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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第一章 第四節〜同じギルドだった君へ〜

 白き橋の上を、風が吹き抜ける。


 世界柱から流れ落ちる滝の轟音。


 飛沫。


 揺れる水煙。


 その中央で、ソフィアとクレイスは魔物の群れと対峙していた。



 戦況そのものは優勢だった。


 クレイスの広範囲魔術が敵陣を削り。


 突破してきた個体を槍で仕留める。


 その隙をソフィアが埋める。


 遠距離支援。


 治療。


 近接迎撃。


 必要な役割を即座に切り替えながら、戦線を維持していた。


 だが。


「数が減らない……!」


 ソフィアが息を呑む。


 橋の出口側から、なお新たな魔物が現れている。


 おびき寄せられているのだ。


 完全突破は難しい。


 その時だった。


「野盗は片付けた!」


 後方から騎士の声が響いた。


 クレイスは即座に振り返る。


 橋の入口側。


 既に馬車列は方向転換を終えていた。


 クレイスは戦闘が始まる前、密かに馬車を撤退可能な向きへ変えさせていたのだ。


「全車、橋を離脱しろ!」


 研究員達が慌ただしく動き出す。


 馬車が軋みながら走り始めた。


「狩人、援護を!」 「任せな!」


 赤髪の女狩人が弓を引く。


 放たれた矢が、魔物の眼球を正確に射抜いた。



「後退しながら迎撃する!」


 クレイスが叫ぶ。


 ソフィアは頷き、杖を構えた。


 氷弾。


 炎弾。


 初歩魔術を連続展開し、橋幅を制圧する。


 その間をクレイスが駆ける。


 槍が唸り、魔物を切り裂く。


 橋上を少しずつ後退。


 狩人の矢が援護。


 連携は崩れない。


 やがて。


 橋の入口付近まで戻ってきた。


 だが魔物達は追撃を止めない。


「しつこい……!」


 ソフィアが眉を寄せた、その時。


 クレイスの視界に、盗賊の動きが映った。



 盗賊は騎士と共に、気絶した野盗達を運んでいた。


 馬車の進路を塞がぬよう、橋脇へ移動させ。


 一箇所へまとめている。


 その意図を、クレイスは即座に理解した。


(……なるほど)


 魔物は、より弱い獲物へ向かう。


 そして血の臭いへ集まる。


 なら。


 盗賊がクレイスへ目配せする。


 クレイスは無言で頷いた。


 乗った。



「離脱するぞ!」


 クレイスが叫ぶ。


 ソフィアと赤髪の女狩人が後退。


 その直後。


 追撃してきた魔物達の先頭が、橋脇へ転がされた野盗達へ気付いた。


 一瞬。


 魔物達の動きが止まる。


 そして。


 獲物を変えた。


「ぎ、ぎゃああああ!!」 「待っ――やめろ!!」


 悲鳴が橋へ響き渡る。


 だが遠征隊は止まらない。


 馬車は既に街道へ抜けている。


 クレイスは振り返らなかった。


 ソフィアもまた、何も言わなかった。


 野盗達は、自分達で撒いた種だ。


 そして今は、生き残ることが優先だった。



 その後。


 遠征調査隊は、世界柱内部への入口手前に存在する中継拠点へ到着した。


 石造りの小規模要塞。


 巡礼時代の名残を残す宿泊施設。


 簡易工房。


 食堂。


 そして、負傷者達が休める休憩所。


 幸い、設備被害は軽微だった。


 隊員達の怪我も大きなものではない。


「こっち座ってください」 「あ、ありがとうございます……」


 休憩所では、負傷者達への治療が行われていた。


 ソフィアが治療術を施し、隣では護衛の小柄な女僧侶が回復魔法を使っている。


 暖かな光。


 ゆっくり閉じていく傷。


「ソフィアさん、治療もできるんですね……」 「少しだけですよ」


 そう笑う彼女から視線を逸らし、クレイスは休憩所の壁際へ背を預け、小さく息を吐いた。


 疲労を逃がすように、そっと目を閉じる。


 その時だった。


 がたっ、がたっ。


 木椅子が二つ、クレイスの前へ運ばれてくる。


「――さて」


 声に促され、クレイスは閉じていた目を開けた。


 ソフィアが満面の笑みを浮かべている。


 嫌な予感しかしない。


 彼女は片方の椅子へ腰掛け、残った一つを軽く叩いた。


「どうぞ」


 完全に尋問する側の顔だった。



「聞きたいこと、いっぱいあるんですけど」 「……だろうな」


「まず、なんで私を一目で転生者だって分かったんですか?」 「それは……」 「あと、どうしてはぐらかしたんですか?」 「……」 「それと」


 ソフィアがじっと見つめてくる。


「なんで私達、初めてなのにあんなに自然に戦えたんですか?」


 クレイスは視線を逸らした。


 完全に追及モードだった。


「……一つ、交換条件だ」 「交換条件?」 「先に、君の話を聞かせてくれ。なぜビナーに向かっている」


 ソフィアは少しだけ目を細める。


「……ちゃんと教えてくれる?」 「出来る範囲では」 「絶対ですよ?」 「善処する」


「怪しいなぁ……」


 そう言いながらも、ソフィアは語り始めた。



 ケテルへ降り立ったこと。


 冒険者として活動したこと。


 万能型ゆえに固定パーティへ馴染めなかったこと。


 街仕事を続けていたこと。


 神殿へ誘われたこと。


 僧侶見習いとして過ごした日々。


 そして。


「正式な僧侶になるための試練で、ビナーへ向かってるんです」


 そこまで聞き終えた時。


 クレイスは小さく笑っていた。


「……君らしいな」 「え?」


 ソフィアが首を傾げる。


 クレイスは少し黙り込み、やがて観念したように息を吐いた。



「俺達は、前の世界で同じギルドだった」


 ソフィアの目が見開かれる。


「え……」


「幹部メンバーだった。何度もパーティを組んで、一緒に戦った」


 クレイスは静かに続ける。


「俺は転生の時、記憶が強く残った。仲間達のことも、全部」


 だから探していた。


 転生者を。


 仲間を。


 研究員になったのも、そのためだ。


「ようやく君を見つけた。でも……」


 クレイスは苦笑する。


「君は、俺のことを覚えていなかった」


 ソフィアは何も言えなかった。


「それでも、話していると分かるんだ」


 クレイスは静かに言った。


「ちゃんと、ソフィアなんだって」



「……多分」


 クレイスは視線を落とす。


「俺だけ記憶が強いのは、“叡智の力”の影響だ」


 他の転生者達は違う。


 きっと。


 転生前の記憶は、“遠い記録”として整理されている。


 元の世界に帰りたいと思わないように。


 過去の記憶に囚われ続けないように。


 この世界で生きていこうと思わせる為に。


「最初は、それが許せなかった」


 忘れたくなかった。


 覚えていて欲しかった。


 仲間も。


 時間も。


 世界も。


「でも」


 クレイスはソフィアを見る。


「今の君を見ていると……それも必要だったのかもしれないって思う」


 過去に縛られ続ける自分。


 この世界で前に進んでいるソフィア。


 どちらが健全かなんて、考えるまでもなかった。


「だから」


 クレイスは少し照れ臭そうに笑う。


「俺も、君を見習いたいと思った」



 しばらく、沈黙が落ちた。


 中継拠点の窓の外では、世界柱から流れる水音が響いている。


 ソフィアはゆっくり俯いた。


 そして。


「……そっか」


 小さく呟く。


「私、忘れちゃってたんだ」


 悲しそうではなかった。


 むしろ。


 どこか、申し訳なさそうだった。


「ごめんなさい」


「謝るな」


 クレイスは即座に言った。


「君が悪いわけじゃない」


「でも、クレイスさんは覚えてて、私は覚えてなくて……」


「それでも」


 クレイスは静かに笑う。


「ちゃんと今、また会えた」


 ソフィアはゆっくり顔を上げた。


 その碧眼が揺れている。


「……不思議です」


「何が?」 「覚えてないのに、懐かしいんです」


 橋の上で感じた感覚。


 並んで戦った時の安心感。


 自然な呼吸。


 その全てが繋がっていく。


 ソフィアは少しだけ笑った。


「だったら、きっと本当に仲間だったんですね」


 その笑顔を見て。


 クレイスはようやく、自分の中の何かが少しだけ軽くなった気がした。

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