ちた。


 そして当然。


 至近距離にいたソフィア達も巻き込まれた。


「きゃあああああ!?」 「だから言っただろうがぁぁぁぁ!!」


 二人まとめて橋外へ吹き飛ぶ。


 だが。


 ロープが張る。


 命綱が二人を支えた。


 宙吊り状態で激流をやり過ごしながら、クレイスは本気で頭を抱えた。


「お前ほんと何なんだよ!?」 「でも成功しましたよー!!」


 橋の上。


 魔物は綺麗さっぱり消えていた。



 橋入口側。


 遠征隊の面々は沈黙していた。


「……」 「……」 「……」


 最初に吹き出したのは赤髪の女狩人だった。


「ぶはっ!! あははははは!!」


 腹を抱えて笑い始める。


 騎士は呆然。


 小柄な女僧侶は額を押さえている。


 盗賊は肩を震わせていた。


「いや……発想が狂ってるだろ……」 「滝を武器にする奴初めて見た……」


 研究員達も反応が分かれていた。


 青ざめる者。


 爆笑する者。


 本気で引いている者。


 ただ一つ確かなのは。


 橋の制圧には成功したということだった。



 その後。


 遠征調査隊は山脈地帯へ到達する。


 白き天空の領域ケテル地上部。


 そして黒き凍土の領域ビナー。


 その二領域を隔てる巨大山脈。


 そこを貫く山間トンネルこそ、陸路交易の生命線だった。


 内部には街が形成されている。


 宿泊施設。


 鍛冶場。


 倉庫。


 交易所。


 そして、ビナーへ向かう者達の拠点。


 冷たい風が吹き込む入口を見上げながら、ソフィアは小さく息を吐いた。


「……ここが、ビナーへの入口」


 クレイスが隣へ並ぶ。


「ああ」


 トンネルの奥。


 そこには、「選定の回廊」が存在する。


 放浪者を捨て。


 新たな適性を得るための試練。


 ソフィアはまだ知らない。


 自分が得るものが、ただの「僧侶」ではないことを。


 その魂に刻まれた資質が。


 もっと別の、“特別な道”へ繋がっていることを。

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