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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第一章 第五節〜橋上瀑布大作戦〜

 翌朝。


 再編成を終えた遠征調査隊は、再び白い大橋の付近まで戻ってきていた。


 空は晴れている。


 世界柱から流れ落ちる巨大な滝は、朝日を受けて白銀に輝いていた。


 だが橋の周囲には、昨日よりも濃い魔物の気配が漂っている。


「……嫌な予感しかしねぇな」


 騎士が眉をひそめる。


 その時、偵察へ出ていた盗賊が戻ってきた。


「橋の上、まだ溜まってる」 「どれくらいだ?」 「昨日より増えてる」


 空気が重くなる。


 どうやら、野盗達の死体が完全に撒き餌になってしまったらしい。


 自業自得ではあるが、こちらとしてはたまったものではない。


◇


「他のルートは?」


 研究員の一人が尋ねる。


 盗賊が首を振った。


「滝裏に回廊がある。でも馬車は通れない」


 遠征調査隊は大所帯だ。


 調査設備。


 物資。


 馬車。


 今さらルート変更は現実的ではない。


「つまり、橋を突破するしかないってことか……」


 赤髪の女狩人が肩を竦める。


 その間。


 ソフィアは少し離れた場所で、じっと滝を見つめていた。


 轟々と流れ落ちる水。


 終わりの見えない水流。


 その白い飛沫を見ながら、彼女は考える。


(……収納した物って、どこに行ってるんだろう)


 袋に詰め込んでいる感覚ではない。


 積み上がっているわけでもない。


 欲しいものだけが現れる。


 干渉もしない。


 容量も実質無限。


 制限があるのは、“入口の大きさ”だけ。


 なら。


 もし。


 流れ続けるものを、“通し続けた”なら――


「……あ」


 ソフィアの碧眼がぱちりと開く。


◇


「クレイスさん」 「なんだ」


 嫌な予感がした。


 声を掛けられた瞬間、クレイスは本能的にそう思った。


 ソフィアは妙にいい笑顔をしている。


「作戦、思いつきました!」 「その顔やめろ」 「えっ」 「絶対ろくでもない」


◇


 数十分後。


 クレイスは滝裏の回廊へ連行されていた。


 巨大な滝の内側。


 天然洞窟のような白い通路。


 轟音が絶え間なく響き、水飛沫が霧になって漂っている。


「それで?」 「私の能力って、物を収納できますよね」 「知ってる」 「でも、収納した物って、中で押し合ってる感じじゃないんです」


 ソフィアが真剣な顔で語る。


「だからたぶん、“流体”もそのまま保持できるんじゃないかと思って」 「……待て」


 クレイスの声に警戒が混じる。


 だがソフィアは止まらない。


「つまりですね」


 彼女は両手を広げた。


「滝を収納して、一気に放出したら強いんじゃないかなって!」


「は???」


◇


「いや待て待て待て」 「理論上いけます!」 「理論上で全部押し通すな!」 「大丈夫ですって!」 「何を根拠に!?」 「なんとなく!」


 最悪だった。


 だが。


 クレイスは薄々気付いてしまっていた。


 たぶん。


 これ、成功する。


◇


 ソフィアが魔法陣を展開する。


 白銀の円陣。


 そして。


 滝の中へ向けて出現。


 瞬間。


 轟音の一部が消えた。


「……うわ」


 クレイスが思わず引く。


 滝の水が、魔法陣へ吸い込まれている。


 大量に。


 延々と。


 しかもソフィア本人は平然としていた。


「いける……!」 「いけちゃ駄目だろ普通!」


△

▽


 そして作戦決行。


 遠征調査隊は再び橋へ突入した。


 騎士が前衛を支え。


 盗賊が側面を処理。


 狩人の矢が飛び。


 僧侶が支援を行う。


 騎士達四人が橋入口で防衛線を形成する。


 その間に、クレイスとソフィアが中央突破を担当する――それが今回の作戦だった。


 クレイスは槍を振るいながら前へ出た。


「道を開ける!」


 魔力が奔る。


 槍先から放たれた雷撃が橋上を薙ぎ払う。


 爆発。


 魔物達が吹き飛ぶ。


「ソフィア!」 「はい!」


 二人は一気に橋の半ばまで駆け抜けた。


 クレイスが迎撃。


 ソフィアが後方支援。


 呼吸は完璧だった。


◇


 橋中央へ到達。


 ソフィアは即座に荷物からロープを取り出す。


「持ってて良かった……!」 「何を想定してたんだお前は!」


 ロープを橋の支柱へ結び付ける。


 さらに自分とクレイスの腰へ固定。


「命綱よし!」 「ほんとにやるのか!?」 「やります!」


 ソフィアは空へ手を掲げた。


◇


 出現した魔法陣は、下向きだった。


 そして次の瞬間。


 滝が落ちてきた。


「――――っ!?」


 轟音。


 白い瀑布が橋中央へ直撃する。


 直後。


 圧縮された激流が、爆発するように全周囲へ弾け飛んだ。


 橋上を埋め尽くしていた魔物達が、まとめて左右の橋外へ吹き飛ばされる。


 橋が震動する。


 白い水流が橋面を暴れ狂い、欄干から滝のように溢れ落ちた。


 そして当然。


 至近距離にいたソフィア達も巻き込まれた。


「きゃあああああ!?」 「だから言っただろうがぁぁぁぁ!!」


 二人まとめて橋外へ吹き飛ぶ。


 だが。


 ロープが張る。


 命綱が二人を支えた。


 宙吊り状態で激流をやり過ごしながら、クレイスは本気で頭を抱えた。


「お前ほんと何なんだよ!?」 「でも成功しましたよー!!」


 橋の上。


 魔物は綺麗さっぱり消えていた。


◇


 橋入口側。


 遠征隊の面々は沈黙していた。


「……」 「……」 「……」


 最初に吹き出したのは赤髪の女狩人だった。


「ぶはっ!! あははははは!!」


 腹を抱えて笑い始める。


 騎士は呆然。


 小柄な女僧侶は額を押さえている。


 盗賊は肩を震わせていた。


「いや……発想が狂ってるだろ……」 「滝を武器にする奴初めて見た……」


 研究員達も反応が分かれていた。


 青ざめる者。


 爆笑する者。


 本気で引いている者。


 ただ一つ確かなのは。


 橋の制圧には成功したということだった。


◇


 その後。


 遠征調査隊は山脈地帯へ到達する。


 白き天空の領域ケテル地上部。


 そして黒き凍土の領域ビナー。


 その二領域を隔てる巨大山脈。


 そこを貫く山間トンネルこそ、陸路交易の生命線だった。


 内部には街が形成されている。


 宿泊施設。


 鍛冶場。


 倉庫。


 交易所。


 そして、ビナーへ向かう者達の拠点。


 冷たい風が吹き込む入口を見上げながら、ソフィアは小さく息を吐いた。


「……ここが、ビナーへの入口」


 クレイスが隣へ並ぶ。


「ああ」


 トンネルの奥。


 そこには、「選定の回廊」が存在する。


 放浪者を捨て。


 新たな適性を得るための試練。


 ソフィアはまだ知らない。


 自分が得るものが、ただの「僧侶」ではないことを。


 その魂に刻まれた資質が。


 もっと別の、“特別な道”へ繋がっていることを。

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