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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第一章 第三節〜橋上の共闘〜

 遠征調査隊が「知恵と創造の領域コクマー」を出発したのは、薄曇りの朝だった。


 大型馬車が三台。


 一台は研究設備を積んだ調査用。


 一台は補給物資や交換資材を積んだ資材用。


 そしてもう一台は、研究員達が乗り込む人員用だった。


 研究員はクレイスを含めて七名。


 それに護衛冒険者四名を加えた遠征調査隊は、ゆっくりと石畳の街道を進んでいく。


 さらに、ビナー行きの旅人として同行するソフィアの姿もあった。



 クレイスは馬車の隣を歩きながら、前方を見据えていた。


 視界の端では、ソフィアが研究員達と談笑している。


「その干し肉、薬草の匂いしません?」 「分かるか!? 保存用の調合してるんだよ」 「へぇ……コクマーって食料まで研究するんですね」 「長期遠征じゃ死活問題だからな!」


 もう打ち解けている。


 研究員達も自然と笑顔になっていた。


 それを見ながら、クレイスは小さく目を伏せる。


(……変わってないな)


 誰とでも自然に距離を縮める。


 空気を和らげる。


 場の輪郭を丸くする。


 昔からそうだった。


 だからこそ、ギルドの中心にはいつも彼女がいた。


 クレイスはその記憶を振り払うように視線を逸らした。


 話すべきではない。


 自分達が前の世界で仲間だったことも。


 同じギルドだったことも。


 全て話したところで、彼女は覚えていない。


 そしてきっと、傷つくのは自分の方だ。



 数日後。


 遠征調査隊は「白き天空の領域ケテル」地上部へ到達した。


 世界柱。


 空を支える白き巨塔。


 その根元は、雲海の上から見た時よりも遥かに巨大だった。


 白い岩肌のような外壁を、無数の水流が伝っている。


 塔の高所から流れ落ちる水は巨大な滝となり、轟音を響かせながら滝壺へ注いでいた。


「……すごい……」


 ソフィアが思わず立ち止まる。


 滝壺から続く大河は、遥か遠方へ流れていた。


 美と調和の領域ティファレトへ続く水路。


 そしてその上には、白い大橋が架かっている。


 橋の材質は、世界柱と同じだった。


 継ぎ目もなく、一枚岩のように巨大な橋。


 中央へ進めば、世界柱と滝を同時に一望できる。


 かつてこの地は、巡礼者と冒険者で賑わっていた。


 世界柱内部を攻略する者達の中継地点。


 ケテルを目指す旅人達の通過点。


 だが今では、飛空艇が空路を繋いでいる。


 残っているのは、小規模な拠点だけだった。


「……静かですね」


 橋を歩きながら、ソフィアが呟く。


「昔はもっと人がいたらしい」 「クレイスさん、来たことあるんですか?」 「研究で何度か」


 必要最低限の返答。


 ソフィアとの距離感を、クレイスはまだ決めかねていた。


 近づきすぎれば、記憶が揺れる。


 離れすぎれば、不自然になる。


 その曖昧さが、妙に疲れた。


 そんな時だった。


「止まって!」


 赤髪の女狩人が鋭く声を上げた。


 全員の動きが止まる。


「前方……橋の出口側。魔物の群れ」


 空気が張り詰める。


 クレイスは即座に前方へ視線を向けた。


 確かにいた。


 橋の先。


 黒い毛皮を持つ狼型魔物が複数。


 さらにその奥にも影が動いている。


「……多いな」


 刺激しない方がいい。


 この狭い橋では、包囲されれば厄介だ。


「一旦引き返す――」


 指示を出しかけた、その時。


「おっと、そいつぁ困るなぁ」


 後方から声が響いた。


 振り返る。


 橋の入口側。


 そこには十数人ほどの野盗達が陣取っていた。


 剣。


 弓。


 粗末な鎧。


 そして下卑た笑み。


「通りたきゃ金目のもん全部置いてけ」 「そうすりゃ命だけは助けてやる」


 研究員達が息を呑む。


 クレイスは瞬時に状況を把握した。


(……利用してるのか)


 前方の魔物。


 後方の野盗。


 挟撃。


 だが野盗側も完全に魔物を制御しているわけではない。


 だから距離を取っている。


 つまり――真正面から戦えば、野盗そのものは脅威ではない。


「クレイス!」


 騎士が低く声を掛ける。


 クレイスは即座に判断した。


「騎士、狩人、盗賊、僧侶。後方の野盗を排除しろ」 「前はどうする!?」 「俺が抑える」


 その瞬間。


「私も前に行きます」


 ソフィアだった。


 金髪を風に揺らしながら、真っ直ぐクレイスを見る。


「援護できます」 「……危険だぞ」 「後ろは四人いれば十分です。でも前は、クレイスさん一人でしょう?」


 一瞬だけ迷う。


 だが。


 クレイスは静かに頷いた。


「……分かった。無理はするな」 「はい!」



 ソフィアが足元へ小さな魔法陣を開く。


 淡い光。


 そこから白木の杖を引き抜いた。


 研究員達が息を呑む。


「収納魔法……!?」 「いや、今の一瞬で……」


 だが説明する時間はない。


 前方の魔物達が唸り声を上げた。


 クレイスは槍を構える。


 黒銀の穂先へ魔力が走る。


「――下がってろ」


 次の瞬間。


 槍の先端から蒼白い魔力が迸った。


 轟音。


 橋上を奔る雷撃。


 先頭の魔物群へ炸裂し、数体をまとめて吹き飛ばす。


「行くぞ!」


 クレイスはそのまま突撃した。


 魔術師の装い。


 だが動きは完全に前衛。


 低く滑り込むように間合いへ入り、槍を横薙ぎに振るう。


 骨が砕ける音。


 魔物が橋の外へ吹き飛んだ。


 さらに背後から別個体が飛び掛かる。


「クレイスさん、しゃがんで!」


 反射的に屈む。


 直後。


 ソフィアの放った炎弾が頭上を掠めた。


 爆ぜた火球が魔物を直撃し、そのまま橋外へ叩き落とす。


「……!」


 クレイスの目が見開かれる。


 迷いがない。


 タイミングが完璧だった。


 まるで。


(昔みたいだ)


 脳裏に過る。


 共に戦った記憶。


 背中を預けた時間。



 魔物が再び迫る。


 クレイスは魔力を纏わせた槍で貫き、そのまま蹴り飛ばした。


 だが倒れた一体がまだ生きていた。


 橋の床を滑りながら、死角から襲い掛かる。


「っ!」


 その瞬間。


 ソフィアの杖が光の粒となって消えた。


 代わりに、白銀の剣がその手へ現れる。


 一閃。


 鮮やかな軌道。


 魔物の首が跳ねた。


「大丈夫ですか!?」 「……ああ」


 クレイスは思わず笑ってしまいそうになる。


 戦士。


 魔術師。


 僧侶。


 どれも中途半端。


 だが、その全てを繋げて戦う。

 それがソフィアだった。



 橋の反対側では、護衛冒険者達も野盗を押し返していた。


 騎士が前線を固定し。


 赤髪の女狩人が矢で牽制し。


 盗賊が側面を崩し。


 小柄な女僧侶が支援する。


 その間にも、クレイスは何度も隣へ視線を向けてしまう。


 ソフィアの動きが、不思議なほど見やすかった。


「左!」


 反射的に声が飛ぶ。


 次の瞬間、ソフィアは迷いなく横へ跳び、死角から迫っていた魔物を避けた。


「っ、危な……!」


 直後、クレイスの槍が魔物を貫く。


 まるで互いの動きが分かっていたような噛み合い方だった。


 初めて共闘した相手とは、とても思えないほどに。



 ソフィアもまた、戦いながら妙な感覚を覚えていた。


(……なんだろう)


 懐かしい。


 安心する。


 この人と並んで戦うことに、違和感がない。


 むしろ。


 ずっと前から、こうしていたような気さえする。


 クレイスが前へ踏み込む。


 なら自分は後方を支える。


 彼が攻める瞬間が分かる。


 必要な援護の位置が分かる。


 それが、あまりにも自然だった。


 橋を吹き抜ける風の中。


 ソフィアは無意識に、小さく呟いていた。


「……私、この人を知ってる……?」

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