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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.45&46 ソフィア&クレイス編
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第一章 第二節〜再会は初対面のように〜

 時は少し遡る。



 金属音が響いていた。


 蒸気。歯車。回転する機構。青白い魔力灯。


 「知恵と創造の領域コクマー」は、ケテルとはまるで違う空気を持つ街だった。


 白く静かな天空都市とは対照的に、この領域は“動いている”。


 研究者が走り回り、工房では火花が散り、飛空艇用の機関音が昼夜を問わず鳴り響く。


 その喧騒の中を、黒衣の青年が歩いていた。


 緑髪。


 碧眼。


 細身の黒い防具。


 一見すれば魔術師。


 だが背負っているのは杖ではなく、長槍だった。


 クレイスは学術都市中央区の石畳を歩きながら、小さく息を吐く。


「……今日も人が多いな」


 空を見上げれば、飛空艇が雲海の上へ昇っていく。


 その先にあるのは、「白き天空の領域ケテル」。


 クレイスは飛空艇を見上げながら、胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えていた。


 その正体を、まだ自分でも言葉に出来なかった。



 彼もまた、“終わった世界”から来た存在だった。


 誰かと共に旅をするための器。


 長い旅。


 戦い。


 攻略。


 仲間たちとの日々。


 積み重ねられた時間は、いつしか器の内側へ確かなものを残していた。


 そして最後。


 静かに閉じていった世界。


 だがクレイスは、覚えていた。


 他の転生者よりも、ずっと鮮明に。


 仲間たちの名前。


 交わした会話。


 戦場。


 笑い声。


 別れ際の言葉。


 それらが、消えずに残っていた。


 だからこそ、未練になった。


 もし誰かがこの世界へ来ているなら。


 もし再び会えるなら。


 そう考えずにはいられなかった。



 転生後のクレイスは、冒険者ギルド コクマー支部へ所属した。


 情報収集のためだった。


 コクマーは知識の集積地だ。


 学者。


 星詠。


 錬金術師。


 研究者。


 交易商人。


 多くの人と情報が集まる。


 ならば、転生者について知る者もいるかもしれない。


 そう考えた。


 クレイスは強かった。


 戦士としての身体能力。


 そして魔術師としての魔力操作。


 二つを同時に扱える冒険者など、この世界でも極めて珍しい。


 槍を振るいながら魔術を放つ。


 接近戦を行う魔術師。


 あるいは詠唱する戦士。


 その異質さは、コクマーの冒険者達の間でも少しずつ知られていった。


 だが。


「パーティのお誘いだ。悪い話じゃないと思うぜ?」


「……すまない。単独の方が性に合ってる」


 クレイスは、誰とも組もうとしなかった。


 仲間を拒絶していたわけではない。


 ただ。


 今の誰かと関係を築けば築くほど、“あの頃”を思い出してしまう。


 それが苦しかった。



「研究調査員になりませんか?」


 声を掛けられたのは、ギルド支部で依頼報告を終えた直後だった。


 灰色のローブを纏った女性研究員。


 学術院所属の人物らしい。


「……俺に?」


「ええ。あなた、“戦える魔術師”でしょう?」


 クレイスは少しだけ眉を動かした。


「フィールドワークに適した人材を探しているんです。遺跡調査、魔物観測、未開領域の探索……コクマーの研究は、現場仕事も多いので」


 本来、研究者は護衛を必要とする。


 だがクレイスは、自力で戦える。


 しかも魔術知識も高い。


 研究機関にとって、これ以上ない人材だった。


 クレイス自身は、最初断るつもりだった。


 だが。


「学術院の書庫には、“転生者”についての記録もありますよ」


 その一言で、足が止まった。



 学術院の書庫は、静寂の海だった。


 高い天井。


 無数の本棚。


 浮遊灯の淡い光。


 そこでクレイスは、初めて知る。


 転生者。


 異界セフィロトへ、別世界から招かれる者達。


 彼らを導く超越存在。


 転生時に授かる適性。


 特異能力。


 数字によって分類される加護体系。


 公にはされていない秘匿情報。


 記録は断片的だった。


 だが確かに、自分達と同じ存在が過去にもいた。


「……やっぱり、俺だけじゃなかったんだな」


 誰もいない書庫で、クレイスは小さく呟いた。



研究調査員となったことで、もう一つ恩恵があった。


 工房との繋がりだ。


「つまり、“槍として扱える杖”が欲しいと?」 「逆だ。“杖として使える槍”だ」


 工房主任は盛大に顔をしかめた。


「無茶を言うな……」 「出来ないか?」 「出来る出来ないで言えば出来るが!」


 結果として完成したのは、黒銀色の長槍だった。


 一見すると戦士用武装。


 だが内部には魔力導路が刻まれており、穂先と石突の両方を起点として魔術行使が可能になっている。


 クレイスは完成した槍を静かに握る。


 不思議と、手に馴染んだ。


「……これならいける」



 そしてある日。


 研究機関から正式な遠征命令が下る。


 目的地――黒き凍土の領域ビナー。


 氷雪地帯。


 黒い岩山。


 極寒。


 調査対象は、永久凍土層下部の魔力反応。


 大規模遠征になるため、今回は研究員だけではない。


 輸送馬車。


 観測設備。


 補給物資。


 さらに冒険者ギルドから護衛も雇われた。



 顔合わせ当日。


 会議室には既に四人の冒険者が集まっていた。


 大盾を背負った騎士。


 赤髪の女狩人。


 無口そうな盗賊。


 そして、小柄な僧侶。


「今回護衛を担当する連中だ」 「よろしくー」 「……よろしく」 「道中の治療は任せてください!」


 クレイスは軽く会釈した。


「クレイスだ。調査隊の現場指揮を担当する」


 説明を始めようとした、その時だった。


「すみません。少しお話よろしいですか?」


 聞こえた声に、クレイスの思考が止まった。


 振り向く。


 金髪。


 碧眼。


 白い旅装束。


 柔らかな笑み。


 その姿を見た瞬間、クレイスの胸が強く脈打った。


(……嘘だろ)


 忘れるはずがない。


 長い時間を共に過ごした。


 同じギルドで戦った。


 あの背中を。


 ソフィアだった。


 だが彼女は、まるで初対面のように頭を下げる。


「私はソフィアといいます。ビナーへ向かう旅の途中なのですが、もし可能なら同行させていただけないでしょうか?」


 クレイスは一瞬、言葉を失った。


 だが周囲には人がいる。


 ここで不用意に転生者の話をするわけにはいかない。


 それに。


 ソフィア自身が、初対面として振る舞っている。


 ならば。


「……護衛戦力は多い方がいい」


 クレイスは静かに答えた。


「同行を許可する」


「ありがとうございます」


 ソフィアは嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔に、胸の奥がざわつく。


 覚えていないのか?


 それとも演技か?


 クレイスには判断できなかった。



 打ち合わせ終了後。


 冒険者達が去り、会議室に二人きりになった頃。


 クレイスは深く息を吸った。


「……一つ聞きたい」


「はい?」


「君は、“転生者”じゃないのか?」


 ソフィアの瞳が大きく揺れた。


「え……」


 驚愕。


 困惑。


 そして警戒。


 その全てが一瞬浮かぶ。


「どうして、それを……?」


「やっぱりか」


 クレイスは静かに目を閉じた。


 間違いなかった。


 だが次の言葉は、予想外だった。


「……あなた、私のこと知ってるんですか?」


 クレイスは目を開く。


「覚えてないのか?」


「え……?」


 ソフィアは本気で戸惑っていた。


「私は、自分が転生者だってことと……前の世界で、誰かと一緒に旅をしていたことは覚えてます。でも……」


 彼女は困ったように眉を下げる。


「あなたとは、初めて会った気がして……」


 その言葉に、クレイスは沈黙した。


 自分だけが覚えている。


 自分だけが、“あの頃”を鮮明に持っている。


 それが、こんなにも寂しいことだとは思わなかった。

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