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第243章 戦の余韻、王都への報告

第243章 戦の余韻、王都への報告


国境の戦いが終わった午後。

すすむは、ヘリのローター音が静まるのを待ちながら、深く息を吐いた。


(……終わった。けれど、まだ終わりじゃない)


胸の奥に残る重さは、戦いの余韻というより、これから向き合うべき現実の重みだった。


「すすむさん、準備できています」


フランが声をかけてきた。

彼女の表情には疲労が滲んでいたが、その瞳はまだ鋭く、戦場を見据える者のままだった。


「じゃあ、行こう。帝国側の様子を見ておきたい」


すすむは頷き、ヘリに乗り込んだ。


ヘリはゆっくりと上昇し、シーラス国境検問所を越えて帝国領へと進んでいく。


すすむは窓の外を見つめた。


つい数時間前まで、帝国兵がひしめいていた街道沿いのテント群。

しかし今は、まるで人が消えたかのように静まり返っていた。


「……誰もいない」


すすむは思わず呟いた。


テントはそのまま残されている。

焚き火の跡、散乱した荷物、急いで撤退した痕跡。

だが、兵士の姿はほとんど見えない。


「帝国兵は……ほぼ壊滅したようですね」


フランが双眼鏡を覗きながら言った。


「街道をこちらに向かってくる者もいません。

あの町に戻った者も、ほとんどいないようです」


遠くに見える帝国側の町。

そこにも人影はまばらで、昨日までの緊張感が嘘のように静かだった。


すすむは胸の奥に安堵が広がるのを感じた。


(……守れたんだ)


(あの数の兵を前にしても、みんなが踏ん張ってくれた)


すすむはヘリを旋回させ、国境へ戻ることにした。


シーラス国境検問所に戻ると、トーソン警備隊長が待っていた。

すすむがヘリから降りると、隊長は深く頭を下げた。


「すすむ殿……偵察の報告、聞かせていただけますか」


すすむは帝国側の状況を簡潔に説明した。


「テントは残っていますが、兵の姿はほとんどありません。

街道にも動きはなく、町も静かでした。

帝国側は……ほぼ撤退したと見ていいと思います」


トーソンは大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


「……そうですか。

本当に……本当に助かりました」


すすむは首を振った。


「守ったのは皆さんです。

僕は……その手助けをしただけです」


フランが横から口を挟んだ。


「局長と王都に報告する必要があります。

私とクリスはグレンに戻って、局長に報告します」


「わかった。僕は王都へ向かうよ」


トーソンは改めてすすむに礼を述べた。


「どうか……お気をつけて」


すすむは頷き、ヘリに乗り込んだ。


夕暮れの空を切り裂くように、ヘリはグレンへ向かった。

空はすでに暗く、街の灯りが宝石のように輝いている。


グレンのヘリポートに着陸すると、フランとクリスが降りた。

そのタイミングで、DIAグレン支部の建物からアーリッシュ局長が姿を現した。


「すすむ殿……無事で何よりです」


「局長、帝国軍は撤退したようです。

フランとクリスから詳しい報告をお願いします」


「承知しました。

すすむ殿は……王都へ?」


「はい。国王に直接報告してきます」


局長は深く頷いた。


「どうかお気をつけて」


すすむは再びヘリを上昇させ、夜空へと飛び立った。


王都に着いた頃には、すでに夜も更けていた。

城の中庭は国王の許可を得ているため、ヘリの着陸が可能だ。


ヘリの音に気づいたのか、政務官が慌てて中庭へ駆け寄ってきた。


「すすむ殿!? こんな時間に……!」


すすむはヘリから降り、簡潔に状況を伝えた。


「帝国兵は約六千。

シーラス国境検問所に攻め込んできましたが……

王国側はほぼ無傷で撃退しました」


政務官は目を見開き、顔色を変えた。


「六千……! すぐに王へお伝えします!」


深夜にもかかわらず、政務官は走って城内へ戻っていった。


すすむはその場で待つこと数分。

やがて政務官が戻ってきた。


「王が……非公式で構わないので、すぐに謁見したいと」


すすむは頷き、政務官に案内されて王の私室へ向かった。


王は寝間着姿のまま、椅子に腰掛けていた。

眠そうな目をしていたが、すすむを見ると姿勢を正した。


「……遅い時間にすまないな。

報告を聞かせてくれ」


すすむは深く頭を下げ、戦況を説明した。


帝国軍の規模。

砦での攻防。

谷間の防衛線。

帝国側の撤退。

王国側の被害がほぼゼロであること。


王は黙って聞いていたが、報告が終わる頃には目が冴えていた。


「……よくぞ守ってくれた。

本当に……感謝する」


すすむは首を振った。


「守ったのは兵士たちです。

僕は……その手助けをしただけです」


王は政務官に目を向けた。


「至急、軍務卿と政務本部を招集せよ。

帝国への対応を協議する」


政務官は慌てて部屋を飛び出していった。


王はすすむに向き直り、柔らかく微笑んだ。


「今日は……この城に泊まっていくがよい。

上級執事に部屋を用意させよう」


「ありがとうございます」


王は立ち上がり、すすむの肩に手を置いた。


「本当に……よくやってくれた」


そう言い残し、王は部屋を後にした。


上級執事に案内された部屋は、古風だが落ち着いた雰囲気だった。

大きなベッドが二つ、奥には浴室もある。


「こちらでお休みくださいませ。

お湯はすでに沸かしております」


すすむは礼を言い、マリーに声をかけた。


「マリー、先に風呂に入ってきて」


「はい。すすむさんは……?」


「ちょっと休むよ」


すすむはソファに腰を下ろした。

戦いの緊張が解けたせいか、身体が急に重くなる。


(……今日は長い一日だったな)


マリーが浴室へ向かう音を聞きながら、すすむは目を閉じた。


気づけば、深い眠りに落ちていた。

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