第246章 拡張される学び舎と、広がるホテルの未来
第246章 拡張される学び舎と、広がるホテルの未来
グレン村の朝は、春の気配を帯びながらも、まだ冷たい風が残っていた。
すすむは、リゾートホテルCの開業準備と、ルーラン・マインタウン・王都のホテル群の運営状況を確認しながら、
ひとつの問題が徐々に大きくなっていることを感じていた。
――学生が足りない。
異世界ホテル学校と異世界ホテル調理学校。
どちらも開校からわずか数ヶ月で、王国中から注目される教育機関となった。
卒業生は即戦力として各都市のホテルに配属され、宿泊業界の質を底上げする存在となっている。
だが、問題はその“成長速度”だった。
グレン、ガストン、王都、ルーラン、コルセス、そして新設されたマインタウン。
ホテルは次々と建ち、運営スタッフの需要は増える一方。
既存の学生数では、到底追いつかない。
すすむは、朝のコーヒーを飲みながら、深く息をついた。
「……これは、早めに手を打たないといけないな。」
マリーが隣で心配そうに覗き込む。
「すすむさん、また何か悩んでいるのですか?」
「うん。ホテル学校の学生が足りなくてね。
このままだと、開業準備が追いつかなくなる。」
「それは大変ですね……。でも、すすむさんなら、きっと解決できます。」
マリーの言葉に背中を押され、すすむは立ち上がった。
まずは人材確保だ。
すすむは、冒険者ギルドのネットワークを使うことにした。
グレン、エレニア、ガストン、王都ドリエステ、ルーラン、コルセス――
各都市のギルドマスターへ、紹介募集の依頼を送る。
「ホテルで働きたい人材、あるいは学び直したい人材がいれば、ぜひ紹介してほしい。」
ギルバートは即答した。
「任せろ。冒険者の中にも、引退後の仕事を探してる連中は多い。
宿泊業なら、体力も経験も活かせるだろう。」
カイルも穏やかに頷く。
「エレニアでも声をかけてみます。
商業ギルドが解体されてから、行き場を失った人もいますから。」
ボルトンは豪快に笑った。
「ガストンの漁師や商人にも声をかけておくよ。
ホテルで働くのは人気があるからね!」
さらに、GOC(グレン卸売センター)経由でも募集をかける。
物流に関わる人々は、接客や管理に向いている者も多い。
すすむは、各方面からの返事を待ちながら、次の段階へ進むことにした。
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ホテル学校の校長室。
ダレス校長とミーシャ副校長が、すすむの話を真剣に聞いていた。
「――というわけで、学生数を増やす必要があります。
そこで、学校施設の拡張を考えています。」
ダレス校長は腕を組み、深く頷いた。
「確かに、現状の教室数では限界がありますな。
実習室も、調理学校は常に満杯です。」
ミーシャ副校長も資料を見ながら言う。
「学生が増えると、教員も増やさなければなりませんね。
今の人数では、指導が追いつかなくなります。」
すすむは微笑んだ。
「その点も考えています。
まずは施設を増やしましょう。」
すすむは校舎の裏手に移動し、深呼吸をした。
「ビジネスホテルD、三棟。
クラシックホテルC、一棟。」
その言葉とともに、空気が震え、地面が光に包まれる。
次の瞬間――
四棟の巨大建築物が、まるで最初からそこにあったかのように姿を現した。
ダレス校長とミーシャ副校長は、目を丸くした。
「……相変わらず、すすむさんの能力は凄いですね。」
「これだけの規模の建物が、一瞬で……。
何度見ても信じられません。」
すすむは笑いながら説明を続ける。
「ビジネスホテルDの一棟は、半分を教室に改装します。
残り二棟は学生宿舎に。
クラシックホテルCは、客室の一部を教室にして、
残りは実習用の“本物のホテル”として使ってください。」
ミーシャ副校長は、資料にメモを取りながら言った。
「これだけの施設があれば、受け入れ人数を倍にできますね。
ただ……教員が足りません。」
「その点は、すでに考えてあります。」
すすむは、ホテル従業員の名簿を取り出した。
「各ホテルで働いているスタッフの中から、
指導力のある人材を教員として派遣してもらいます。
その分の人手不足は、パート採用で補います。
予算は増額しますので、遠慮なく使ってください。」
ダレス校長は感嘆の声を漏らした。
「ここまで徹底して支援していただけるとは……。
学校としても、全力で応えねばなりませんな。」
すすむはその足で、各都市のホテル支配人へ連絡を送った。
「ホテル学校の教員として、従業員を派遣してほしい。
期間は半年から一年。
その後は、本人の希望に応じて戻ってもらって構わない。」
ガストンの青い窓亭支配人マリアンヌは、すぐに返事をくれた。
『優秀なスタッフを数名、推薦いたします。
彼らも成長の機会を喜ぶでしょう。』
王都のギルドホテル支配人も同意した。
『教育経験はありませんが、接客のプロとしてなら自信があります。』
ルーランのローレント支配人は緊張した声で言った。
『わ、私でよければ……講義もできます!』
すすむは笑って励ました。
「無理のない範囲でお願いします。
あなたの経験は、学生にとって貴重な財産になります。」
さらにすすむは、各ホテルにこう伝えた。
「中途採用者は、まずグレンのホテル学校で短期研修を受けてもらいます。
基礎的な接客、清掃、調理補助、危機管理などを学んだ上で、
正式な従業員として配属します。」
この制度により、未経験者でも安心してホテル業界に入れるようになる。
ミーシャ副校長は、資料を見ながら言った。
「これなら、経験者も未経験者も、同じ基準で育成できますね。
ホテル全体の質がさらに上がります。」
すすむは、最後にもう一つの方針を示した。
「しばらくは、ロボットが従業員の“ビジネスホテルE”を中心に、
新規開業を進めます。
人手不足を補うための暫定措置ですが、
その間に人材育成を進めましょう。」
ダレス校長は深く頷いた。
「人が育つには時間が必要ですからな。
ロボットホテルがあるのは心強い。」
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夕方、すすむは校舎の屋上から、拡張された学校施設を眺めた。
ビジネスホテルDの三棟は、夕陽に照らされて輝き、
クラシックホテルCは、まるで王都の迎賓館のような風格を放っている。
マリーが隣に立ち、静かに言った。
「すすむさん……すごいですね。
こんなに大きな学校になるなんて。」
「僕一人の力じゃないよ。
みんなが協力してくれるから、ここまで来られたんだ。」
マリーは微笑んだ。
「でも、すすむさんがいなければ、始まりませんでした。」
すすむは照れくさく笑いながら、遠くの山々を見つめた。
ホテルは増え続ける。
街は発展し続ける。
人は集まり、学び、働き、未来を作っていく。
その中心に、自分の作った“仕組み”がある。
「……よし。まだまだやることは山ほどある。」
すすむは拳を軽く握った。
急速に拡大するホテルグループに対し、
彼は今日も、最善を尽くすのだった。




