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第241章 すすむの決断

第241章 すすむの決断


すすむは、深く息を吐いた。

胸の奥に重い石が沈んでいるような感覚が続いていた。


(……どうするべきなんだろう)


夜行バス、雪上車、そして今回のレベルアップで手に入れた装甲車A・B。

どれも本来は、すすむが“誰かの生活を支えるため”に使いたいものだった。


だが、現実は違う方向へ進みつつある。


「おれは、ホテルマンだ。できれば戦いの場に遭遇したくない。いや、避けたい」


すすむは小さく呟いた。

しかし、目の前の状況は、そんな願いを許してくれない。


フランの報告では、シーラス国境検問所の向こう側――

ザルストツカ帝国側には、すでに五千を超える兵が集結しているという。


対して、こちらの兵は二千ほど。


(……数が違いすぎる)


帝国側には国境近くに大きな町があり、そこに常駐していた兵がすぐに動員されたらしい。

さらに夜行バスを使って国内から兵を集めているため、増援の速度が異常に早い。


すすむはヘリで定期的に国境を訪れていたが、上空から見る帝国側の光景は日を追うごとに変わっていった。


急ごしらえのテントが無数に並び、兵士たちが整列し、訓練し、待機している。

その数は、見るたびに増えていた。


(……もし、あの兵が一斉にこちらへ押し寄せたら)


想像するだけで、背筋が冷たくなる。


(王国は……グレンは……どうなるんだ?)


すすむは、決めなければならなかった。


逃げるのか。

見て見ぬふりをするのか。

それとも――


(……守るために、動くのか)


すすむはゆっくりと立ち上がった。


「フラン、クリスを呼んでくるよ」


翌朝。

すすむはフラン、クリスと共にヘリでシーラス国境検問所へ向かった。


上空から見える帝国側の光景は、前回よりもさらに圧迫感があった。

テントの数は倍以上に増え、兵士の列は地平線の向こうまで続いているように見える。


「……三倍どころじゃないな」


すすむが呟くと、フランが険しい表情で頷いた。


「はい。帝国は本気です。

この数は、単なる威嚇ではありません」


クリスも珍しく真面目な顔をしていた。


「すすむさん……俺たち、やるしかないっすね」


すすむは小さく頷いた。


ヘリが着陸すると、トーソン警備隊長が駆け寄ってきた。


「すすむ殿、よく来てくださいました!」


すすむは挨拶を返し、すぐに本題へ入った。


「装甲車Bを見せたいんです。

それと……これに搭載されている装備の扱い方も」


トーソンの表情が引き締まった。


「……承知しました。すぐに広場を確保します」


すすむは装甲車Bを出現させ、警備隊の前に並べた。

重厚な車体が並ぶ光景に、兵士たちは息を呑んだ。


「これが……すすむ殿の新たな“乗り物”ですか」


トーソンが驚きの声を漏らす。


すすむは頷き、車両の外観と特徴を説明した。

兵士たちは真剣な表情で耳を傾けている。


「この車両は、荒地でも安定して走れます。

そして……防御力が高い。

中にいる人を守るためのものです」


すすむは“武器”という言葉を使わなかった。

使いたくなかった。


しかし、兵士たちは理解していた。

これが“戦いに備えるためのもの”であることを。


フランがすすむの横に立ち、補足する。


「帝国の兵力は、こちらの三倍以上です。

正面からぶつかれば、押し切られます。

ですが、この車両があれば……守れる場所が増えます」


クリスも続けた。


「俺たちが守ります。

すすむさんが作ったものを、絶対に無駄にはしません」


すすむは二人の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


その後、すすむは装甲車Bの操作方法や装備されている重機関銃やライフル、手りゅう弾等の武器の説明をした。

兵士たちは真剣にメモを取り、質問を繰り返し、理解しようとしていた。

デモを行い、こちらの兵士にも、兵器の使い方を試してもらう。


あまりに物破壊力に訓練を受けた兵士は驚き、これなら、と自信を取り戻す。


トーソン隊長はすすむの説明を聞き終えると、深く頭を下げた。


「すすむ殿……この車両があれば、我々は戦える。

いや、“守れる”。

本当に感謝します」


すすむは首を振った。


「守るのは皆さんです。

僕は……その手助けをしているだけです」


トーソンは力強く頷いた。


「では、この国境警備所に二十台。

谷間の防衛線に四十台を配備しましょう」


すすむは同意した。


兵士たちはすぐに訓練に入り、雪上車を使って谷間へ移動し、装甲車Bの配備を進めていった。


すすむはその様子を見守りながら、胸の奥に複雑な感情が渦巻くのを感じていた。


(……本当に、これでいいのか?)


(僕はホテルマンだ。

人をもてなし、安心して眠れる場所を作るのが仕事だ)


(なのに今は……)


すすむは空を見上げた。

曇り空の向こうに、帝国の影が広がっているように感じた。


(でも……守らなきゃいけない)


(グレンを。

ここで暮らす人たちを。

僕の作ったものを信じてくれる人たちを)


すすむは拳を握った。


(逃げない。

僕は……僕にできることをやる)


装甲車Bの配備が完了した二日後。


その日は、朝から空気が重かった。

風が止まり、森のざわめきも消え、国境全体が静まり返っていた。


すすむはヘリで国境へ向かっていたが、途中でフランが低い声で言った。


「……すすむさん。

あれを見てください」


すすむは窓の外を見た。


帝国側のテント群が、一斉に動いていた。

兵士たちが整列し、旗が掲げられ、長い列が街道へ向かって伸びていく。


すすむは息を呑んだ。


「……進軍が、始まったのか」


フランは静かに頷いた。


「はい。

ついに……ザルストツカ帝国が動きました」


クリスが拳を握りしめる。


「すすむさん……俺たち、やるしかないっす」


すすむは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


(……来たか)


(避けられないなら、向き合うしかない)


すすむは前を向いた。


「行こう。国境へ」


ヘリは加速し、国境線へ向かって飛んでいく。


王国と帝国の運命が、静かに動き始めていた。

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