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第242章 砦の朝、始まる侵攻

第242章 砦の朝、始まる侵攻


すすむは、遠くで響く低い衝撃音に目を覚ました。

胸の奥にざわりとした不安が広がる。

寝起きの頭が状況を理解するより早く、身体が勝手に動いていた。


「……今の音は?」


すすむはホテルの部屋を飛び出し、階段を駆け上がって屋上へ向かった。

冷たい朝の空気が肌を刺す。

まだ太陽は山の向こうに隠れ、薄暗い空が国境の影を濃くしていた。


屋上に出た瞬間、すすむは息を呑んだ。


国境の砦――その向こう側で、白い煙が立ち上っていた。

帝国側の巨大な扉が開き、兵士たちが慌ただしく動いている。

そして、こちら側の扉の前には、黒い塊のようなものが置かれていた。


(……爆薬だ)


すすむが理解した瞬間、二度目の爆発が起きた。


轟音が山々に反響し、地面が震える。

白い煙が扉を覆い、破片が飛び散った。


「……始まったのか」


すすむは呟いた。

その声は、朝の冷気に吸い込まれていった。


砦の前には、すでに装甲車Bが複数台並んでいた。

重厚な車体が扉に向けて構えられ、兵士たちが緊張した面持ちで配置についている。


すすむは急いでヘリを出し、上空から状況を確認することにした。


「フラン、クリス、準備できてる?」


「はい、谷の方に俺は偵察に行くっす。」


「私は、砦の方を確認します。」


「すすむさん、気をつけてくださいよ」


すすむとマリーを乗せたヘリは、ゆっくりと上昇した。


上空から見下ろすと、砦の扉は半壊し、白煙が立ち込めている。

その中から、剣を掲げた帝国兵が次々と飛び出してきた。


(……本当に来たんだ)


すすむの胸が締めつけられる。


砦の前線では、トーソン警備隊長が兵士たちに指示を飛ばしていた。


「落ち着け! 隊列を崩すな! 前方、距離を保て!」


装甲車Bの上部に設置された重火器が、砦の扉に向けて構えられている。

兵士たちは息を呑み、引き金に指をかけた。


白煙の中から、帝国兵が叫び声を上げながら突撃してくる。


「前方、来るぞ!」


トーソンの声が響いた瞬間、前線が動いた。


装甲車Bの重機関銃が火を噴き、攻め込んできた帝国兵に対し制圧射撃が行われる。

王国兵士たちも訓練で学んだ通り、距離を保ちながら応戦した。


すすむは上空からその光景を見つめていた。

胸が痛む。

自分が提供した車両が、今まさに“戦い”の場で使われている。


(……でも、守るためだ)


すすむは自分に言い聞かせた。


帝国兵は次々と倒れていく。

しかし、向こう側からは新たな兵が途切れることなく現れた。


「数が……多いな」


フランが低く呟く。


「でも、押し返せてる。隊長たちが踏ん張ってる」


クリスが前線を見つめながら言った。


その時、砦の向こう側から再び爆発音が響いた。

黒い煙が上がり、砦の周囲に破片が飛び散る。


「爆弾か……!」


すすむは歯を食いしばった。


帝国兵が投げ込んだ原始的な爆発物が、砦の周囲に煙幕を作り出していた。

視界が悪くなり、前線の兵士たちが咳き込みながらも応戦を続ける。


「煙に惑わされるな! 距離を保て!」


トーソンの声が響く。


兵士たちは煙の中でも訓練通りに動き、装甲車Bの支援を受けながら前線を維持した。


すすむは上空から見守ることしかできなかった。


(……どうか、無事で)


戦いは四時間続いた。


帝国兵の突撃は次第に弱まり、やがて完全に止まった。

砦の前には、倒れた兵士たちが山のように積み重なっている。


すすむはヘリを低空に下げ、状況を確認した。


「……帝国側の動きが止まってる」


フランが双眼鏡を覗きながら言った。


帝国側の門は閉ざされ、テントの周囲を動く兵士の数も激減している。

昨日までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。


「谷の方も見に行こう」


すすむはヘリを谷間へ向けた。


谷間の防衛線では、装甲車Bが壁の破壊された地点に配置されていた。

爆薬で壊された壁の向こう側には、帝国兵の姿がほとんど見えない。


「……ここも、押し返せたのか」


すすむが呟くと、地上で誰かが大きく手を振っているのが見えた。


「クリスだ」


フランが笑った。


すすむはヘリを降下させ、クリスの近くに着陸した。


クリスは汗だくの顔で、しかし満面の笑みを浮かべていた。


「すすむさん! 見てくださいっす!

こっちはほとんど突破されませんでしたっす!」


「……よかった。本当に、よかった」


すすむは胸を撫で下ろした。


谷間の王国兵士たちも疲れ切っていたが、表情には安堵が浮かんでいた。


「帝国兵は?」


「ほとんど撤退したみたいっす。

もう攻め込んでくる帝国兵がいないっす。」


すすむは空を見上げた。


(……守れたんだ)


(みんなが……守ってくれたんだ)


胸の奥に、じんわりと温かいものが広がった。


こうして、午前中のうちに帝国軍の攻撃は完全に止まり、

王国は――グレンは――防衛に成功した。


すすむはヘリの中で深く息を吐いた。


その瞼の裏には、砦を守り抜いた王国兵士たちの姿が焼き付いていた。

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